試合後に待っていた運命
「試合終了!勝者、カトリーナ選手!」
会場内では未だ困惑の色が濃い。だけど、ミーナとアリアはきちんと拍手をする。勝ったねぇ様に対しても、ねぇ様と一生懸命戦ったゲアートさんに対しても。
下を見れば、ユキも小さな手で頑張って拍手をする。
つられて他の観客達も拍手をしていった。
これが、本当の試合。ただ、ゲアートさんは最後に諦めたような?
「ミーナ様。試合は何も、相手を完全に気絶させなければならないというものではありません。対戦相手に認めて貰う、そして契約や取引を行う。そういう勝ち方もあります」
アリアがそう教えてくれた。続けてアリアは教えてくれた。
アリアとお父様の試合も拳を交えはしたものの、最終的にアリアはお父様のことを『契約するに値する』と考えメイドとして働くことを決めたらしい。
「つまり、ゲアートさんはねぇ様のことを認めたっていうこと?」
「はい、そうなります。今回の一番の目的はカトリーナ様に試合がどういったものか体験させることです。その上でゲアート様を含む雪原の足跡の皆様は宝石を賭けました。ゲアート様がカトリーナ様を目的の方でお認めになったということは、カトリーナ様になら宝石を託してもいいということに他なりません」
アリアが解説を終わると同時にねぇ様とゲアートさんはお互いに健闘を称え合っていた。
試合終了の声が高らかに告げられたのと同時に、私は戦闘での疲れが一気に来て、立つのもままならない状態だった。
(やばい・・・意識が、保てない・・・)
流石に無理をしすぎたか?それとも、慣れない態勢をしたをして戦闘を少ししたから疲れたのかな?
私が倒れそうになった所をゲアートさんが受け止めてくれた。
「大丈夫か?」
ゲアートさんがそう言うと肩を貸してくれた。そして闘技場の中心に連れて行ってもらった。
「試合が終わったら何をするかわかるか?」
試合が終わったらすること?
「賭けた物を勝者に譲る?」
虫が良すぎる気はしたけど、それしか思いつかないのも事実だった。
「確かにそれはあるが、それ以上に大事なことがある。対戦をした相手を労うという賭けよりも大事な、試合後に必ずやることがな」
ゲアートさんはそう教えてくれると、手を差し出した。私もゲアートさんに倣って手を差し出した。ゲアートさんは私の手を取ると優しく握った。
「これが、人間同士の戦いの後に行う礼儀だ。やらない奴もたまにいるが、試合後には勝敗に関係なく互いを健闘し合う」
ゲアートさんはこの試合の中で沢山のことを私に教えてくれた。勝負に勝った嬉しさよりもゲアートさんへの感謝が大きかった。
「カトリーナ嬢!勝ったからには俺が賭けてた物はあんたが持って行け!」
ゲアートさんは最後まで楽しげに話してくれた。
けど私は、ゲアートさんに何か試合のお礼をしたかった。
「せめて、賭けに出したお金の一部でも持って行ってください」
私は精一杯の声でゲアートさんに伝えた。
「えっ!?いや、カトリーナ嬢は勝者なんだぞ?何でそこまで・・・」
ゲアートさんは少し混乱していた。審判も少し混乱している。
「この感謝の気持ちをどう伝えたらいいかわからないんです!今日の試合、私は沢山のことを学べました。せめて、お礼を・・・」
私は必死に伝えた。
「それなら・・・今度ギルドで飯を奢ってくれ!そして今日の試合の感想をじっくり聞かせて貰う。それだけで俺は満足だ」
ゲアートさんはそう言うと、いつの日かご飯を奢るという話で決着した。
その後はゲアートさんが賭けに出した宝石【オニキス】が私に渡された。
私は嬉しさで涙が溢れた。この嬉しさは念願の宝石の一つを入手したからなのか。それとも初試合に勝った喜びからなのか、私には分からなかった。
その後は待機室に戻って、それぞれ怪我の手当てをしてもらった。試合でけっこう服もボロボロになったから更衣室で、持って来た服に着替えて待機室を後にした。
