経験値を稼ぎます
あれから十一年。すっかりこの世界の暮らしにも慣れて、私も言葉を話せるようになった。
いろいろと理解できたから少し整理をしてみみよう。
今私が住んでいる国の名前が「シュネー」。そしてクリスタル家はシュネー国内でも地位が高い存在、キゾクらしい。
そして今の西暦も生活していく中でわかった。どうやら今は「一億九八七〇万四三二五年」らしい。
いや!桁が多すぎる!
そして私は一人でできることが増えてからの六年間、日課として朝起きて身支度を終えてから鏡の前で笑顔の練習をしている。
何故かって?それは私が初めて鏡を見た時に
(あれ?もしかして私って、けっこう可愛い?)
と思ってしまった。純粋な白い髪、そして耀くルビーの瞳。
別に世界一を自称する気はないよ。何故なら私より可愛いと思う人なら何人かいると思ってるから。けど、お母様もかなりレベルが高いと確信しているから、そんな綺麗なお母様の娘の私はどうなんだろうと思ってお母様に聞いてみらお母様は・・・
「もっちろん!カトリーナは可愛い私の娘!」
と言ってくれた。そして可愛いさを保つコツも教えてくれた。
「いい、カトリーナ。可愛い人はまず、笑顔が素敵な女性なの。だから、笑顔の練習だけは欠かしちゃダメよ!」
それを聞いた私は笑顔の練習を毎日欠かすことなくやって、いつのまにか自分の日課になっていた。
日課を終えて今私は家の近くにある大樹の木陰でお昼寝中。そんな時・・・
「ねぇさま~!」
そうやって走ってきたのは綺麗な淡緑の髪、澄んだシトリンの瞳を持った少女、私と三つ離れた妹のミーナだ。
私が世界一を自称しないのもミーナの存在が大きい。だって綺麗なお母様のもう一人の娘、そして何より私の妹。妹を差し置いて私が世界一を自称するわけにもいかない。
実際、お母様は私とミーナのどちらも世界一可愛いと思ってるらしく、どっちが可愛いか聞いても答えられないみたいだ(意地悪で聞いてみた)
「お待ちください。ミーナ様!」
ミーナを追いかけるように少し慌ただしくこちらに近づいて来たのは流麗な銀色の髪と透き通るサファイアの瞳、そして私とミーナにはない豊かな胸を持った女性、メイドのアリアだ。
アリアは私が二歳の時に始めてメイドとして来た。お父様曰くこれから先、お母様もお父様も私達の遊び相手をするのが難しくなるかもしれないとのことで、お父様がアリアとの契約を取ってきてくれた。もちろんあまり忙しくないときは全力で遊び相手をしてくれると約束してくれた。ただ、お父様は家を狙ってくる人達と毎日戦ってるみたいで基本はお母様と遊ぶことになる。
それとお父様がいうにはアリアはとても強かったらしい。私より三つ年上みたいだけど、とにかく強くてお父様もやっとの思いで勝ったみたい。どれだけ強いんだろう?
そんなことを考えてるうちにミーナとアリア、そして私のいつも遊んでるメンバーが揃った。
ちなみにお母様は今日大事な予定があるみたいで一緒に遊べないらしい。
「カトリーナ様。ミーナ様。本日はどちらに魔物討伐へ向かわれます?」
遊びと言ってもマモノ退治だ。私達はマモノを倒して強くなる。そして試合に勝つ!
