第1話:腹ペコの敗北と、遅すぎる死体たちの世界
【お詫びと完全版公開のお知らせ】
いつも温かい応援をいただき、本当にありがとうございます!
以前公開していた旧版におきましては、「第0話(短編)」と「連載版」が分かれており最初の経緯が分かりにくかった点や、改行・字下げなどのページレイアウトおよび一部本文に私のミスによる不備がございました。せっかくブックマークや評価を入れてくださっていた読者の皆様には、一度作品を取り下げる形となり大変申し訳ございませんでした。
このたび、旧版のミスや読みづらかった箇所をすべて修正し、第1話からスムーズに読めるよう完全統合したうえで、新規書き下ろしの【劇場版・特別番外編】を含む【全33話の完全版】として一から再構築いたしました!
すでに最終第33話まですべて執筆・チェック済みですので、今度こそ最後まで安心してお楽しみいただけます。新しく生まれ変わったゴブ様とハルトのすれ違いコメディーを、どうぞよろしくお願いいたします!
剣と魔法の世界エルドリアにおいて、『レベル7のゴブリン・スカベンジャー(腐肉漁り)』であるということは、泥の中を這うミミズのすぐ上――すなわち生態系の最底辺を意味していた。
俺の名前はゴブ。
身長は百二十センチ、傷だらけの濃い緑色の肌に、キャベツの葉っぱのように長い耳。
俺がこの過酷な世界で十五年間も誰にも縛られずに生き延びてこられたのは、腐りかけた軟骨や木の皮、石の下の苦い甲虫を齧って泥水をすすりながらも、ゴブリンとしての誇りを持って自由に生きてきたからだ。
それなのに、あの日――俺は運悪く、とんでもない奴と鉢合わせしてしまった。
沼地のほとりで泥臭い木の根っこを掘っていた俺の前に、黒い鎧を纏った『魔王軍の幹部魔族』が通りかかったのだ。
俺は魔王本人の顔など一度も見たことはなかったが、その幹部魔族は俺をゴミを見るような目で見下ろすと、高慢ちきな声でこう命じてきやがった。
「おい小鬼、偉大なる魔王様の軍勢には雑用係が必要だ。今日から魔王様の下働きとして、俺たちの靴を舐めて働け」と。
冗談じゃねえ!
誇り高きこの俺様が、顔も見たことがねえ魔王なんぞの下働きになるかボケェ!
俺は威嚇の唸り声を上げて、そいつの黒い鉄靴に泥を引っ掛けて断ってやった。
もしあの時、俺の腹の中に腐った肉の一切れでも入っていれば、あんな幹部魔族など蹴散らして森へ逃げ切っていただろう。
だが運の悪いことに、あの日の俺は三日間何も食っておらず、魔力炉(胃袋)が完全に空っぽの『極度の腹ペコ状態』だったのだ!
空きっ腹のせいで普段の半分も力が出せなかった俺に対し、「魔王様への反逆だ!」と激怒した幹部魔族は、懐から『黒くて短い鉄の杖』を取り出し、無詠唱で卑怯な黒魔法を放った。
鉄の杖の先から『オレンジ色の閃光』と『雷のような轟音』が炸裂し、目にも見えない黒い弾丸が俺の胸の真ん中に突き刺さった。
あれが俺を殺すための攻撃だったのか、それとも俺を異界へ追放する魔王の呪いだったのかは、腹が減りすぎていて意識が飛んでいたせいでよく覚えていない――。
◇
「……ゴブ?」
目を覚ますと、そこには森の木々もなければ、慣れ親しんだ沼地の泥の匂いもなかった。
俺が寝転がっていたのは、焦げた油と煙の臭いがする『黒くて硬い石の道』の上だった。
周囲には、透明な氷の板(窓)が割れた巨大な四角い灰色の石の塔が何十本もそびえ立っている。
俺は慌てて自分の胸の真ん中を触った。
風穴は塞がっている。生きているぞ!