待機室を出たら、アリアとミーナ、それにユキも待ってくれていた。
「お疲れ様です、カトリーナ様」
「ねぇ様!お疲れ!」
アリアとミーナはそれぞれ労いの言葉をくれた。
そんな話をしていると、反対の待機室からゲアートさんが出てきた。待機室の外では女性が立っていた。
「すまん、マスター。カトリーナ嬢の頑張る姿に惚れてしまった」
マスターと呼ばれた女性は何かをゲアートさんと話しているみたいだった。
「あちらの女性の方は、雪原の足跡のギルドマスターのデリカ様です」
アリアがマスターさんの自己紹介をしてくれた。
デリカさんといえば・・・シュネーの雪で行方不明になった人達を全員助けたと伝説になった人物だ。
私達は挨拶に向かおうと、デリカさんの元へ向かった。
「こんにちは。今回、ゲアートさんと対戦をしたカトリーナです」
デリカさんの側まで行くと私は軽く自己紹介をした。
「あなたが、噂のカトリーナね。初めまして。そして勝利おめでとう」
デリカさんも挨拶を返してくれて、勝利のお祝いもしてくれた。
「ゲアートはタフさはうちのギルド一番なんだけど、頑張っている人を見ると応援せずにはいられない性格なのよ。ゲアートを認めさせたあなたに心から敬意を払うわ」
デリカさんはそう言うと、私達三人の姿を順番に見渡し嬉しそうに頷いた。
「あなた達なら私達よりもその宝石を持つに相応しいわね。宝石には色々な意味があるけど、オニキスには集中力という意味があるの。あなたは今日、ゲアートを倒す為に思考を巡らせ、体格差を覆す勝利を手にした。オニキスの集中力という意味が最も似合うわ」
デリカさんは宝石に様々な意味があると教えてくれた。そして、オニキスが持つ意味の集中力を私はゲアートさんに見せることに成功した。
だから、ゲアートさんは負けを認めたのかもしれない。
「今から少し時間ある?良かったら今日出発する勇者パーティーの遠征式を一緒に見に行かない?」
デリカさんは私達を遠征式に招待してくれた。もちろん行きたいから二つ返事でついて行くことにした。
勇者パーティー。それは今、世界を騒がせている世界の破滅から皆を守る為に各国から集められた熟練の戦士達だ。
その中に雪原の足跡から一名、遠征に行くらしい。
席に着いてからゲアートさんやデリカさんと色々な話をしていると、遂に遠征式が始まった。
遠征式には全八ヵ国からそれぞれの代表が集っているみたいで規模は段違いだ。各国の騎士がそれぞれ行進しながら道を作って行く。
騎士が作った道が完成すると、一人の少女が歩み出た。薄紫色の髪とモルガナイトの瞳に眼鏡をかけた少女だ。
「皆様、初めまして。シュネー第二王女のクラーラと申します。この度、勇者ご一行様の遠征式の司会を務めさせていただきます。以後、お見知りおきください」
クラーラ第二王女。その名を知らない人間なんてこの国にはいないだろう。
何故かというと、よくお城の外に遊びに出掛けているからだ。時には他の国にまで行くほどだ。二年前にはクリスタル家にも遊びに来たことがあった。
そして、眼鏡を外すと一気に視界が悪くなるらしく、よく怪我をすることでも有名だった。
「それでは、勇者様ご一行の入場です!」
クラーラ王女がそう言うと五人の戦士がそれぞれ入場して来た。五人のうち、二人は騎士の作った道を進み、うち三人は上空から優雅に着地をした。
「では、勇者様方のご紹介をさせていただきます」
クラーラ王女は順番に勇者パーティーの五人を紹介していった。
先ず紹介されたのは勇者パーティーのリーダーのホクさんだ。続いてフェザーさん、カイさんと紹介されていった。
先に紹介された三人は入場の時に上空から派手に登場した人物達だった。
続いてルイさん、最後にデルマさんと紹介されていった。
デルマさんとは少し前に会っている。何せデルマさんは雪原の足跡から勇者パーティーに参加した人物だからである。
デルマさんは綺麗な茶色い髪にスモーキークォーツの瞳を持った強い女性だ。