何故試合に勝たなければいけないのかと言うと、夢があるからだ。
他の人達は試合を勝ち進んで「神の試練」というのに挑戦することを目標にしているらしい。神の試練に合格すると一人につき何でも一つ願いを叶えてもらうことができるみたい。
ただ、私達は神の試練なんてどうでもいい。私達が興味があるのは神の試練とは全く無関係の物だ。
その興味がある物は『この世に十六個しかない宝石』だ。私は好奇心から。ミーナはキラキラしている物が好きだから。アリアはどちらかといえば好奇心の方が強いみたい。
そこで私たち三人は話し合って決めた。三人で十六個の宝石を全てゲットしようと。
もし、誰かが既に持っていた場合は試合に勝って入手するしかない。まぁ分かりやすく言えば十六個の宝石の奪い合いみたいな物だ。
だから私たちは強くならなきゃいけない。そして現在の私達のマジカルランクは・・・
カトリーナ:ランクB(測定から変動なし)
ミーナ:ランクD(測定から変動なし)
アリア:ランクB(測定から二ランクアップ)
と、なっている。
私は初期ランクが高いからランク上げが難しいけど、ミーナは初期ランクが低いのに未だ上がらずにいる。その理由は・・・
「今日もいつものところがいい!今日こそスライムをぶっ倒す!」
なんと、初期マモノすら倒せずにいる。
倒せないとは言っても実力に問題がある訳じゃない。何回か私と模擬試合をしたことがあるけど、スライムどころかゴブリンやオーク、もしかしたらオーガすら倒せる実力がある。
けど、いざスライムと敵対すると・・・
「や、やめ・・・!やめるです!」
スライムに「無限よしよし」されてミーナは一切身動きができないのである。
あと何故かミーナは家族以外に対しては下手な敬語になりがちである。それが例えマモノであっても・・・
そして私達は・・・ミーナが無限に撫でられているせいで攻撃できない。
ミーナは撫でられ過ぎて、少し涙目になってきている。
そして、その涙目で私達に静かに訴えている・・・
(助けて~、ねぇ~さま~。アリア~)
けど、ミーナを盾にされているようで攻撃するのを躊躇ってしまう。
どうしようかアリアと顔を見合わせていると、もう一体スライムが近づいて来た。
スライムは合図でも出したのかミーナを撫でる手を止めてミーナを手放した。
・・・ミーナは余程気持ちよかったのか放されたのと同時に力尽きてそのまま地面にゆっくり倒れ込んでしまった。
そしてスライムは一斉に私とアリアに向かって襲いかかって来た。
「カトリーナ様!そちらをお願い致します」
アリアに言われて私が相手にしたのはさっきまでミーナを無限よしよししていたスライムだ。
よくもミーナを!そう思って勢い良くスライムに飛びかかった。
スライムはマモノの中でも一番弱い存在だ。ただ、弱いとは言っても侮ってはいけない。
実際初めてのマモノ退治でスライムに負けたという人は何人もいると聞いたことがある。ギルドに所属している人ですら天候によって、スライム退治の難易度が爆上がりするという。
今は晴天だからスライム退治の難易度は一番低いけど、天候が雨の場合はスライムの活動が活発になり、シュネーで一番多い天候の雪の影響下ではスライムの活動自体に影響は少ない。
逆に人間に影響が出る。シュネーの雪は一度降ったら必ず数十センチ以上は積もる。積もったら足が雪に埋まることは言うまではないだろう。天候が雪の時にスライム退治の難易度が上がるのはその為だ。
ちなみにスライムは積もった雪の中に身を隠せる。発見難易度も爆上がりという訳だ。
私はスライムをとにかく殴る。スライムはぷにぷにしているからダメージが入っているか毎回不安になる。それでもスライムが痛そうな反応をしているからダメージは入っていると確信できる。
私が何故殴る専門なのかというと、殴るのが攻撃手段として一番扱いやすいからだ。
この六年間の修行でいろいろな攻撃手段を試した。剣術や弓術、体術に槍術などいろいろ試した。試した上で選んだのが体術、その中でも腕や手を使っての戦闘が得意だとわかった。
おそらくこれは前世の影響が強いと思う。前世では後ろ足よりも前足でキズナ達とスキンシップを取っていた。だから自然と前足の位置にあたるであろう腕や手が使いやすいんだろう。
そうこうしているうちにスライムを一匹倒すことに成功した。戦利品は布だ。・・・しかも綺麗に畳まれている。
マモノを倒すと毎回戦利品を獲得できるのだが、ドロップする戦利品は何故か丁寧に保管されている。
食品の場合はきれいにラッピングされているし、布はさっきドロップしたとおり綺麗に畳まれている。他にもドロップする戦利品はあるが全部状態が良い。
そんなことを考えていると、アリアが心配になってアリアのところに向かおうとした。倒れ込んでいるミーナの目を覚ましてあげてアリアのもとへ。
アリアのもとへ駆けつけるとまだ戦っていなかった。
どうやら私が無事に勝つまで様子見をして待っていてくれたらしい。
アリアがスライムとの戦闘を開始した。
アリアは殴る、蹴るの体術はもちろん、剣術や弓術にも少し心得があるみたいだが、アリアの戦闘スタイルはそんな生易しいものじゃない。
アリアは自信が身につけているメイド服のスカートの中からある物を取り出した。
それは、瓶いっぱいに詰め込まれた唐辛子とうちわだ。アリアは食材に含まれる成分を上手く利用して戦う。
食材を戦闘に使うアリアだが、何も食材を粗末に扱ったことは一度もない。むしろ食材のあまり使わない部分も思考錯誤して何かに再利用する程だ。そして、戦闘で使った食材は近いうちに料理として出てくる。
スライムはうちわで空気中に漂った唐辛子の辛味成分を摂取してこちらもさっきのミーナと同じように涙目になっていた。
どうやらスライムは全体の九割以上が水でできているらしい。そして唐辛子の辛味成分は水と相性が悪い、と以前アリアが教えてくれた。
実際、体のほとんどが水でできているスライムは唐辛子の辛味成分を摂取することで体全体に辛味成分がいき渡った。
理由はよくわからないがスライムは辛いものが嫌いみたいだ。その証拠に辛味成分を摂取したスライムは溶けていった。
なんというか・・・アリア、腹黒い!!
