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初試合

 デカスライム討伐から一週間、ミーナがスライムを倒して連れ帰ったウサギとの生活にもだいぶ慣れた。

 ミーナが連れ帰ったウサギをお母様が始めて見た時、最初は混乱したけどアリアが事情を説明すると感極まってミーナを無限よしよしした。

 ウサギには「ユキ」と名付けられた。名付け親はミーナ。何でその名前にしたのか聞いたら、

「だって雪のスライムを倒したら出てきた生き物でしょ?そして何より雪みたいに白いから!」

 だということらしい。

 ユキの性格は人見知りかつ臆病な性格みたいだった。初めてお母様と対面した時は、ミーナの足に隠れて怖さの影響なのか震えていた。

 数日でお母様にやっと慣れたと思ったら、考えが甘かった・・・

 何せお父様との対面がまだだったからだ。お父様もミーナが初めてのマモノ討伐をしたことには大はしゃぎで喜んでいたけど、ユキは完全に固まっていた。

 そして今は少しずつ打ち解けていっている段階だ。

 私もユキとは親しくなれたと思うが、一つだけわからないことがあった。

 それは、『ユキが何者なのか』ということだ。ただのウサギだと言われたらそうなんだけど、この世界に人間以外の生き物はマモノ以外はいないはず。それにアリアから聞いた話ではマモノは生き物であるか怪しいとのことだった。

 アリアの見立てでは、ユキはマモノですらないらしい。アリアは危険な存在の気配を感じることができる。マモノからはそこまで危険な気配はなく、独特な気配を感じるとと少し前に言っていた。

 逆に家を狙って来てお父様に返り討ちにあった人達からは危険な気配を感じたらしい。その理由からいつも家を狙って勝負を仕掛けて来た人達から私とミーナをいつも庇うように守っていてくれた。

 ユキの話に戻ると、ユキからは危険な気配もマモノ特有の気配も感じないらしい。

 次第にアリアのユキへの警戒も解けていった。

 今ではミーナがユキのお世話をしている横でいろいろアドバイスをしている。私もユキのお世話を手伝っているけどアリアからのアドバイスを元にしている。

 ユキのお世話を初めてからミーナの表情の明るさがました。最近ではミーナのテンションが一日を通して高い。それだけユキとの生活が楽しいんだろう。

 そういえば、私が初めてキズナと出会ってから少したったらキズナも一日を通してテンションが高く、ずっと遊んでくれてたっけ?


 そんなことを考えて数日後、遂に私が初めて闘技場に立つ日がやって来た。

 実はこの日は三年ぐらい前から確定していた。その対戦相手はこの国の唯一のギルド【雪原の足跡】のメンバーの一人、ゲアートさんだ。

 今回の試合の目的は私の初めての試合ということで、試合がどういうものか経験させる為に行うらしい。そしてお母様がギルドに依頼をしてゲアートさんが引き受けてくれた。

 試合で賭ける物はまだ決まっていないが、ゲアートさん達ギルドが今回の試合で賭ける物なら先に提示してくれた。

 その賭ける物とはギルドが所有する宝石【オニキス】だった。

 最初は冗談かと思ったが、本当の話らしい。ゲアートさんにも確かめに行くと、どうやらギルドマスターにも話は通してあり許可を取っているみたいだった。

 もう少し話を聞いてみると、お母様がゲアートさんに依頼をした時に私が宝石に興味があることも話したみたいだった。それなら宝石の争奪試合を経験させた方が今後の私の為になるということで合意したみたいだった。

 そんな希少価値の高い物を賭けると宣言してくれた雪原の足跡に対して、私は何を賭けたらいいんだろう?

