最終話(第33話・劇場版特別編):遅れてきた『光の勇者パーティー』と、身長149センチの『ドルチェ・ゴブリン・エンペラー』!
魔王ヴァルガロスが塵ひとつ残さず消滅し、かつての暗黒の居城が『ゴブ&ハルトの帝国大チョコレート城』へと生まれ変わってから、さらに数日が経った昼下がりのことだった。
甘く芳醇なカカオの湯気が立ち込める1階の大製菓フロアでは、真っ白なエプロンと背の高いコック帽を被った元・魔王軍の猛者たちが、今日も朝から大忙しで働いていた。
『おい新入り! 第3大釜の湯煎温度が35・2度に上がってるぞ! 鼻息を止めろ、上のゴブ様に気づかれたら尻尾をバールでひっぱたかれるぞ!!』
体長十メートルの凶悪な古代火竜のコック長が、涙目で温度計を睨みながら部下の火竜たちを怒鳴りつけている。
その遥か頭上――かつて骸骨の玉座があった一番高い壇上の『出来立てホットチョコレートの噴水プール』のど真ん中で、身長百三十五センチの無敵の【ゴブリン・ゴッド(小鬼神)・レベル100】であるこの俺様は、頭の上のドーナツ型の黄金の光輪をキラキラと輝かせながら、極楽気分で仰向けにプカプカと浮かんでいた。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァァァーッ!!
(ふははははははっ!! 沼地で泥水をすすりながら苦い甲虫を齧っていたのが嘘みてえだぜ! おい、そこのコック帽のデカトカゲども! もっと腰を入れてうちわで仰げ、甘い湯気が俺様の鼻先まで真っ直ぐ届かねえぞ!!)
俺がパンパンに膨らんだ緑色の腹をポンポンと叩いてご満悦だった、まさにその時だった。
――ドゴォォォォォォォォンッ!!
城の正面入り口の分厚い黄金の両開き扉が、眩い光の斬撃によって外側から豪快に吹き飛ばされた!
開け放たれた扉から冬の冷たい外気が一気に流れ込み、白いマントを翻した三人の人間――輝く白銀の鎧に身を包んで『聖剣』を構えた金髪の青年と、祈りの杖を持った『聖女』、そして冷気を纏う『氷結の女魔導士』が玉座の間へと突入してきたのだ!
「覚悟しろ、邪悪なる魔王ヴァルガロス!!」
先頭に立つ金髪の青年――【光の勇者・アーサー(レベル75)】が、聖剣の切っ先を高く掲げて凛々しく叫んだ。
「三年に及ぶ過酷な旅の果てに、ついに我ら『光の勇者パーティー』がこの魔王城へ辿り着いたぞ! 今日こそ貴様の暗黒の支配を終わらせ……えっ?」
勇者アーサーの言葉が、途中でピタリと止まった。
骸骨の山と血の海が広がっているはずの玉座の間が、なぜか甘く芳醇な香りと茶色いクリームの大釜で埋め尽くされていたからだ。
しかも、アーサーが次の言葉を口にするより早く、大釜の前にいた三頭の巨大な『火竜(レベル60)』たちが、この世の終わりみたいな悲鳴を上げて頭を抱えた!
『ぎゃあああああああっ!! だ、誰だ今、正面の扉を開けっ放しにしやがったのは!!』
『外の冷たい隙間風が入ってきて、湯煎のお湯が35度から「34度」に下がっちまったぞォォォ!! 鍋の縁のチョコレートが固まったら、上のゴブ様にバールでミンチにされるうううっ!!』
一撃で街を焼き払うはずの伝説の火竜たちが、コック帽を押さえながらポロポロと大粒の涙をこぼし、上の噴水プールに浮かぶ俺の方をチラチラと見てガタガタ震え始めたのだ!
