失った後
家を盗られてから三日後、私とミーナは雪原の足跡に寝泊まりをしていた。ゲアートさんやデリカさんが色々と援助はしてくれているが、喪失感は絶大だった。
家を盗られたのはこの際どうでも良かった。私達の心を深く抉ったのはお母様とお父様が永遠に帰って来ないこと、そしてアリアの不在だった。
唯一手元に残ったのは、ゲアートさんとの試合で勝ち取った宝石とユキだけ。
この三日間、ミーナはユキを抱き続けているが一切笑顔を見せない。それどころか毎晩悪夢に魘されているのか、夜は大泣きをしている。
私も、悲しさであまり寝れていない。
「カトリーナ嬢・・・お客様が来ているが・・・」
ゲアートさんが控えめに言って来た。
お客さん?こんな時に?
私はそう思いつつも、ゲアートさんにミーナを任せてギルドのロビーに移動した。
ロビーに行くとデリカさんがいた。
そして対面には・・・司祭さんが座っていた。
私は恐る恐るデリカさんの隣に座ると司祭さんに向かい合った。
「それで、何の用かしら?できればこの子達とあなたを合わせたくないんだけど」
デリカさんの声は、何時にも増してドスの効いた声になっていた。
デリカさんの言う通り、私は司祭さんと顔を合わせたくなかった。
「失礼だな。こっちはそこのガキに用があって来たんだよ」
司祭さんは本性を隠すことなど一切する事なくぶちまけた。
「用って・・・何ですか?」
私は少し恐れながらも、司祭さんに用件を尋ねた。
「お前が今持っている宝石を渡せ!」
どうやら、司祭さんの目的は【オニキス】らしい。だけどこれは渡せない。
「渡せません。どうしても欲しいなら試合で奪いに来てください。」
「そっか。なら、仕方ない。殺して奪うか!」
司祭さんの言葉には迷いがなかった。司祭さんは何処からか包丁を取り出し、私目掛けて降り下ろした。
すかさずデリカさんが助けてくれたが、デリカさんに傷ができてしまった。
「あらあらあら。折角の綺麗な肌なのに傷ができてしまったね。そこのガキを庇うから・・・」
司祭さんはそう言うと包丁を机に置いて私の前まで来た。そして、私のお腹を勢い良く蹴った。
「さっさと宝石を寄越せ!こっちは暇じゃねーんだよ!」
意識が朦朧とする中で、司祭さんの苛立ちを帯びた声を聞いた。
「そうやって、クリスタル夫妻も殺ったんだね?」
「あぁ、そうだよ。全く、あいつらは。頑固にも程がある。殺して清々したぜ」
司祭さんの嘘偽りない本音。こんなに不快な気持ちは前世でもなかった。
「それより。この子達の両親の遺体だけでもこっちに引き渡してもらおうか。せめてこの子達の手で埋葬をさせてやりたい」
デリカさんは司祭さんに要求を突きつけた。
「それはダメですよ。知ってるでしょ?亡くなった人間は全部エレージアで埋葬されるって」
今、全部って言った?全員じゃなくて全部?