 考えて考えて、今私に賭けれる最大限を試合に賭けることにした。それは、私の貯金をギルドへの報酬金にするということだけだった。

 お母様がギルドへの依頼の際に既にお金は払ってるらしいが、宝石を賭けると宣言してくれたギルドに対して私が出せる最大限は貯金を追加で報酬金として出すことだと考えた。

 今私が貯めてる貯金額は、大金貨二枚、金貨八六枚とかなりの高額になっているはずだ。

 そうして試合に行く準備を着々と進めていると、お母様が笑顔で近づいて来た。

「頑張ってね、カトリーナ!勝っても負けてもあなたにとってはいい経験になるはずよ」

 そう言うとお母様はポケットからある箱を取り出した。

「今日の試合が終わったら、初めての試合のご褒美にこの箱の中身をあげるよ。勝敗に関係なくね♪」

 箱の中身は見せてくれなかったけどどうやら試合が終わった後に貰えるらしい。

 身支度を終えるとお母様に向き直って、毎日練習した笑顔で元気に出発の挨拶をした。

「お母様!行って来ます!」

「いってらっしゃい、カトリーナ。ミーナとアリアは先に会場の観客席に行ってるから胸を張って闘技場に足を踏み入れるのよ!」

 お母様はそう言うと、笑顔で私を送り出してくれた。お母様とお父様は今日の試合を観ることが難しいみたいだった。

 お父様はまた家を狙いに来ている人がいるらしく、朝から出掛けている。お母様は家で美味しいご飯を用意していると言っていた。あとは、箱を誰かに取られたりしたら絶対にダメだからということで家で待っているらしい。

 お母様もお父様も本当は私の晴れ舞台をこの目で見たかったみたいだった。私の試合の様子は後でアリアから聞く手筈になっているらしい。


 そんなことを考えながら歩いていると、遂に闘技場の入り口に辿り着いた。

 入り口付近には対戦相手のゲアートさんが立っていた。

「おっ!来たな、カトリーナ嬢!」

 私を見つけるとゲアートさんは元気に挨拶をしてくれた。

 だから私も負けずと元気に挨拶をした。

「こんにちは、ゲアートさん!今日は宜しくお願いします!」

「元気いっぱいだな、カトリーナ嬢!こちらこそ今日は宜しくお願いします!」

 軽く挨拶を交わし、私とゲアートさんはそれぞれの入場ゲートがある待機室に向かっていった。

 待機室で私はストレッチを始めた。お父様からのアドバイスでストレッチは継続的にやっている。ストレッチをすると体が軽くなる感じがした。

 会場では審判さんが私とゲアートさんの紹介をしている。

 もうすぐだ。私は決意を新たに入場ゲートに突き進んだ。


 時は少し遡り、闘技場の観客席。

 ミーナは、ねぇ様の晴れ舞台にドキドキしていた。

「ミーナ様。お気持ちはわかりますが、少し深呼吸をした方がよろしいかと」

 アリアに言われてゆっくり深呼吸をした。

 私に倣って腕の中のユキも深呼吸をする。

 ユキもねぇ様のことが心配だったのかな?