アリアが倒したスライムからの戦利品は唐辛子を使って料理された鶏肉だった(しかもラップまでされている)
それを持って帰ろうとした。ところが・・・
「ま、だ!あと一匹!」
震える声でそう言ったのは先ほどまで倒れていたミーナだ。
「ミーナ、大丈夫?またスライムによしよしされるんじゃない?」
そう思って私はミーナに声をかけていた。
「そうですよ、ミーナ様!本日は日ももうすぐ暮れますし、また明日というのはいかがでしょう?」
アリアも心配をして声をかける。だが。
「いや!今日やる!今日こそスライムを一匹ぶっ倒す!」
ミーナはいつにもましてやる気満々だ。経験値が貯まっていない現状に焦りを感じているのか。はたまた、スライムによしよしされ過ぎてストレスを感じているのか。
ともかく、そういうことなら・・・
「わかった。じゃあ、私とアリアがスライムを固定するからミーナはそこを倒してね」
二人以上で協力してマモノを倒した場合、貰える経験値は多少少なくなるが、ミーナがスライムに勝つ方法は現状これしか考えられない。
「わかった!ねぇ様、アリア。お願い!」
ミーナが了承してくれると私達は手近なスライムを一匹探すことにした。
そして見つけたスライムは・・・
「「「デカッ!!」」」
そう。大きかった。
いや、大きいなんて言葉で片付けていいサイズじゃない。
普通のスライムの大きさが平均百二十センチあたりでミーナの身長とあまり変わらない大きさだったはず。
だけど、このスライムは少なくとも三十倍は大きい。
そして、真っ白!普通のスライムの色は水色や青色が基本色。時々黄色や赤色、緑色のスライムもいるが、白色は見たことがない。
「どうします?戦いますか?」
アリアがそう聞いてきた。
だけど、今回の決定権はミーナにある。だから私はミーナを見た。当のミーナは・・・
「もちろん、倒す!!」
ミーナがそう決意すると私とアリアも気を引き締めた。
まずアリアが唐辛子とうちわで先ほどのように辛味成分をスライムに摂取させようとした。ところが、
「効かない!?」
効果がなかった。
私はスライムを一発殴った。そしたら今度は、冷たかった。
ミーナは勢い良く蹴りを入れた。ところがスライムにはダメージが入っている気配がなかった。
「ダメだ。強すぎる。」
私は不意にそう溢していた。
そこで一つ違和感に気付いた。
「ねぇ。ミーナ、アリア。このスライム、何か変じゃない?」
私がそう言うとアリアとミーナも違和感を感じたのか考え込む。
「私が殴るためにあのスライムに触れた時、なんかめっちゃ冷たかった」
私が感じた違和感を伝えると、
「そういえば、ミーナが蹴り飛ばした箇所、なんか欠けてない?」
ミーナがそう言って示した箇所は確かにミーナの蹴り飛ばした足跡が残っていた。
「本来唐辛子の成分であるカプサインは水で広がるはず。それが広がらず消えるということは・・・」
このスライムは水じゃない・・・
「「「これは雪だ!!」」」
三人同時に同じ結論に達した。
雪なら納得がいく。殴った時に感じた冷たさ。雪のオブジェクトに初めて触った時と同じ冷たさだった。
スライムの体に唐辛子の辛味成分が拡散しなかったのも、スライムの体が液体ではなく固体だったからだ。
ただ、どうしてスライムが雪になっているんだ?
