そして 異形は異界の神の元へ
大きな入口から、吹き込む風。
はらり、と。開いていた本の頁が捲られる音に、浅いまどろみから意識を浮上させ。
長い金の髪の青年は、上体を起こし、周囲を見回す。
そして、ふ、と視界に収めたのは、黒。
――――――奇跡の様に、うつくしい。人型。
「………………マスター」
「うん?起きたの?」
声を掛ければ応えが返る。文字を追っていた目は金の青年を映して。其の色は何処までも一色の、黒炭を割った断面の様な色だ。
「………………猫は?」
「イヤ猫じゃないからねアイツ。アレでもれっきとした銀天琥でメーレって名前があるからね」
「………………………………猫は?」
「だから………………や、もーイイ。メーレならハラ減ったってごはん調達しに行ったよ」
「…………主を、残して?」
「1人(?)でもじゅーぶん狩れるっしょアイツなら」
何度言っても呼び方を変えぬ、金の青年に黒の青年は溜息零しつつ質問に答え。
同時に、ぱたん、と閉じた書に。其れが合図の様に、金の青年は黒の青年へとにじり寄った。
そして、懐く様に黒の青年の腰に巻き付けられる、腕。
「おろ?どしたの?」
「…………解っていない」
「ダレがナニを?」
「…………あの猫が。主を守らなければ、ならないのに」
「や、こんなトコで、ナニからおれを守ると」
「…………主も主だ。一人になるなら、オレを起こせ」
「いや、だからだね」
緑深い森の奥。
茂みに隠れた洞窟の中。
脚の上に上体を乗り上げて、機嫌悪く其れでも離れようとしない彼の方こそ猫の様。喉を擽れば本当に、ごろごろと鳴きそうだ。
流石に其れは拙いだろうと、黒の青年は金の青年の髪を梳くだけに留める。
其の手が、ぴくり、と。動きを止めた。
気付いた金の青年も。剣呑な目を入口に向ける。
「戻ってきたみたいだねー」
「…………全く、一体何を狩って来たんだあの猫は」
近付いて来るのは血の香り。夥しい、と。解る程の。
「けっこーな大物みたいだねぇ。今日は一体ナニを作らされるやら」
「…………魔獣なんだからそのまま食ってれば良いものを」
「あはー。でもま、やっぱりごはんは美味しく食べたいっしょ?」
「…………腹に入れば何だって同じだ」
「いやいやいや。ソレはチミ人生の半分を損し――――――」
「まーぬーーーー!!まぬまぬまぬまーぬーーーー!!」
静かに穏やかに。
交わされていた会話は名を連呼する慌ただしい声に、遮られた。
金の青年の片眉がぴくりと上がる。黒の青年は対照的に、小さく苦笑をもらして。
「マヌ!マヌ!見てくれっコレコレ!!」
がさがさと、茂みを掻き分け乱入して来た、銀の毛並みのうつくしい獣に、2人、目を向ける。
「…………喧しいぞ、猫」
「そんな慌てて、一体ナニ見つけて来た、って……の、さ…………」
其の、黒の目と蒼の目が、見開かれた。
視線の先。銀の獣の背に。くたりと担がれているのは、黒。
随分とみすぼらしく見える、血で汚れた黒い翼。
力無く投げ出された手は病的な程に白く。顔を隠す長い髪もまた、この世界には稀有な、漆黒。
そして、何より。
「なあなあ、マヌ。コレってアレだよな?鳥人ってヤツだよな?」
「…………違う猫。鳥人の持つ翼は一対のみだ。そして黒の翼は、堕天族しか持たない」
「えっじゃあコイツ堕天族なのか?」
「………………其れも、違う。堕天族も持つ翼は一対のみだ。そして奴等に角など無い」
「………………じゃあ、コイツ何だ?マヌとおんなじか?」
「――――――………………いや。このヒトは魔物だよ」
黒の青年の言葉に。
獣の金の目と金の青年の蒼の目が、集中した。
けれど黒の青年は、其の事に頓着せず獣の連れて来た異形を、見詰める。
黒かった筈の其の虹彩は、徐々に薄く赤と青と金と銀とに、彩られていき。
「このヒト、魔物だ…………しかも。元人間の、魔物だ」
どーしたら上手く物語を構成して上手く文章書けるんだろう…
再び充電に入ります。探さないでクダサイ。