 そうこうしていると、審判が出てきた。

「皆様。大変長らくお待たせしました。これより今回の出場選手の紹介をさせていただきます」

 審判の人がそう言うと、会場が盛り上がった。

「ア、アリア~。手を、繋いで・・・」

 アリアにそう頼むと、アリアは私の手を優しく握ってくれた。

 ミーナは人が沢山いるこういう場所は正直苦手だった。

 けど今日はねぇ様の晴れ舞台。妹として、家族としてきちんと闘技場に行って観たい気持ちが大きかった。

 けど、いざ闘技場に来ると・・・めちゃくちゃ人が多い!!アリア~、手を離さないでよ・・・

「今回の対戦カードは!クリスタル家のご令嬢、カトリーナ・クリスタル選手!」

「ミーナ様。カトリーナ様がご入場されましたよ」

 アリアに言われ目を向ければ、ねぇ様が会場に立っていた。

 その立ち姿は凛々しく、何より美しかった。

 ミーナはそんなねぇ様に強い憧れを持っていた。

「対するは!雪原の足跡所属、ゲアート・ヴァールハイト選手!」

 次に会場に入って来たのは、今回ねぇ様と対戦をするゲアートさんだ。

 ゲアートさんを改めて見てみると、凄くしっかりした体型をしていた。腕や脚は程よく筋肉がついていて、簡単に押し倒すことは不可能だと暗に伝えてるみたいだった。

 ねぇ様はこんな強そうな大人に勝てるのか・・・

 そんなことを考えていると審判が今回の試合で互いが賭けた物を紹介した。

「今回の試合で互いが賭けた物はこちら!ゲアート選手が賭けるのは雪原の足跡が所有する宝石【オニキス】!」

 宝石を賭けてることを知ると観客席中がざわついた。

 事前に知らされてはいたけどミーナも驚いた。隣でアリアも未だに信じられないといった表情でねぇ様に注目している。

「そして、カトリーナ選手が賭けるのはギルドへの依頼報酬金!」

 それを聞いた瞬間、観客席中は静まり返った。代わりに聞こえる声には、「宝石と対抗して賭けたのがお金?」、「それって釣り合う物がなかったってだけでは」、「クリスタル家が聞いて呆れる」といった罵詈雑言だった。

 だけど、ミーナ達は悟った。ねぇ様がどれだけの思いでその決断をしたのか。

「その金額。なんと大金貨二枚、金貨八六枚!」

 それを聞いた瞬間、また観客席がざわつき始めた。

 ねぇ様が賭ける金額を聞いた瞬間、ミーナとアリアは共に息を飲んだ。

 なぜならその金額はねぇ様が宝石を買うためにお小遣いを貰い始めた時からずっと無駄使いせずに貯め続けた、ねぇ様の全財産だからだ。

「ねぇ様。本気なんだ・・・」

 ねぇ様の覚悟にミーナは言葉が出なかった。

 試合が始まる前から、ミーナはねぇ様の決意を感じ取っていた。


「その金額。なんと大金貨二枚、金貨八六枚!」

 そんなことを審判さんに宣言された直後、私は対戦相手のゲアートさんに視線を向けていた。

「本気か?今回は試合がどんなものか経験させるという契約で依頼金も既に受け取ってる。それなのに、何故?」

 ゲアートさんの問いはもっともだ。今回はお母様が既にギルドへの依頼金は渡している。つまり賭けは試合が始まる前から成立していると言ってもいいのかもしれない。

 それでも私は・・・

「ゲアートさん、言いましたよね?これは宝石の争奪試合を私に経験させる為に用意してくれた舞台だって。いくらお母様が用意してくれた試合だとしても、私も大事な物を賭ける覚悟を持たないと宝石の争奪試合を経験したことにはならないんじゃないですか?」

 私は自分の考えを伝えた。ゲアートさんはしばらく考え、

「確かに!その通りだな!すまん、俺の考えが足りなかった!」

 ゲアートさんはそう言うと、これ以上を語るなら拳で語ろうと戦闘態勢に入った。

 それに応えるように私も戦闘態勢になった。

 審判さんは私とゲアートさんを順に見渡し、

「試合、開始!」

 試合開始を高らかに宣言した。

 開始と同時に、ゲアートさんが勢い良くこちらに迫ってきた。

 ゲアートさんは手を大きく振り翳し、一気に地面に叩き付けた。

 よく見たらゲアートさんの手にはいつの間にか巨大な爪が生えていた。

 危なかった。さっきのにあたっていたら間違いなく一撃でやられていた。

 私は態勢を立て直して、ゲアートさんにパンチをお見舞いした。

 だが、結果はかすり傷すら与えられていない。固すぎる!