それを見た勇者アーサーは顔面蒼白になり、聖剣の柄を握る手を戦慄させた。
「ば、馬鹿な……!? あの誇り高き地獄の古代火竜たちが、エプロンを着せられて、お湯の温度がたった一度下がっただけで泣きながら震えているだと……!?」
アーサーはゴクリと唾を飲み込み、黄金の噴水プールから顔を覗かせた俺の黄色い目と視線を合わせた。
「あ、あのちっぽけな緑の肉体から放たれる、底なしの神話級の威圧感……間違いない! ――どんなに姿形を変えて小鬼のフリをしようと無駄だぞ、魔王よ、俺にはお前が分かる!! 貴様、三メートルの巨体をわざと百三十五センチに圧縮して、残虐性と魔力を極限まで凝縮しやがったな!!」
俺は口に含んでいたホットチョコレートをプッと吹き出し、噴水プールの縁に仁王立ちになって、下の騒がしい金髪人間に【捕食鑑定】を発動した。
――――――――――――――――――――
【種族:人間(光の勇者:アーサー)――レベル:75】
【装備:光の聖剣/白銀の聖騎士鎧】
【精神状態:暴走する正義感・重度の勘違い】
――――――――――――――――――――
(……ゴブ? なんだこの扉を壊して冷たい風を入れやがった金髪のモヤシ野郎は!? しかも誰が魔王だコラァ、あの角生やしたケチな魔王なら一週間前に俺様がバールで塵にしてやったわ! さてはてめえら、俺様のホットチョコレートのプールを盗みに来た『秘宝泥棒』だな!?)
俺が鼻息を荒くしていると、大釜の後ろから、俺様の『永久カロリーの相棒』であるハルトが、黄金の泡立て器と白金のヘラを両手に持ってひょっこりと顔を出した。
ハルトの白いエプロンと頬には、跳ねたダークチョコレートがべっとりとくっついていた。
「あれ、お客さんですか!? いらっしゃいませ!」
ハルトは目のガラス(メガネ)の奥の瞳を輝かせ、人懐っこい笑顔で手を振った。
「みなさんも世界の平和をお祝いに来てくれたんですね! 怖がらなくて大丈夫ですよ、あの上にいる緑色の可愛い子は、僕の一番の親友のゴブです!」
だが、黒い液体まみれのハルトの姿を見た瞬間、勇者パーティーの『聖女』が両手で口元を覆って悲鳴を上げた!
「ああっ、アーサー様、あの哀れな人間の少年を見てください! 全身にどす黒い煮えたぎった血と泥を浴びせられて、奇妙な網の棒を持たされていますわ!」
「なんという外道だ、魔王め……!!」
勇者アーサーは怒りに肩を震わせ、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「自分自身は赤ちゃんの前掛けみたいな赤いマントを着てぬるま湯に浸かりながら、いたいけな人間の少年を人質にとって強制労働させているのか!!」
「えっ、人質!? ち、違いますよ、僕は囚人なんかじゃありません!」
ハルトは慌てて首を横に振り、誇らしげに胸を張って答えた。
「僕とゴブは魂の友情で結ばれた最高の相棒なんです! 僕はゴブが大好きだから、自分の意思で毎日ゴブのためにチョコレートを作っているんですよ!」
「黙るんだ、哀れな少年よ!!」
アーサーの瞳から、熱い同情の涙がこぼれ落ちた。
「自分をこき使う化け物を『親友』と呼んで笑顔を浮かべるなんて……間違いない、これは魔王の邪悪なる魔法【SSSランク・精神支配(洗脳)の呪い】だ!! あまりの恐怖に心を壊され、脳みそまで操られてしまっているんだな! だがもう安心しろ、少年! 今すぐ我らの聖なる光と絶対零度の氷魔法で、お前の洗脳を解いてあの小さな魔王を氷漬けにしてやる!!」
(……さっきから何を一人で勝手に盛り上がってやがるんだ、この三人のアホ人間どもは!?)
俺の小さな黄金の王冠の下の額に、ピキッと太い青筋が浮き上がった。
(俺様の城の扉を壊して湯煎の温度を下げただけじゃ飽き足らず、俺様の神聖なチョコレートのプールに『氷』をぶち込んで、俺様の大切な『生きた秘宝の蛇口』に手を出す気かァァァッ!?)
「ゴブ、見て! あの人たち、僕たちのために綺麗なお祝いの魔法を見せてくれるみたいだよ!」
後ろのハルトは相変わらず1ミリも状況を把握しておらず、メガネをキラキラさせながら黄金の泡立て器を構えて叫んだ。
「せっかくのお客さんだもの、僕たちの『友情の力』で最高の歓迎をしてあげよう!」
「待っていろ少年、今すぐ魔王の魔法を解いてやるぞ!」
勇者アーサーが光の聖剣を高々と掲げ、聖女と氷結の女魔導士が同時に杖を突き出した。
「喰らえ魔王、これが人類の希望の力だ――勇者パーティー合体最終奥義【聖光・絶対零度ブリザード】!!」
――ゴオオオオオオオオオオオオッ!!
