修学旅行2日目①《失踪》
修学旅行二日目の朝。
ホテルのロビーは、生徒たちの話し声でいっぱいだった。
「眠っっ!」
とうまが大きなあくびをする。
「お前、昨日三時まで起きてたんだろ」
りゅうやが呆れたように言った。
「だって人生ゲーム盛り上がったんだもん」
「小学生かよ」
男子たちの笑い声が響く。
女子の方でも、昨夜の恋バナや写真の見せ合いで盛り上がっていた。
どこから見ても、普通の修学旅行だった。
少なくとも表面上は。
午前中は班別行動だった。
ひなたちの班は、あやか、くるみ、あんず、ゆあ、ひなの五人。
清水寺へ向かう坂道を歩いていた。
「暑い~」
くるみが溶けそうな声を出す。
「まだ午前中だよ?」
あんずが笑う。
ゆあはずっとスマホで写真を撮っていた。
「文化祭の動画にも使えそう」
「またSNSに載せる気?」
あやかが聞く。
「もちろん」
その何気ない会話の途中。
ひなは少し離れた場所にいる人影を見つけた。
ゆづきだった。一人だった。本来なら別の班にいるはずなのに。
ゆづきは静かに歩いている。
誰とも話さず。誰とも目を合わせず。
ひなは立ち止まる。声をかけようかと思った。
でも。
「ひなー!早く!」
あやかたちに呼ばれる。
結局、そのまま歩き出した。
いつも通り。
見て見ぬふりをした。
昼食後。
ホテルへ戻る途中だった。
ひなは自動販売機で飲み物を買おうとして、偶然ホテル裏の通路に入った。
その時。
聞き覚えのある声がした。
「……だから、もう限界なんです」
女性の声。
ゆづきだった。
ひなは思わず足を止める。
その向こうには佐伯先生が立っていた。
先生の表情は険しい。
「もう少しだけ待てないか」
「ずっとそう言ってますよね」
ゆづきの声は震えていた。
「先生は何も変えてくれなかったじゃないですか」
ひなの心臓が跳ねた。
先生は周囲を確認するように辺りを見回した。
そして小さな声で言った。
「ここでその話はやめよう」
「どうしてですか」
「誰かに聞かれたら困る」
「困るのは先生ですよね」
沈黙。
重たい沈黙だった。
ひなは思わず柱の陰に隠れる。
盗み聞きなんて良くない。
分かっている。
でも足が動かなかった。
ゆづきが言う。
「私はずっと待ってたんです」
「……」
「助けてくれるって」
「……」
「でも先生は何もしなかった」
先生は何も言い返せなかった。
ただ苦しそうな顔をしていた。
数秒後。
ゆづきは先生の横を通り過ぎる。
その時だけ。
先生に向かって一言。
「もう遅いです」
ひなは凍り付いた。
その言葉は。
脅しにも聞こえた。
先生は一人残された。
そして壁にもたれかかる。
明らかに顔色が悪い。
昨日、新幹線で見た時よりも。
ひなは慌ててその場を離れた。
聞いてはいけないものを聞いてしまった気がした。
夜。自由時間。
ひなは部屋で今日のことを思い出していた。
あの会話。先生の表情。ゆづきの声。
「ねぇ」
突然、ゆあが言った。
「今日さ、変なの見たんだけど」
部屋の空気が少し変わる。
「何?」
あやかが聞く。
ゆあは少し迷ってから言った。
「佐伯先生、誰かともめてた」
ひなの心臓が止まりそうになる。
「誰と?」
あんずが聞く。
ゆあは答える。
「分かんない」
「でもすごく怒ってた」
その時だった。
コンコン。
部屋のドアがノックされた。
「ねえ、ちょっといい」
学級委員のゆうかだった。
しかし顔色がおかしい。真っ青だった。
「どうしたの?」
ひなが立ち上がる。
ゆうかは息を切らしながら言った。
「先生がいない」
部屋の空気が凍った。
「え?」
「見回りの時間なのに来ないの」
「電話は?」
「出ない」
ゆうかは震える声で続けた。
「先生の部屋に行ったら……」
「スマホも財布も荷物も全部残ってた」
そして。
「先生が消えた」
その瞬間。
誰もまだ知らなかった。
この失踪が、クラス全員の秘密を暴き出すことになることを。
なんで焦ったかとかは時期にわかるので、今は深く考えないでもらえると嬉しいですね
楽しい楽しい修学旅行の始まりだ〜