「どうだ、俺の防御力は。残念だが今のカトリーナ嬢の実力では到底適わない」

 ゲアートさんはそう言うと、勢い良く私を蹴り飛ばした。

 重い。体の見た目は標準体型なのにこの蹴りの重さ。これは人間同士の戦いではないと考えた方が良さそうだ。

 いつもみたいに戦ってたら確実に負ける。マモノと戦っている時、ミーナやアリアと手合わせをする時みたいな力では勝てっこない。

 人間としてこの世界で学んで来た戦い方じゃダメだ。もっとこう・・・野生味のある感じで・・・

 そうだ、犬としての本能だ。私の前世は静かな家の中で育ったけど、犬としての防衛本能は生まれてから備わっている。

 だから私は態勢を変えることにした。両手を地面につけ、片足を曲げてもう片方は足指で全身を支える。そして目を鋭く、歯を噛み締めて、よく歯を見せる。仕上げに・・・

「グルルル」

 と喉を低く鳴らす。

 私の豹変ぶりに驚いたのかゲアートさんが警戒している。

 観客席の方からは、「どうしたんだ?」や「あれではほとんど魔物と変わらないのでは」という声があった。

 だけどそんな声に構っている暇はない。今は感覚に集中するんだ。

 ゲアートさんが爪を出す音、爪を出す動き、全て感じる。ゲアートさんの匂いも感じる。若干右手と左手で匂いが違う。そして、少し気温が下がった?

 そこまで考えたら、一先ず攻撃を仕掛ける!

 私はゲアートさんに態勢を変えず襲いかかった。ゲアートさんはすかさず反応したが、反応した手は左手だった。ゲアートさんは右利き、そして最初の一撃も右手だった。左手の力がどれくらいかはわからない。だが、人間の場合はどっちかの方が使いやすいだろう。現に今の私も右手を中心に使っている。

 キズナとメイだって右手を中心に使っていた。

 予想通り、左手を使った攻撃は今の私の速度には追い付けなかった。

「速い!」

 私はひたすらゲアートさんの周囲を駆けずり回った。

 ゲアートさんの攻撃は確かに強い。だけど、その分攻撃までの動き、歩き方も比較的遅い。

 今の私の動きなら目眩ましになる。そう思ったが・・・

 急に雪が降ってきた。そして数分で積もった。

 今の私のスピードだと確実に転ぶ・・・そして転んだ。

 ゲアートさんは積もった雪の上をまるで何事もないようにのしのしと力強く歩いて来る。

「そんなに雪の上を走ると危ないぞ、カトリーナ嬢」

 ゲアートさんはそう言うとおもいっきり腕を振り上げた。

 今度は右手で・・・今度こそ決める気だ!

 ただ、私には積もった雪の上なんて慣れっこ!

 ゲアートさんが拳を振り下ろすのと同時に、私は雪の上をゴロゴロと転がっていった。ゲアートさんも私の行動が不自然だったからか大きく目を見開いている。

 私はちょうどいい場所まで転がると、今度は二本足で立って攻撃態勢に入った。

 相手もだいぶ混乱している。ここからは人間として戦うと決めた。

 私が戦闘訓練を始めてから学んだことが一つある。それは、攻撃意思の切り替えだ。

 生き物はみんな攻撃されると思うと攻撃し返す、あるいは逃げる。これは前世からある知識、「生存本能」だ。

 殴る勢いでゲアートさんに飛び付くと必然、ゲアートさんも攻撃しようと攻撃態勢に入る。

 だが、それが狙いだ。

 だから私は空中で攻撃の手を下ろした。ゲアートさんは突然のことに混乱している。そして私は、満面の笑顔をゲアートさんに向けた。

 ゲアートさんも観客席にいる観客も一瞬戸惑った。その戸惑いの一瞬にゲアートさんの右足を掴み、バランスを崩した。結構重かったけど、少し足を後ろに押すだけでいい。

 ゲアートさんは重たい体の為か歩くスピードはゆっくり目だった。そして攻撃の速度もゆっくり。これはある意味、体全体への負担を減らす為にゆっくりした動きを意識しているんだろうと考えた。

 更に地面は雪の大地。少しでも態勢を崩したら起き上がるのは流石に難しいだろう。

 ゲアートさんが態勢を崩したのを見てから私はゲアートさんの右足から離れた。そして、ゲアートさんの胸あたりにパンチを一発お見舞いした。

 ゲアートさんの意識はまだあったけど、ゲアートさんは満足そうに倒れていった。

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