第25話:次元転移門(ゲート)の強制帰還と、連行される20トントラック!
だが、俺が頭の上の黄金の光輪を揺らして胸を叩いていた――まさにその瞬間だった。
――ズゥゥゥゥゥゥンッ……バリバリバリバリッ!!
俺の胸の真ん中に浮かび上がっていた『黒と黄金の古代紋章』が、突如として激しい閃光を放った!
俺の胸から放たれた一筋の黒い光の槍が、俺たちの『20トンの秘宝を積んだ十輪荷馬車』のすぐ前の空間へと突き刺さり――鏡が砕け散るような轟音とともに、桟橋の上の空間そのものが高さ十メートルにわたって縦に大きく引き裂かれたのだ!
そこに出現したのは、禍々しい深紅の古代文字が渦を巻く、巨大な楕円形の【次元転移門】だった!
しかも、その開け放たれた転移門の向こう側に見えていたのは、横浜の海ではなかった。
門の向こうに広がっていたのは、二つの紫色の月が浮かぶ暗い空の下、ねじれた枯れ木と泥水が淀む見覚えのある景色――俺が十五年間を生きた元の剣と魔法の世界『エルドリア』の沼地だったのだ!
それだけではない。門のすぐ向こう側の沼地のほとりには、あの日、腹ペコだった俺に下働きになるよう命じ、断った俺の胸を黒鉄の短杖で撃ち抜きやがった、あの『黒い鎧の魔王軍幹部』と三十人もの魔族の兵士たちが、腕を組んでこちらを待ち構えている姿がハッキリと見えたのだ!
《次元管理システムより告知:被験体『ゴブ』が流刑世界におけるアンデッド浄化を達成し、生命力の極致へ到達したことを確認しました》
《胸部の【帰還の刻印】が発動――元の世界『エルドリア』への強制帰還プログラムを開始します!》
転移門から吹き出してくる異世界の魔力の風と、その門が俺の体を吸い寄せようとしているのを見た瞬間、ハルトの顔から笑顔が消えた。
ハルトはすべてを悟ったように息を呑み、そのメガネの奥の瞳から、大粒の熱い涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「そ、そうか……そういうことだったんだね、ゴブ……」
ハルトは胸を押さえ、震える声で言った。
「君はもともと、あの門の向こうにあるファンタジーの世界から、滅びかけた僕たち人類を救うために天が遣わしてくれた『救世の精霊』だったんだね……。そして地球のゾンビがすべて浄化されて世界が救われた今、君は元の世界へ帰らなきゃいけないんだね……!」
後ろにいた老学者たちも帽子を脱いで胸に当て、人類を救った小さな神との別れの光景に涙を流した。
ハルトは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら俺の前に片膝をつき、震える右手を俺の前に差し出した。
「僕、泣かないよ、ゴブ……! だって、たとえ住む世界が別々に離れてしまっても、僕と君が結んだ『心の友情と信頼の絆』は永遠に消えないからね! ひ弱だった僕に戦う勇気をくれて、僕たちの世界を救ってくれて本当にありがとう……! さようなら、僕の最高の相棒よ! 君の世界でも元気でねええええっ!!」
俺は、エルドリアの沼地へと繋がる巨大な転移門を見た。
次に、門の向こうでニヤニヤ笑いながら待ち構えている魔王軍の幹部魔族を見た。
そして最後に、俺の前で膝をついて「さようなら」「住む世界が離れても」と一人で勝手に感動の別れを演じている俺様の鞄持ち(ハルト)を見下ろし、頭の上の黄金の光輪を傾げて首をかしげた。
「…………ゴブ?(…………おいバカ鞄持ち、てめえさっきから一人で何を寝ぼけたことを抜かしてやがるんだ?)」
その瞬間。
俺の左手首と、ハルトが差し出した右手の甲に刻まれた金色の【従魔契約】の紋章がドクン!と真っ赤に発光し、横浜港の空に無慈悲で厳格なシステム警報が鳴り響いた!
《契約違反警告!! 契約違反警告!!》
《契約主『ハルト(Lv.25)』と従魔『ゴブ(Lv.100)』の間で結ばれた【魂の従魔契約】は、いかなる次元および世界線の壁も超越して永久に有効です!》
《契約条項第1条:契約主ハルトは、従魔ゴブに対して神の秘宝『ミルクチョコレート』を継続的に献上し、かつダンジョン地図を解読し続ける絶対義務を負う。万が一、次元間の離別によって供物の提供が途絶えた場合、契約主ハルトには即座に【魔力逆流の呪い】が発動します!》
《よって契約を正常に維持するため――契約主『ハルト』、および半径20メートル以内にある『供物運搬用の荷馬車・秘宝・魔導具一式』もすべて強制的に異世界エルドリアへ同行転送されます!!》
感動の涙を流していたハルトが、ピタリと動きを止めて目を白黒させた。
「…………えっ? ちょ、ちょっと待ってゴブ、今の頭の中の声はどういう意味だい!? 僕、異世界の言葉も魔法も知らないし、まだ心の準備が――」
「ゴブッ! グガ、ゴブゴブ!!(何がさようならだ、この恩知らずの鞄持ちめ!!)」
俺はニヤリと獰猛に笑って一歩踏み出すと、左手でハルトの服の襟首をガッと引っ掴んで米俵のように軽々と持ち上げ、右手では、すぐ横に停まっていた『20トンの温かい秘宝と大量の黒鉄の杖(重火器)を積んだ銀の十輪荷馬車』の前の鉄枠を、さらには船から降ろしたばかりの『50トン分の極上ロイヤル・ミルクチョコレートの山』ごとまとめて片手で引っ掴んだ!
(俺様のいたエルドリアにはな、神の秘宝を作る工場もなければ、人間の文字で書かれた地図を読める奴も、黒弾の魔導具を扱える奴もいねえんだよ! てめえをここに置いていったら、誰が魔王城の地図を読んで、誰が俺様に秘宝を献上するんだ!? てめえは俺様と魂の契約を結んだ『専属の黒魔導師兼鞄持ち』なんだから、これから先も千年ずっと俺様の隣で働いてもらうぜ!!)
「うわあああああっ!? ゴ、ゴブ、二十トンのタンクローリーごと僕を片手で引っ張って転移門に入る気かい!?」
宙にぶら下がったハルトは一瞬パニックになったが、次の瞬間には再びメガネの奥の瞳をキラキラと輝かせて感極まった声を上げた!
「そ、そうか……! ゴブも僕と別れるのが寂しくて、自分の世界でも僕と一緒に『友情の力』で戦いたいって言ってくれているんだね!! 分かったよゴブ、君が望むなら異世界の果てまでだって、僕たち二人の友情で突き進もう!!」
「ゴブァァァアアアアアッ!!(おう、そういうことにしといてやるぜ! いざエルドリアへ出発だあああっ!!)」
口をあんぐりと開けて手を振っている研究所の老学者たちに見送られながら、俺はハルトと二十トンの十輪荷馬車と五十トンの秘宝の箱を両手に抱えたまま、渦巻く次元転移門のど真ん中へと豪快に飛び込んだ!




