序章 5 スピカ、大精霊を餌付けする
『ようこそスピカ!!』
精霊たちの大唱和である。
ざわめきだった石や大地の声がクリアに聴こえる。なんだか久しぶりに血が通ったような、地に足を着けている感覚がする。
大精霊ペトラノームとの契約が完了したスピカは、まさに薄布が取り払われたかのように神々しい存在感を放っていた。
「私の加護があるから、もう表に出しても問題はあるまい…まあ、うるさいハエは一斉に寄って来るだろうがな!何が寄ってきてもスピカはやらんぞ!」
「ふふっ…そんな風に仰ってくださって嬉しいです。せっかくですからお昼ごはんにしましょう?もう少しキラキラを抑えていただければ姿を隠さなくても大丈夫…だと思うので…。」
「そうじゃ、早く行くぞ!」
さすが大精霊というべきか、金鉱脈の方向へさっさと歩きはじめたので、スピカとアウディーレは慌てて後を追いかけた。やっぱり食いしん坊?と思いながらも自分もペコペコなので急ぎ足で着いていく。ちらりとアルのことを思い出したが、もはや手遅れなので考えないことにした。
隣で飛んでいるアウディーレに大精霊のことを聞いてみたが、言い伝えはふわっとしたもので良くわからなかった。やはり後でペトラノーム様に聞くしかないか…お菓子を準備すれば大抵のことは教えてくれそうな気がする。
考えながら歩いていたら、前の方が急に騒がしくなった。あっ!先にペトラノーム様を登場させてしまったわ!スピカは急いで追い付くと混沌とした光景が広がっていた。
「私は大精霊のペトラノームだ。スピカがお昼ごはんをご馳走してくれると聞いて来た。」
本人いわく、キラキラを抑えたらしいが薄暗い穴の中では意味がなかったようだ。真っ青な顔色のアルがバスケットを捧げている。あちゃー…ごめんなさい、アル。他の調査員は平伏している。……あれ?さっきもこんな光景だったような…。
慌てて駆け込んだスピカを見て、アルはバスケットを落としかけたがスピカはぎりぎりキャッチした。
「アル、ごめんなさいね。訳は後で話すから、みんなお昼ごはんにしましょう!」
戸惑いながらも皆、空腹には勝てない。預かったバスケットを配り終えるとめいめい食べはじめた。あちらこちらから「今日のサンドイッチは格別に旨いな」とか「いつもより出来立てな気がする…」などという呟きが聞こえる。
もちろん、大精霊様へは真っ先に差し出したので子どものように夢中で食べている。スピカもようやくサンドイッチにかぶりついた。トマトの甘みとレタスの新鮮なシャキシャキ感に、蒸した鶏肉とちょっとスパイシーなたれが良く絡んで出来立てそのままだ。確かにいつもより美味しい……。
ん?いつもより…あれ?私バスケットを受け取ったとき『お昼に美味しく食べたいな~』と思ったけど、うっかり『保存』をかけちゃったかも…。まぁ、空腹に勝るご馳走なしだっけ?美味しいなら問題なし!
「スピカお嬢様…ご説明をお願いしても?」
昼食もそこそこに疲れ果てたアルがやってきた。申し訳なく感じながらスピカは先ほどの経緯を順立てて伝えた。
「なるほど…つまり、大精霊ペトラノーム様が目覚める手助けをしたことで、この金鉱脈が見つかったと。しかもお嬢様は隠されていたので両親すら気にかけることができなかったが、今は契約を終えたので誰の目にも認識できるようになった…。」
「私自身は何も変わってないのだけ」「いや、変わりすぎてヤバイです!」
「うむ、今までも石に関わる者にはスピカの存在は認識できたはずじゃ。」
ひとしきり満足げな大精霊様はお腹を撫でながら話に入ってきた。
「わっしですらスピカ様の姿で目が潰れそうなんですから!このまま何もせずに本邸に戻ったら大騒ぎ間違いなし!調査は一旦切り上げて大至急戻って会議です!!」
目をぱちぱちさせて現実味のなさそうなスピカだが、アルがそこまでいうなら1度家族に相談せねばなるまい。幸いにもこの鉱脈は金と判明して、石の声も聴こえるから離れても問題ないだろう。
「わかったわ。大急ぎでも王都まで1週間はかかるわよね…」
「なんじゃ、私を誰だと心得る?土や木があればすぐ移動できるぞ。王都のマカロンをくれたら1人や2人連れていってやろう。」
あ、マカロン食べたかったのね…。
「アル、バルザックとお父様に鳩を飛ばして。ペトラノーム様、今回の報告もあるので一旦イースラック領に戻ってもよろしいですか?」
「マカロン…」「パ、パウンドケーキを焼きますから!あとショートケーキも付けますっ!」
「…ならばまとめて運んでやっても良いぞ。」
大精霊様の気が変わらないうちにと、スピカ一行は慌てて荷物をまとめた。ペトラノームがさっと手を振ると一瞬で視界がぐにゃりと歪み、瞬きひとつの間にイースラック領の館の庭に全員で立っていた。
せっかちな大精霊だけど、胃袋掴んだから大丈夫?あ、アルは胃袋押さえて…ご苦労様です。