邪悪を浄化する純白の『聖なる光』と、すべてを凍てつかせるマイナス二百度の『神聖氷結吹雪』が巨大な白い竜巻となって融合し、ハルトと俺のプールへ向かって真っ直ぐに撃ち出された!
だが、今のハルトは一歩たりとも退かなかった。
【神格ショコラティエ】の本能に導かれるまま、ハルトは右手の『黄金の泡立て器』を高速回転させながら、迫りくる聖光と絶対零度の吹雪のど真ん中へと真っ向から突き出した!
「わあ、すごく綺麗で冷たい魔力ですね! その素敵な光と氷はすべて、僕の親友の新しいおやつになれ――【絶対製菓錬金:極上ホワイトチョコレート山脈&冷たい生クリームパフェ】!!」
――キィィィィィィンッ……ザバアアアアアアアアンッ!!
勇者パーティー三人の目の前で、エルドリアの魔法法則がまたしても根底からひっくり返った。
ハルトの『黄金の泡立て器』の先端がレベル75の合体聖魔法に触れた瞬間――浄化の聖光は『純白の甘いカカオバターと濃厚ミルク』へと乳化され、絶対零度の吹雪は空気を含んで『ふんわり泡立った真っ白なホイップクリームと冷たいバニラアイスクリーム』へと瞬時に撹拌されたのだ!
なんと勇者一行の渾身の必殺奥義が、空中で丸ごと【30トン分の真っ白に輝く極上ホワイトチョコレートと、特大さくらんぼが乗った冷たい生クリームパフェの山脈】へと作り変えられてしまったのである!!
『な、なんだとォォォ!? 我らが三年かけて編み出した絶対零度の聖魔法が……甘く香る真っ白なクリームの山に変わっただと!?』
勇者アーサーが顎が外れんばかりに口を開けて絶叫する中、ハルトは左手の『白金のヘラ』を華麗に振るい、空中に浮かぶ30トンの白く冷たい秘宝の山脈を俺の目の前へと流し込んだ!
「お待たせ、ゴブ!! いつもは温かいチョコばっかりだったから、今日は初めて『冷たくて白いチョコレートと生クリームパフェ』を作ってみたよ! お腹いっぱい食べてええええっ!!」
俺は黄色い両目を巨大なハート型に輝かせ、自分の緑色の顎が外れるほど大口を開けて、飛んでくる30トンの白い秘宝の山脈に飛びついた!
――パクッ! モグモグ、ゴクンッ!!
俺の熱い舌の上で、プールで飲んでいた『熱々のミルクチョコレート』と、ハルトが新しく作った『氷のように冷たいバニラアイスと濃厚ホワイトチョコレート、そしてふわふわの生クリーム』が一つに溶け合った瞬間――!
俺のゴブリンの脳天に、宇宙が誕生したかのような白い稲妻が突き刺さった!
(う……美味えええええええええええっ♡♡!! なんだこの『熱々』と『キンキンに冷たい甘さ』が口の中で交互に押し寄せてくる悪魔的な食い物はァァァ!? 茶色い秘宝だけでも無敵だったのに、白い秘宝と冷たいクリームまで覚えるとは、俺様の鞄持ちは本物の神を超えやがったぞおおおおおっ!!)
――――――――――――――――――――
《神話級供物【聖光ホワイトチョコレート&絶対零度ホイップパフェ(神格EX+ランク)】を大量摂取しました!!》
《温冷の無限カロリーが魔力炉で奇跡的融合!! レベル100を超越した【劇場版・特別神格進化】を開始します!!》
――――――――――――――――――――
――ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!
俺の百三十五センチの小さな体から、黄金と純白、そして甘いピンク色が入り混じった直径百メートルの巨大な光の柱が噴き上がり、先週直したばかりの大チョコレート城の天井をまたしても豪快に吹き飛ばした!
