修学旅行2日目②《容疑》
登場人物がクラスメイトと先生合わせて35人いるので、後で紹介を入れておきます。
「先生が消えた」
その言葉は、一瞬でホテル中に広がった。
最初は誰も信じなかった。ちょっと出かけているだけ。
コンビニにでも行ったのではないか。
そんな声もあった。
けれど、先生の部屋を確認した生徒たちは次第に黙り始めた。
本当に何もなかったからだ。
財布。スマホ。部屋の鍵。スーツケース。
全部残っていた。
まるで一瞬で消えたみたいに。
ホテルのロビーには不安そうな生徒たちが集まっていた。
ひなもその中にいた。
周囲ではざわざわと話し声が飛び交っている。
「誘拐じゃね?」
とうまが言う。
「ドラマの見すぎ」
れおが即座に否定した。
「でも変だろ」
「財布も持たずに出るわけないし」
そうまが小さく言った。
誰も反論できなかった。
やがてホテルの従業員や他の先生たちも集まり始める。
館内放送が流れた。
先生方による捜索が始まったらしい。
その時だった。
ひなの近くで誰かがつぶやく。
「最後に先生と話してたの、ゆづきじゃない?」
空気が変わった。
ひなの背筋が冷たくなる。
言ったのはりさだった。
悪意があるようには見えない。
ただ思ったことを口にしただけ。
でも、その一言でみんなの視線が動いた。
ロビーの隅。
一人で立っていたゆづきへ。
ゆづきは気付いているのかいないのか。
表情を変えなかった。
「確かに」
誰かが言う。
「職員室じゃなくてホテルの裏でも話してたって聞いた」
「え?」
ひなの心臓が跳ねる。
知られている。
あの会話を見ていたのは自分だけだと思っていた。
「私も見た」
今度は別の女子だった。
「結構揉めてたよね」
ざわめきが大きくなる。
ゆづきは静かに顔を上げた。
その瞬間。
みんなの視線がぶつかる。
まるで裁判だった。
「私じゃない」
ゆづきが言う。
誰も何も聞いていないのに。
「私は何もしてない」
その声は少し震えていた。
「別に犯人って言ってないじゃん」
りさが言う。
しかし空気はもう変わってしまっていた。
疑い。好奇心。恐怖。
それらが混ざり合っている。
ひなは苦しくなった。
まただ。また同じだ。
誰か一人が標的になる。
そしてみんなが少しずつ距離を置く。
誰も直接傷つけていない。
でも誰も助けない。
あの日々と同じだった。
「やめなよ」
気付けば声が出ていた。
周囲がひなを見る。
「まだ何も分かってないじゃん」
沈黙。
誰も反論しない。
だけど納得もしていない。
その時だった。
「失礼します」
低い声が響く。
ロビーの入口に二人の警察官が立っていた。
どうやら学校側が通報したらしい。
生徒たちはさらにざわつく。
警察。
その言葉の重みが一気に現実味を帯びさせた。
先生は本当に消えたのだ。
冗談でもいたずらでもない。
事件なのかもしれない。
警察官の一人が言った。
「最後に佐伯先生と接触した人はいますか」
ひなの呼吸が止まる。
ゆづきが下を向く。
そして。
誰かが言った。
「ゆづきです」
ロビーの空気が凍りついた。
ゆづきは何も言わない。
ただ強く拳を握っていた。
ひなはその横顔を見ていた。
怖かった。でも。
もっと怖かったのは。
自分も一瞬だけ、
「もしかして」
と思ってしまったことだった。
その夜。
警察の聞き取りが始まった。
そして最初に呼ばれたのは――
ゆづきだった。