以前手合わせをしたことがあるが、手を抜いた状態でもめちゃくちゃ強かった。
あんなに強かったデルマさんが所属する勇者パーティー。絶対に強いんだろうな・・・
そんなことを考えている間に各国の代表が勇者達に送る言葉を終えて、遂に勇者パーティーが長い遠征に旅立つ瞬間が来た。
周りの観衆は皆大喜びである。「これで世界は安全よ」、「今日は祝い酒だ」、「勇者様!頑張れ!」といった声が次々聞こえる。
一方ミーナ達の方を見てみると、アリアは何か考えるように顎に手を当てている。、ミーナはそもそも人が多いところが苦手だからか、ユキを抱いたままアリアの後ろに隠れている。ゲアートさんとデリカさんはデルマさんの安全を祈るように手を合わせている。
私は前世で聞いたキズナとメイの言葉が引っかかっていた。前世の世界は滅亡まであと何年あるのかわからないが聞いた日付は同じ五月六日だった。
今はそんなことを考えていても仕方ないと割り切り、勇者パーティーが遠征に出発するのを見送った。
遠征式が終わると、ゲアートさんとデリカさんとは一旦別れた。
私達は今夜のパーティーに向けて買い出しをしていた。三人とも好きな食べ物が全然違うから時間がかかった。
私はお肉系が好きだけど、ミーナはお魚系が好きだった。(魚と言ってもマモノからドロップした一部)
アリアは特にこれという好みがないみたいで、私とミーナの好きな物を買い物カゴに入れまくった。途中アリアが、
「野菜も食べなくては栄誉が偏ります」
ということで野菜も沢山カゴに入れた。
実を言うと、私とミーナは少し野菜が苦手だった。特にピーマンは二人揃って苦手だ。
そんなこんなで、楽しい買い物の時間があっという間に終わった。
合計金額は金貨三枚、けっこう高かった。
私とアリアで買った物を持って、ミーナはユキを抱いたまま家への帰路についた。
帰りの道中、ミーナがオニキスを見せてと頼んできたのでアリアにも見えるように、ミーナに見せた。
「これがオニキス。凄いキラキラしてる」
「本当ですね。帰ったらアマラ様達にもご報告しなくてはいけませんね」
ミーナとアリアもうきうきだった。ただ、それと同時にこれからはこの宝石をどうやって守るのかも考えなくてはならない。
ここは力こそ正義の世界だ。ゲアートさんとやったように闘技場の賭けに出す場面がこれから多くなるだろう。何せオニキスを含め、たった十六個しかないから狙ってる人は山のようにいる。私達は家も、この宝石も守らなければいけないのだ。
そんなことを考えて歩いていると、いつかの司祭さんが立っていた。
司祭さんはこちらに気付くと、手を振ってくれた。
アリアは何を感じたのか、私とミーナを守る態勢を取った。
「おや?どうしましたか、アリアさん。私は協会のものですよ?」
司祭さんが自分の身の潔白を晴らそうと話しかけた。
でもそれは悪手だった。理由は私の警戒心も上限に達したからだ。
「すみません、司祭様。どうもあなたからは私達に危害を加えて来そうな気配があったもので」
アリアは一切隠すことなく告げた。
「何かの勘違いでは?私は協会の司祭ですよ?危害など加える理由が・・・」
ありませんとでも言いたいんだろう。けど、私の鼻は見逃さなかった。
「じゃあ、司祭さんが今持っている鍵は何ですか?」
そう。司祭さんは【鍵】を持っていた。
「これは・・・協会の鍵ですよ」
司祭さんは言い逃れをしようとしていた。ただ・・・
「協会には測定室を含めて鍵をかける場所はなかったと記憶していますが。私の古郷であるコネクトだけでの話でしょうか?」
アリアが追撃をする。
コネクトというのはアリアがお父様と契約する前に居た国の名前だ。
「そうですね。シュネーの協会では鍵をかける部屋がございます」
嘘だ。私も測定に行った際に協会の全部を見た訳ではないので確かなことは言えない。だけど私には確信があった。それは・・・
「なら、何で司祭さんが今持っている鍵からお母様とお父様の匂いがするの?」