「く、来るぞ、気をつけろ二人とも!!」
勇者アーサーが聖剣を構えて叫んだ。
「我々の攻撃を喰らって、ついに魔王が本気を出したんだ! この凄まじい光の柱……今度こそ小鬼の擬態を解いて、身長十メートルの禍々しい真の魔王の姿に戻るに違いないぞ!!」
ハルトも目を輝かせて光の柱を見上げた。
「ゴブがまた進化してる! 白いチョコとパフェを食べたから、今度こそ白銀の翼を持った三メートルの聖騎士の姿になるのかも!!」
眩い光の中で、俺は自分の肉体がさらに一段階ググッと力強く伸び、頭の上の黄金の王冠のど真ん中に、これまでで最も高くそびえ立つ『至高のドルチェの頂き』がズシリと顕現するのを感じた!
そして――光の柱が、スッと消え去った。
――――――――――――――――――――
《特別進化が完了しました!!》
《最終神話種族:【ドルチェ・ゴブリン・エンペラー(甘美なる小鬼の皇帝)】――レベル100(極)》
《現在のステータス ―― すべての能力:測定不能(無限 ∞ × 2)》
《公式測定身長:135センチ ➔ 【149センチ】!!》
――――――――――――――――――――
俺は壇上の縁にドォン!と両足を広げて着地し、パンパンの緑色の胸を極限まで反らして、システムに刻まれた『149センチ』という驚異の数字に酔いしれながら宇宙一のドヤ顔を決めた!
(ふ……ふはははははははははっ!! 見たか人間ども!! 今までは進化するたびにケチくさく『5センチずつ』しか伸びなかったこの俺様が、ついに一気に『14センチ』も巨大化し、夢の百五十センチまであと一歩に迫る【百四十九センチ】の超巨体――【ドルチェ・ゴブリン・エンペラー】様へと到達してやったぜええええっ!!)
玉座の間に、五秒間の絶対的な静寂が落ちた。
勇者アーサー、聖女、女魔導士、そしてハルトの四人が、目からゆっくりと腕を下ろして俺の姿を見つめた。
「えっ……? 本当に149センチも大きくなったのかい!?」
ハルトは目をパチクリさせ、湯気で曇ったメガネを指で何度もゴシゴシと拭いてから、壇上の俺の姿を頭のてっぺんからつま先までじっくりと凝視した。
そしてハルトは、恐るべき『149センチのカラクリ』に気づいてピタリと固まった。
(………………あれれっ!?)
ハルトは心の中で、音が鳴るほど盛大にずっこけた。
(ちょ、ちょっと待ってよ!! ゴブの緑色の本体をどう見ても、135センチから『140センチ』に、やっぱりいつも通り『5センチ』しか伸びてないじゃないか!!)
ハルトの視線が、俺の140センチの頭のてっぺん――小さな金の王冠と焼きドーナツみたいな光輪の真ん中へと移動した。
そこにはなんと、ソフトクリームのようにグルグルと高く渦を巻いた『真っ白なホイップクリーム(高さ7センチ)』と、そのてっぺんにチョコンと乗っかった『ツヤツヤの真っ赤な特大さくらんぼ(高さ2センチ)』がそびえ立っていたのだ!
(のこりの『9センチ』って、王冠の上に乗っかってる生クリームとさくらんぼの高さじゃないかーーーーっ!! 本体の5センチに、生クリーム7センチとさくらんぼ2センチを無理やり足して『公式身長149センチ』って言い張ってるだけだ!! しかもゴブ、生クリームが溶けて身長が縮まないように、首をピーンと伸ばして必死にバランスを取ってるよ!!)
ハルトは、頭の上の9センチの生クリームとさくらんぼをプルプル揺らしながら、「どうだ、一気に14センチも伸びた巨神だぞ!」と自分の頭頂部を親指でビシッと指差している俺の過去最高のドヤ顔を見た。
(……で、でも、ここで「ゴブ、その上の9センチは生クリームだから、本当の身長は140センチだよ」なんて本当の事を言ったら、ゴブの皇帝としてのプライドが粉々に砕けて絶対に泣いちゃうよな!!)
ハルトは吹き出しそうになる口元を必死で押さえ、優しい笑顔を作って全力の拍手を送った!