四本指の緑色の小さな手も、腰に巻いたボロボロの革布もそのままだ。
そして視界の端には、前世と同じ半透明の『ステータスウィンドウ』が浮かんでいた。
――――――――――――――――――――
【種族:ゴブリン・スカベンジャー】
【レベル:7(進化なし)】
【筋力:18/敏捷:22/耐久:20】
【種族スキル:腐肉食(毒・寄生虫・疫病完全無効 Lv.MAX)】
【保有スキル:捕食鑑定 Lv.1】
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(グルルル……あの心の狭い魔王の野郎め! 俺様が下働きになるのを断ったからって、俺様が腹ペコで動けない隙に手下を使って呪いをかけさせ、こんな見知らぬ石の世界へ飛ばしやがったのか? それとも一度死んだ俺様にトドメを刺すために、魔王の野郎がここまで追いかけてきてやがるのか!? クソッ、空きっ腹じゃなければ負けなかったのに、今度会ったら絶対にただじゃおかねえぞ!)
俺が空腹の腹をさすりながら立ち上がった、その時だった。
近くに転がっていた『車輪のついた鉄の箱』の陰から、五体の『人間』が足を引きずりながら姿を現した。
「ゴブッ!?」
俺はすかさず身構えた。
なんだこいつらは!? さっそく魔王が俺様を始末するために送り込んできた刺客か!?
俺は長年の習性で、うめき声を上げながら迫ってくる五体の人間にスキル【捕食鑑定 Lv.1】を発動した。
ピコン、と頭の中に鑑定結果が表示される。
――――――――――――――――――――
【種族:感染死体――レベル:1】
【筋力:2/敏捷:1/防御:0】
【状態:重度腐敗・知能喪失】
――――――――――――――――――――
俺は黄色い目をパチクリと瞬かせた。
(……ゴブ? レベル1のアンデッド? しかも筋力が『2』だと……?)
先頭を歩いていた腐った死体が、足を怪我したナメクジのような信じられない遅さで俺の前まで辿り着くと、俺の左腕を掴み、黄色く濁った歯を俺の緑色の皮膚へと突き立てた。
――パキッ!
乾いた音が響いた。
折れたのは俺の腕の骨ではない。
レベル7(耐久20)の俺の筋肉の硬さに負けて、噛みついてきたアンデッドの前歯が二本とも根元からへし折れたのだ!
しかも、ほんのわずかに擦れた皮膚から黒い唾液が入り込んだ瞬間、頭の中にシステム音が鳴り響いた。
《未知の腐敗呪毒(壊死性ゾンビウイルス)の侵入を検知しました》
《種族スキル【腐肉食 Lv.MAX】が自動発動……エルドリアの魔界寄生虫に比べ、極めて脆弱な低級毒です。瞬時に消化・分解し、生命力へと変換しました。【体力が+1回復しました】》
俺は歯の折れた歯茎でまだ俺の腕をしゃぶろうとしているレベル1のアンデッドを見下ろした。
前の世界では森の角ウサギですらレベル12あったため、レベル7の俺は最底辺だった。
だが、この奇妙な世界のアンデッドどもは基礎ステータスが低すぎて、レベル7の俺一人で『人間の大人九人分の怪力と速さ』を持っており、連中の持つ死の呪毒すら、俺の胃袋と肉体にとってはただの元気が出る水でしかなかったのだ!
「……ゴブァァァアアッ!!」
俺は足元の石の道に落ちていた六角形の頑丈な曲がり鉄棒――俺様が『鉤爪付きの鉄の棍棒』と名付けた最高の武器――を両手で拾い上げると、腰を入れて思い切り振り抜いた!
――ドゴォッ! ベキィッ! グチャァッ!!
たった五回の素振りで、五体のレベル1モンスターの頭蓋骨は腐った木の実のように粉々に砕け散った。
《感染死体(Lv.1)を5体討伐しました。微量の経験値を獲得しました》
相手が弱すぎて経験値は少ししか入らなかったが、生まれて初めて「自分が追われる側ではなく、一方的に狩る側」になった事実に、俺の小さな緑の胸は熱く高鳴っていた。
お読みいただき、誠にありがとうございます!
ゴブ様とハルトのすれ違いゾンビサバイバル、引き続き次話もお楽しみいただけますと幸いです!
(※もし本作を気に入っていただけましたら、ブックマークに追加していただけますと今後の執筆の大きな励みになります!)
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