#29 忘れもしない瞳
しばらく沈黙が続く。どうしたら彼にわかってもらえるのだろうか。
少し考えてみたけど、その思い浮かぶ説明は端々から打ち捨てられる。だって彼が言うことも、わかるし正論だとは思うからだ。
だけどそれでも僕は、この世界を救いたい。少しでもこの闇にまみれた世界に、光を差し込ませたい。
「そんな目をするな」
「え?」
対面したまま硬直状態に陥ってた僕らだったけど、アシュタロスさんが視線をそらすことでそれは終わった。
まるで自分の方を覗き込まれないように、僕の頭の上に手を置いている。上から押さえつけられているから、僕がどんなに力を入れても動けない。
「そのいかにも意見を曲げないという目を見ていると、何を言っても無駄なんだろうと思い知らされる」
「はぁ……」
「なら一つ、約束しろ」
「約束ですか?」
「無茶はするな。一人で抱え込むな。周りを頼れ」
「一つじゃないですよ?」
「そこにはつっこむな。とにかく、自分のことを第一に考えろ。ほかのやつらは二の次でいい。お前に代わりはいない。もちろんこの世界にもそうだが、お前がいた世界でもそうだろう?お前には、帰るべきところがあるんだ……それを……忘れるなよ」
そう言って彼はそのまま中庭の奥へと姿を消してしまった。
柔らかくて暖かくて優しい気。彼が触れた頭に、それがほんのり残っている。
彼の言ったことが、わかるようでわからない。それがなぜなのか、今は考えつくことは、難しい気がした。
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「あの目は……好きじゃない」
澄んだ空の色を、そのまま写した色すら同じ。そしてその瞳に持つ光もまた……。
「同じでは……ないな」
自身の家に戻ったアシュタロスは、草木生い茂る庭の奥に体をそのまま投げ出した。鮮やかな緑色の芝の上で、アシュタロスは静かに黄金色の瞳を開く。
眼前に咲く白い花は、風もないこの空間で凛と地面にうわっている。その花を揺らすように、アシュタロスはふぅっと息を吹き出した。
花が揺れたとたん、それは光の胞子になりあたりに舞い上がりすぅっと、空中に溶け込んだ。
「お前の仕業か。来るなといっても、来るんだからな」
草を踏みしめる音がし、その場に現れたのは一匹の黒猫。体を起こしたアシュタロスの方へ、悠然と歩いていく。
「おかげで、闇分子が入り込んだ」
「すぐに戻したんだろう?俺がどこに現れようと、俺の勝手だろうが。母屋の窓が空いていたぞ、無用心なことだ」
黒猫が話し出すが、特に驚くこともない。この猫はこれが普通なんだ。
「ここに侵入しようという奴がいるか?バカバカしい、無駄なことだ。お前以外に、そんな無駄なことする奴がいるか」
「相変わらず、口が悪いやつだな。今日の件、忘れてないだろうな?」
「いつも通りやっておく。お前じゃあるまいし、忘れるわけないだろう」
その言葉を聞くと黒猫は、そのまま元来た道をもどっていった。そのあとゆっくりと立ち上がった彼もまた、仕事を片付けるために母屋へと戻った。




