#26 狂った闇人
少し残酷な表現があります。
一直線に迫る黒い手。悲鳴すら上げる暇もなく、掴まれる。
――――と思っていたのに、それは一向に訪れはしなかった。
「僕の姿を模すとは……趣味が悪いね」
「セ……セーレさん?」
「今度は本物だよ。怪我はないね?」
にっこりと優しい笑みを浮かべ、僕を抱えているセーレさんに僕はしっかりうなづいた。
もうだめだと思った瞬間、僕は突如現れた手によってその場を躱すことができた。そしてその手の主はほかならぬセーレさん。この時ばかりは、セーレさんの瞬間移動の能力に感謝します
僕を抱えるセーレさんを追うように、偽物のセーレさんの腕が追いかけてくる。
さっきはそんな余裕もなくて、わからなかったけど本当に腕が伸びていた。うねうねと動くそれは、空中のあちこちに移動し続けるセーレさんを追いかけている。
「ヨコセ……ヒカリ……ジャマ……コワスヒカリ」
不気味なほど同じことを繰り返し続けるその存在は、充分離れていても恐怖を抱くほどだ。
「あれは……なんなんですか?」
「さぁ……僕も初めて見る。魔獣とは……また違うみたいだね」
「狙われてるのは……僕ですよね」
「だろうね。多分、この前のつららもあいつか……その仲間がいたら仲間の仕業だろうね。まさかこんなにも大胆に姿を現すなんてね。本当に、気に食わないな」
すると下のほうで、地面に積もっていた雪が、吹き上がった。それはちょうど僕らの真下で、危うくその雪に飲まれるところだった。
うまくセーレさんが躱し、それからその方を見る。そこにいたのはあの偽物セーレと、それに槍を振り下ろしたアモンさんだった。彼らのいるところは、先ほどので雪がなくなり、茶色い土が丸になって見えている。
「ハナセ!!ジャマ、スルナ!!」
「お前はなんだ?なんでノエルを狙う?」
槍で偽セーレを地面に押さえつけながら、アモンは問いかけた。地の底から聞こえてくるような不気味な声で、喚くそれは抜け出そうと暴れている。腕を伸ばしアモンに掴みかかってくるが、それを炎で器用に弾く。
「ヒカリキライ!ヒカリイヤダ!ヒカリコワス!アイツハヒカリ!!ヒカリ、ニクイノ―――――!!」
「っ――――カハッ?!」
「アモンさん!!」
狂ったように叫びを上げ、それに一瞬虚をつかれたアモンさんに隙が生まれた。そして伸びてきた腕が背後から、アモンさんの腹部に突き刺さった。
「ごふっ!ぐぁ……っ」
「ジャマスル、シネ!ヒカリマモル、ユルサナイ!ヒカリ!クルシイ!キライキエロ!!」
「っ……ふざけるなっ!消えるのは……お前だ!!」
「ヒカリヒカリヒカリ!!ぎゃああああ――――!!!!!」
突き刺されつつ、アモンさんは槍をそのまま下にある偽セーレの頭部へと振り下ろした。その瞬間、セーレさんが僕の目を塞いだ。でもしっかりと突き刺さる時の音が、なぜかはっきりと聞こえた。
辺りにこだまする断末魔は、しばらくの間耳に残った。
赤く染まった雪の上に、アモンさんは力尽きたように倒れ込んだ。僕はセーレさんと一緒に、慌ててその方に駆け寄る。うつ伏せに倒れていた彼を仰向けにし、その傷の深さに思わず息を飲んだ。
腹部に空いた大きな穴。僕の腕が数本入ってしまうような、そんな穴が空いていた。あたりに染み出す出血が、その傷が致命的なものだと知らしめている。
「アモンさん!!しっかりしてください!!」
このままじゃ、危ない。僕は彼の傷の上に手をかざすと、治癒の力を使う。悪魔を治したことはないから、うまくいくかわからないけど、死なせたくなんかない。