「ねぇ様!もしかしてシュネーで積もった雪を吸収したんじゃない!!」
確かにそれなら辻褄が合う。シュネーでも雪が降れば確実に湖は雪に埋もれる。
だけど、スライムが雪に埋もれた事例なんて聞いたことがない。どうしてこのスライムだけ?
「カトリーナ様!雪の影響下でのスライムの行動です!!」
雪の影響下でのスライムの行動?スライムは雪の中に身を隠せる。つまり!このスライムは雪に隠れ続けて何年も生き長らえていた!?
でも、この大きさは?
「とにかく。ぶっ倒す!」
ミーナがそう言うとデカスライムに飛びかかった。それに私とアリアも続く。
三人の連携攻撃にデカスライムはあっという間にその体の大半を削られていった。
ただ、今回の討伐目的はミーナが経験値を貯めることにある。
最後の一撃はミーナにやらせる必要がある。
だから、体を削りきったタイミングでミーナに最後を頼むことにした。
「今だ!ミーナ!」
そう声をにかけてミーナがアリアの手助けを得て空高く飛んだ。そして勢い良くデカスライムに飛び蹴りを放った。
そしてスライムは形が崩れていった
「やったね!ミーナ!」
「やりましたね!ミーナ様!」
ミーナに最大限の労いの言葉を二人でかけた。
「や、やった~!!」
ミーナは大喜びだった。
「ミーナ!戦利品がドロップするはずだよ。ドロップした戦利品はミーナの物だよ!」
その言葉を聞いたミーナは今にも興奮しそうだった。
デカスライムは完全に崩れた。ただ今回のスライムは雪でできていたためか崩れたのと同時に霧が出た。霧のせいで戦利品が上手く見えない。
そう思って良く見たら霧の中心に一人の少女らしき人影が映っていた。
「こら!ミーナの初めての戦利品奪うなです!」
ミーナはそう言うと人影に向かって走っていった。私とアリアもミーナに続く。
そして人影がいた場所まで来た。けど、人なんてどこにもいなかった。
「まさか!もう戦利品は奪われた・・・」
ミーナは膝から崩れ落ちようとしていた。
アリアがミーナを支えてくれた。
私はどうやってミーナを励ましたらいいんだろう?
そう思った時、鼻に違和感を覚えた。この違和感は・・・何かがいる!
そう確信して下あたりを見たら何か生き物を見つけた。
その生き物はウサギだった。前世でキズナと見たことがあるからわかった。確か動物の仲間だったはず。
動物!?この世界に人間以外の動物はいないはずでは!?
そう思ったが、ミーナのキラキラした目を見て考えるは一旦止めた。
「ミーナの!ミーナの初めての戦利品!」
はたして、生き物を戦利品と呼んでいいのか?そんなことを考えていると・・・
「ミーナ様。そちらは確かにスライムからドロップしましたが私たち人間と同じ命があります。魔物の場合は人間の生活の為に倒さなければいけませんが、そちらはどう見ても違います。きちんとお世話をしないといけません。私たちも手伝いますが、責任はミーナ様にあります。命を預かる覚悟はおありですか?」
アリアは何時にも増して強い言葉でミーナに問いかけた。普段アリアがこんな言葉を使う姿を私は今まで見たことがなかった。
そんな問いを受けたミーナの返事は・・・
「もちろん!あるよ!この子がどうしてスライムを倒したら出てきたのか、今はわからない。けど、ミーナはこの子と一緒にいたい!会ったばかりだけどこの子と一緒に成長していきたい!」
ミーナの覚悟は既に決まっていた。そうとなれば・・・
「ミーナ。ミーナの気持ちはわかった。だけど約束して。決して一人で抱え込まないって。私もアリアもこの子の責任は持つ。きっとお母様やお父様だって。だから、皆でこの子を守ろう」
私はミーナに優しく言い聞かせた。
ミーナは納得してくれ、アリアもこれ以上は特に何も言わなかった。
日も暮れたし、スライムから出てきたウサギをミーナは手に抱いて私達三人は帰路についた。




