序章 6 大精霊はお菓子を所望する
書き始めてからタイトルが合わなくなり…改題しました。不肖の身ですがお付き合いくださると嬉しいです。
屋敷の者もスピカたちもポカーンとして、数秒フリーズしていたが、「パウンドケーキはどこだ?」の声にはっ、と我に帰った。スピカは慌てて大精霊を応接室へ案内しながら、アルに目で「ごめん!あとは頼んだわよ」と伝えた。
途中で執事のリゲルを捕まえてすぐ用意できる菓子類をありったけ持って来るように伝えると、応接室の窓を開け放ち庭の木々や花が見えるようにしペトラノームを座らせた。
「パウンドケーキは数日寝かせた方がより美味しくなりますから、今は別のお菓子を用意しますね。」
そう声掛けをしながら手早く紅茶を淹れた。つくづく、自分で何でもできるようになっていて良かったと思った瞬間である。
「失礼いたします。」
なんと、執事のリゲル自らがワゴンを押して入ってきた。スピカが見たこともない5段のケーキスタンドの登場に気合いを感じ入る。所々にさりげなく、塩味のあるチーズやハムが配置されていてこれは無限スイーツループにはまりそうだ。
つい食べる側目線で考えている間に、優秀な執事が大精霊にお菓子のサーブをしていた。
「うむうむ、どれもこれも美味じゃ。」
そう言いながら、気に入ったお菓子の説明を逐一受けている。満足そうで何よりだ。後でどんなお菓子が気に入ったか聞いておかなきゃね…スピカがすっと紅茶のおかわりを淹れているとドアの外からアルの声が聞こえた。
「大精霊様、スピカお嬢様に緊急の連絡がございますが、入ってもよろしいでしょうか?」
ペトラノームはもぐもぐしながらうなずいたので、スピカがドアを開けた。
「本邸のお父上から、『いつでも驚く準備をしておく』とのことです。」
おおぅ…お父様ってこんなキャラだったかしら?でもこんな変化なら大歓迎ね。驚かせる報告しかないし…今の私はどんな風に皆に映るのか楽しみにしましょう。
「ペトラノーム様、これからパウンドケーキとショー卜ケーキを作りますから夕飯のデザートにショートケーキ、明日朝にパウンドケーキを食べたら出発できます。私とアルバークとアウディーレで良いかしら?」
アルは覚悟を決めたような顔で、アウディーレはいつの間にかスピカの肩で昼寝していたがむにゃむにゃ返事をしたので連れて行くこととしよう。
「後で念のため地図を見せてもらおうか。基本的にスピカの気配が残っていればどこでもとべるぞ。」
「それは便利ですが…人間に見られると驚かれるのでどうしても、の時にお願いします。地図はリゲルに届けさせます。では、お菓子を作ってきますので客間でも、お庭でもお好きに過ごされてくださいね。アルは…金鉱脈の報告準備と、マーガレットにお詫びの鳩を飛ばしてくれるかしら?きっとびっくりよね…」
さぁ、食いしん坊の大精霊様に喜んでもらえるようたくさん作りましょうか。ちょうど庭にレモンが実っていたから少し収穫して...ジャムにして練り込んだら爽やかな風味がたまらないし、紅茶に浮かべても美味しいわね…。
そんなウキウキしたスピカの背中を見ながら、ペトラノームとアルバークはうんうん、と孫を愛でる視線を交わし、『スピカ(お嬢様)は我々が守る』と固い握手をしていたことを、当然スピカは知らない。
黙々と作業できるお菓子作りはスピカの趣味でもある。食糧庫に材料が揃っているのを確認し、パウンドケーキから作りはじめた。鼻歌に混じって『美味しくな~れ』と呟けば無意識に祝福を使ってしまっているようだが…。
定番のドライフルーツとブランデーの組み合わせと、さっぱりレモンのパウンドケーキは満足いく仕上がりになった。ショー卜ケーキを作りながら、いちごに保存をかけたら年中ショー卜ケーキが作れるなぁ…と思って喜んだことは内緒である。
夕飯の席にはまるで以前からそうしていたようにペトラノームが座って料理を次々と平らげている。約束のショー卜ケーキを口に入れると目尻を下げ、もぐもぐもぐもぐしている。
「キャラメルの時にも感じたが、やはりスピカの作ったものは特に心地よく美味しいな。精霊は食べなくとも生きていけるが、気持ちのこもった料理は食べると力が湧く。」
そう言いながらおかわりをしている。うん、気に入ったようで良かった。今度たくさん作って保存をかけておこう…。あ、ペトラノーム様が見てるけど…パウンドケーキは朝ですよ、と指でバツをしておく。そんなに悲しい顔をしなくても朝に出しますから...!
リゲルにお菓子を包んでもらってお腹をさすりながら部屋に戻っていく姿は…嬉しげで可愛らしいこと。リゲル、グッジョブ!
リゲル…やるじゃないか。スピカ後援会会長を名乗っても許されそう。あ、事務局長はアルでペトラノームは名誉会長だね。