「す、すごいよゴブ!! 一気に14センチも伸びて『149センチ』になるなんて、もうほとんど150センチの大男だね!! その頭の上の9センチの白い王冠(生クリーム)と赤い宝石、『ドルチェ・ゴブリン・エンペラー』の名前にぴったりの神々しさだよ!!」
「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(フハハハ、さすがは俺様の相棒、この百四十九センチの威厳がしっかり分かるようだな! いいか、この頭の上の白い山と赤い宝石も俺様の立派な頭蓋骨の一部だからな、誰がなんと言おうと百四十九センチだぜ!!)」
「お、俺たちをコケにしてるのか、魔王ォォォッ!!」
顔を真っ赤にした勇者アーサーが、屈辱と怒りで絶叫しながら階段を駆け上がってきた。
「頭に9センチの生クリームとさくらんぼを乗せて身長を水増しし、勇者を愚弄するとは許さん! この折れぬ『光の聖剣』で、その生クリームごと真っ二つにしてくれるわあああっ!!」
「ゴブァァァッ!!(俺様の神聖な百四十九センチのてっぺんに刃物を向けるんじゃねえ、そこを切り落とされたら140センチに戻っちまうだろうが金髪モヤシィィィッ!!)」
俺は大事な9センチのクリームを守るために半歩踏み込むと、振り下ろされたレベル75の『光の聖剣』の刃へ向かって、右手に握った愛用の『鉤爪付きの鉄の棍棒』で下から軽くコツン、とデコピンをするように弾き返してやった!
――ガキィィィンッ……グニャリ!!
情けない金属音とともに、絶対に折れないはずの伝説の『光の聖剣』が、俺のバールの一撃でアルファベットの『Sの字』にグニャリとひん曲がった!
さらに俺のバールが巻き起こした甘い突風だけで、勇者アーサーと聖女と女魔導士の三人は木の葉のように宙を舞い、ハルトが作ったばかりの『ホワイトチョコと生クリームパフェの山』のど真ん中へと頭からドサッ!と墜落した!
「ぐあああっ……!? ば、馬鹿な、神が鍛えし聖剣が、ただの鉄のバールで飴細工みたいにひん曲げられただと……!?」
アーサーがパフェの山の中で仰向けに倒れ、呆然と口を開けた――その瞬間だった。
アーサーと聖女と女魔導士の開いた口の中へ、溶けかけた『極上ホワイトチョコレートとバニラアイス、そして温かいミルクチョコレート』の塊がトロリと流れ込んだ。
――トロリ……。
次の瞬間。
三年間、味気ない硬い干し肉と水だけで旅をしてきた勇者パーティー三人の脳天に、かつて俺が地球で初めてミルクチョコレートを食った時とまったく同じ『黄金の稲妻』が突き刺さった!
「な……なんだこの天上の食べ物はァァァッ!?!?」
勇者アーサーの両目から、ナイアガラの滝のように大粒の涙が噴き出した。
隣では聖女と氷結の女魔導士が、杖も忘れて両手でパフェとチョコレートをすくい上げ、頬袋をパンパンにして一心不乱にむさぼり食っている!
「あ、甘くて、冷たくて、温かくて、口の奥でトロトロに溶けていく……! 三年間の過酷な旅の疲れと殺意が、一瞬で全部溶けて消えていくぞ……! お、おい少年、本当にこれは洗脳の泥ではなく、お前が作ったお菓子なのか!?」
「だから最初からそう言ってるじゃないですか!」
ハルトは苦笑いしながら、三人に綺麗なスプーンを手渡した。
「前の悪い魔王ヴァルガロスなら、一週間前にゴブと僕で倒しちゃいましたよ! だから今は、このお城でみんなが笑顔になれるチョコレートを作ってるんです!」
勇者アーサーは口にスプーンを咥えたまま、三秒間ピタリと固まった。
「……魔王ヴァルガロスは、一週間前にもう倒された?」
アーサーは手元の『Sの字に曲がった聖剣』を見つめ、次に頭の上の9センチの生クリームとさくらんぼを誇らしげに揺らしている『身長149センチの俺』を見上げ、最後にスプーンの上のホワイトチョコレートを見つめた。
魔王がもうこの世にいないということは――彼の『光の勇者』としての人生の目標は、今日この瞬間に完全消滅したということだった。
アーサーはゆっくりと立ち上がると、白い勇者のマントを脱ぎ捨て、俺とハルトの前に歩み寄って、黒曜石の床に額がめり込むほど美しい土下座を決めた!