そう。司祭さんが持っている鍵からはお母様とお父様の匂いが強くこびりついていた。
私の発言を聞いた瞬間、アリアとミーナが耳を疑った。
「ちっ!これだからマジカルランクが高い奴がいると面倒なことになるんだよ!」
司祭さんの化けの皮が剥がれた。
「ど、どういうことですか?司祭さん」
ミーナが未だに信じられないと言わんばかりの声で司祭さんに問いかける。
その時、私はとても嫌な予感がしていた。家が危ない、なんて生易しいものではない気がした。
そう思った瞬間、私は既に走っていた。
「行かせるかよ!」
司祭さんのそんな声が聞こえたと同時に棒みたいな物が顔面に迫っていた。
「させません!」
間一髪で棒が私の顔に当たることはなかった。振り向けば、アリアがボールを司祭さんに当てていたみたいだった。アリアはいつの間にか臨戦態勢に入っていた。
「カトリーナ様!ミーナ様!ここは私に任せて、早くアマラ様達の元へ!」
アリアに言われ、ミーナの手を握り家へ向かった。
アリアは大丈夫、絶対大丈夫。だってこの世界は、どんなことがあろうと人間は殺されないんだから・・・
どれだけ走っただろう。私もミーナも既に息が上がっていた。でもお陰で家が見えて来た。
「もうすぐだよミーナ。もうすぐ・・・」
そう自分を鼓舞して足を動かし、玄関付近まで来た。ところが・・・
「待て。ここから先は立ち入り禁止だ」
知らない男の人達が玄関をふさいでいた。
「通してください。私たちはクリスタル。この家の持ち主です」
私は震える声で玄関をふさいでいる男の人に語りかけた。
「クリスタル?あぁ、奥で寝ている夫妻の子供か。」
奥で寝ている?いやな予感が強くなった。
「ただ、残念だな。この家はもう、お前らの物じゃない」
何を・・・言っているんだ?
「それより、お母様とお父様は何処ですか!」
ミーナが必死に語りかけた。
「あぁ、あの夫妻なら」
道をふさいでいた男の人はそこまで言って、屋敷の中になにやら指示を出した。
それから数分後
「おら!お前らの両親だ!」
男の人はそう言ってお母様とお父様を蹴り上げた。
ただ、お母様達に反応はなかった。
「お母様?お父様?」
ミーナは状況がよくわからないからか、お母様達を呼び続けている。次第にミーナから涙が溢れて来た。
「あなた達。お母様達に何をしたの!?」
私はいつの間にか声を荒らげてそんな、わかりきっていることを問いかけた。
「な~に。この家が欲しくてね、退いてくれって何度も頼んだけど了承してもらえなかった。だから、殺して所有権を奪ったのさ」
やっぱり、お母様達は既に。命の鼓動が全く聞こえないから薄々感じていた。けど・・・
「この世界では人は殺せないはず。それに家の所有権が欲しければ闘技場で・・・」
戦って盗りに来ればよかったじゃないかと言おうとしたところで司祭さんが戻って来た。
「いやいや。人が殺されないのは私達が普段食べているご飯から得られる精霊の加護のお陰。逆にいえば、精霊の加護を潜り抜けさえできれば人は何人でも殺せる」
司祭さんはそう言って来たが、アリアの姿が見当たらない。まさか・・・
「アリアさんは殺してはいませんよ。ただ、コネクトに帰って頂いただけです。」
アリアがコネクトに?
「何勝手なことしてるんですか?今すぐ会わせろです!」
ミーナは何時にも増して口調が荒い。
「何を勘違いしているんですか?クリスタル夫妻が亡くなられた今、アリアさんと結んでいる契約は破綻しました。あなた方はアリアさんと契約を結んでいない。お分かりですか?」
その言葉に私もミーナも言葉を失った。代わりにあるのは強烈な喪失感のみ。
「あなたたちは家と両親だけではなく、全てを失ったんですよ!」
司祭さんの高笑いを耳にして、私達は目の前が真っ暗になった・・・
今日が西暦一億九八七〇万四三二五年、五月六日・・・
今日から一年後、世界が滅ぶとされている日だ。