「お母様達を物みたいに言わないで!」
私は声を荒らげて司祭さんに訴えた。
そんな私をデリカさんは静かに宥めてくれた。
「話は以上ですか?でしたら本日はお帰りください。それと本日から一週間、我がギルドには一切近づかないでください」
デリカさんは司祭さんに一週間のギルドへの立ち入りを禁止すると、話合いは終了した。
その後しばらく休憩を取ると、私とミーナはデリカさんにギルド長の部屋に呼ばれた。
「来てくれてありがとう。早速だけど、あなた達をこのギルドに置いておくことが難しくなったわ」
デリカさんは用件を簡単に話してくれた。ミーナは驚いているが、理由はわかっている。
「ミーナにはまだ説明していなかったわね。さっき司祭が来たのはミーナも知っているわね?」
デリカさんの簡単な問いにミーナは頷いた。
その後デリカさんはミーナにさっき起こった出来事を順番に教えていった。
司祭さんが【オニキス】を狙っていること。その為なら平気で人を殺そうとしてくること。【オニキス】を渡さない私に包丁を向けたことなど。
それを聞いたミーナは既に泣いていた。
「お願いだから、ねぇ様はいなくならないで」
ミーナの願いを聴いて、私はそっとミーナを抱き寄せた。大丈夫、ミーナを置いていなくならないよとミーナに伝えた。
「それであなた達をせめて遠い所に、もしくは強力なボディーガードでも引き込むことができればあの司祭が何をしようと対処できるはずよ」
強力なボディーガード?でも探すのが難しい。遠い所に行くにしても、そんなお金がない。
そう思った時、デリカさんは二通の手紙を出した。
「この手紙はアリアがコネクトに行く前にあなた達に渡して欲しいと依頼された物よ」
アリアが私達の為に・・・
デリカさんから手紙を受け取ると、手紙に目を通した。
手紙の内容は、一番最初に謝罪の言葉が並んでいた。謝罪の言葉があってもあれは不慮の事故。そして契約はお父様と結んでいたもの。アリアが謝る必要はない。
続けて書いてあったのはアリアの今後についてだ。アリアは故郷のコネクトに帰るみたいだった。
だけど、その後の文面に目を奪われた。その内容はコネクトの闘技場でアリアと契約を結べば再びメイドとして生涯を尽くすと記載されていた。
「アリアはあなた達を見捨ててなんていない。ただ、あの場は司祭に帰れと言われたから従っただけ。契約を結ぶ機会はまだ十分残ってる」
デリカさんは捕捉としてあの時のアリアの状況を教えてくれた。そしてデリカさんは二通目の手紙を差し出した。
「あなた達にコネクトまで行く勇気があるなら、この手紙の内容と目的を教える。どうする?」
アリアに会いに、コネクトに・・・
それはとてつもなく遠い道のりだった。昔アリアに地図を見せてもらったけど、シュネーとコネクトの距離はめちゃくちゃ遠かった。
更にシュネーとコネクトの間にもう一つの国『トップシャイン』があった。トップシャインを通らずに行けるルートもあるらしいが、遠回りになるのと休憩場所が一切ないらしい。
私とミーナは顔を見合せ、どうするか話合った。無論、話合うまでもなかった。
「危険な冒険になるのは分かっています。それでも私達は、アリアに会いたいです!」
私は決心をして、デリカさんに考えを伝えた。
デリカさんはミーナの方にも顔を向けたが、ミーナの考えも同じだった。
「あなた達の決意が眩しいよ」
デリカさんはそう言って微笑むと、二通目の手紙について話始めた。
二通目の手紙は簡単に言うと、王に謁見をする為に必要なだった。
城への入場許可証と、王に旅の支援を求めたいという要望書だった。
「数日後にはこの手紙と荷物を持ってこのギルドから離れてもらう。何時、あの司祭が来てもおかしくないからね」
デリカさんはそう言うと、何やら紙を取り出した。・・・文字が多すぎて私もミーナも目が回りそうだった。
「これは、ギルドが他国へ仕事に行く際に最低限必要になることだから説明するね」
デリカさんはそう言うと、解説をしながら紙に書いてある文章を読んでくれた。
まず始めに、他国への道のりについて話してくれた。森や川、砂漠地帯に火山エリアなど様々なものがあるらしいがどのエリアにも強力なマモノが生息しているらしい。
その為街を出て国境の門に行くにはどうしてもある程度力を持った選手が数人いるみたいだった。
私はこの前ゲアートさんと試合をやっているから問題ないけど、ミーナはまだ試合未経験だ。それに、この前のデカスライムだって三人がかりでやっと倒したマモノだ。門に行くには力不足すぎる。
「そこで!急遽ミーナの初試合をする事になった」
そんな私の心配を察してか、デリカさんは準備を進めていてくれた。
「今回対戦をお願いしたのは、各国で試合を荒らし回ってる通称ドラミングブラザーズ」