「神格ショコラティエ・ハルト師匠! そして偉大なる『ドルチェ・ゴブリン・エンペラー』様!!」
元・光の勇者は、涙でキラキラと輝く瞳で顔を上げて絶叫した。
「私、アーサーは今日この瞬間をもって『勇者』を完全に引退いたします!! 魔王がいない今、この神の食べ物に関わらずに生きることなど私には考えられません! どうか私とパーティーの二人を、このお城の『パティシエ助手兼サポート係』として雇ってくださいいいいっ!!」
(ふははははははっ!! 見たか、ついに人間の勇者まで俺様の百四十九センチの威厳の前にひれ伏して、俺様たちの下働きになりやがったぞ!!)
俺は誇らしげに鼻を鳴らし、鉄の棍棒でアーサーの頭をポンと叩いて頷いてやった。
「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(よし、許してやるぜ金髪モヤシ! さっき扉を壊して温度を下げた罰として、今日からお前は俺様の相棒の下で一生ナッツを砕いて皿を運べ!!)」
◇
――それから三日後。
『ゴブ&ハルトの帝国大チョコレート城』には、三人の頼もしい新人従業員の姿があった。
氷結の女魔導士は自慢の氷魔法で『アイスクリーム保管庫』(兼、俺様の頭の生クリームが溶けないための冷気係)の温度を完璧に管理し、聖女は新鮮なミルクに祝福を与え――そしてピンク色の可愛いエプロンとコック帽を被った元・光の勇者アーサーは、Sの字に曲がった『光の聖剣』を包丁代わりに使って、「勇者みじん切りーっ!!」と叫びながら音速で香ばしい木の実を砕きまくっていた。
そして一番高い壇上の噴水プールでは、頭の上の『9センチの生クリームとさくらんぼ』を絶対に落とさないように首のバランスを取りながら、公式身長『百四十九センチ』の無敵の【ドルチェ・ゴブリン・エンペラー】であるこの俺様が、相棒と元・勇者が作ってくれる極上のホットチョコ&アイスパフェを、これから先も千年ずっと味わい尽くすのだった――!
――――――――――――――――――――
【劇場版・特別番外編まで全編完結! ご愛読ありがとうございました!】
――――――――――――――――――――
最終話(第33話・劇場版特別編)までお読みいただき、本当にありがとうございました!!
これにて、本体の成長(+5センチ)に「王冠の上の生クリーム7センチ+さくらんぼ2センチ(計9センチ)」をちゃっかり加算して【公式身長149センチ】と言い張る『ドルチェ・ゴブリン・エンペラー(甘美なる小鬼の皇帝)』ことゴブ様と、『神格ショコラティエ』ハルト、そして新たにパティシエ助手へと転職した元・勇者アーサーたちの物語は【完全完結】となります!
もしよろしければ、ぜひ【感想欄】にて皆様のお声を聞かせてください!
・ハルトに「残りの9センチは生クリームとさくらんぼの高さだ!」と心の中でツッコまれながらも、クリームが溶けないように首を伸ばしてドヤ顔をする149センチのゴブ様、いかがでしたでしょうか?
・全33話を通して、一番「笑った!」「スカッとした!」「チョコレートやパフェが食べたくなった!」というお気に入りのシーンはどこでしたか?
一言でもご感想をいただけると、ゴブ様と一緒にチョコレートのプールで飛び上がるほど嬉しいです!
本作を最後まで楽しんでいただけましたら、これからの執筆活動の大きな励みになりますので、ぜひ温かく見守っていただけますと幸いです!
━━━━━━━━━━━━━━━
【あわせて読みたい!10分でサクッと読めるおすすめ新作短編】
本作と同じく「ゾンビパンデミックの世界×極上グルメ&要塞スローライフ」をテーマにした新作短編を、ヒューマンドラマ〔文芸〕部門にて公開中です!
悪役家族に欠陥シェルターの通行証を奪われた主人公が、無尽蔵のエネルギーを持つ地熱要塞でぬくぬく暮らす『10分でサクッと読める逆転ざまぁ短編』となっておりますので、ぜひ以下のURLから覗いてみてください!
▼ おすすめ新作短編:
『私的にその『VIPシェルター』はバッドエンドなので全力で譲ります〜ゾンビ世界の悪役家族に通行証を奪われた私は、鬼将軍の『契約後妻』になって可愛い孫娘と要塞でぬくぬく暮らすことにしました〜』
https://ncode.syosetu.com/n0132mz/
(※他にもマイページにて、パニック〔SF〕ランキング1位のサバイバル長編やコメディー短編を公開しております。ページ上部・下部の【作者名】からいつでも遊びに来てください!)
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!グラッツェ!!