ドラミングブラザーズ、聞いたことがある。確か各国の強い選手に喧嘩を吹っ掛けて、何度も勝利のアピールとして自身の胸を思いっきり叩く『ドラミング』を披露してきた凄腕の選手の名称だ。
「そんな強い人と、ミーナが・・・」
ミーナは見るからに不安な表情をしていた。
「確かに、ドラミングブラザーズは強い。カトリーナが初めて戦ったゲアートの何倍もね」
その言葉を聞いて、私もミーナも言葉を失った。
「だから、今回は二対二で勝負を申し込んだ」
デリカさんは二対二の詳しいルールを教えてくれた。
二対二は強力して相手チームを倒す競技となっている。チームの組み方によっては裏切り行為も許容範囲内らしい。
今回はミーナとだから、裏切りについては大丈夫だろう。
ただ、懸ける物は試合が始まる前に相手側から要求されるらしい。
わからないのは、何でミーナの初試合を兼ねている試合の相手が試合の荒らし物かということだ。
「ドラミングブラザーズはかなりの数の選手を倒して勝利のアピールをして来た。実際、各国の重鎮達も倒せる選手を探している」
どうやら、かなりの問題になっている選手のようだ。
「だけど!それを試合回数が少ないあなた達が倒したらどうなると思う?各国での旅がより円滑に進む可能性がある。いうなれば、この試合は各国にあなた達という存在をアピールできる機会ということさ」
デリカさんは今回の試合にドラミングブラザーズを選んだ理由を語った。確かにそれは魅力的だった。私達の強さを各国にアピールできればそれだけ早くアリアに会える。
「でも、それって勝たなければ意味ないですよね?」
ミーナの問いはもっともだ。勝たなければ私達の強さをアピールできない。かといって簡単に勝てる相手でもない。更に勝てないと確信する追い討ちになるのが、彼らのマジカルランクだった。彼らのマジカルランクは脅威のA。
マジカルランクは高ければ高いほど試合で有利になる。微量な経験値量で差が出ると言っても過言ではない。実際、お母様のマジカルランクはCだったからほとんどの選手に手も足も出ない。
私が初めて戦った時のゲアートさんとはランクは同じだったが、微量な経験値量の差があって苦戦した。
あの時は犬の本性をフルに出して倒したけど、あれはかなりしんどかった。
ミーナのマジカルランクはゴタゴタが多すぎて、再測定はできていない。せめてランクDはあって欲しいところだ。
「ミーナのマジカルランクを測りたいんですが、測定器はありますか?」
私は意を決して聞いてみた。
本来、測定器は協会にのみあるもの。協会に行ったらあの司祭さんと会うことは確実なのでそれは避けたかった。
「すまないね。測定はやっぱり協会に行くしか方法がないんだよ」
結果は分かりきっていたことだ。
「でも、私とゲアートで特訓をつけることはできる。どうする?」
デリカさんが代わりに特訓の提案をしてきた。
確かに、ドラミングブラザーズとの試合まで三日間時間がある。それにデリカさんもゲアートさんも実力的には良い練習相手になる。
私はミーナと目線を合わせて互いに頷いた。
「「よろしくお願いします!」」
私とミーナは口を揃えてお願いした。
それから特訓が始まった。
特訓といっても少し遊び要素を加えたものになっている。
まずデリカさんとはかくれんぼ、ゲアートさんとは鬼ごっこなどをしながら、その後ドラミングブラザーズの過去の対戦の様子を聞いたりした。
ドラミングブラザーズの過去の対戦を聞いていると、腕の攻撃が高いことが分かった。ゲアートさんが話を聞いていると、ゲアートさんでも一撃を受け止めるのが難しいと言っていた。
聞き取りが終わると本格的な試合の練習に移った。内容は至ってシンプル。ゲアートさんを戦闘エリアから押し出す、走り回るデリカさんを捕まえるなどの練習をして行った。
そして、私とミーナにはそれぞれの課題が与えられた。
私は犬の体勢の維持、部分的な能力の解放、そして体力の使い方。
ミーナはひたすらに殴ったり、蹴ったりの練習をした。デリカさん曰く、ミーナのマジカルランクはDより更に上な気がするとのことだった。
それから遊びも含めて特訓をしていき、試合前日の夜。私達は明日に備えてたっぷり休息を取っていた。
「デリカさん。ミーナが試合中、ユキをお願いします」
ミーナは試合中のユキのお世話をデリカさんに任せた。デリカさんは快く引き受けてくれた。
「相手はかなりの強敵よ。この数日で特訓をしたとは言っても、油断せずに頑張ってね」
デリカさんはこれまで沢山のアドバイスをしてくれた。相手がどんな強敵でも、今の私達なら簡単に諦めたりはしないと確信があった。
「そうそう。大事なことを言い忘れていた」
デリカさんはそう言うと、私達が一旦預けていたお金を返して来た。
「明日の試合前にバナナを何本か買っとくと良いわ」
「「えっ!?」」
試合前にバナナと聞いて、私とミーナの思考は完全に停止した。




