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序章 4 大精霊も人の子??

「今、誰?と聞いたかな?」


突然現れた美麗な存在がしゃべり始めた。アウディーレは頭を低くしたまま「私は存じておりますっ!」とつぶやいているが、スピカは全く『はじめまして』である。


「はい、私はスピカと申します。あなた様はいったい…。」


「私は大精霊のペトラノームだ。そなたが来るまで長いこと眠っておった。我らの声を聴ける人間は少ないからな。」


寝起きの大精霊の色気は暴力的である。隣で土下座状態のアウディーレはうっとりとちらちらご尊顔を拝んでいるし、美醜にあまり関心のないスピカですら、美しさに見とれたほどである。


「スピカとやら、そなたの運んだ石のお陰で再び目覚めることができた。礼を申す。」


「私はアウディーレの言葉を聴いてお持ちしただけですので、お礼はどうぞ彼にお願いします。」


スピカの言葉に初めてペトラノームの視線がアウディーレに止まる。


「ふむ…大儀である。ところで私は何年ほど眠っておったか?」


「は、はいっ!300年ほどと伝わっております。」


「少し寝すぎたか…どうれ、スピカとやら人間界の300年を話してもらおうか?」


返事をしようとしたとき『ぐ――っ』とスピカのお腹の虫が大声をあげた。精霊がご飯を食べるかどうかは不明だが、真っ赤になったスピカはおずおずとポケットからキャラメルを取り出し、ペトラノームに差し出した。


「恥ずかしながら、お昼ごはんがこれからでして…その後でもよろしいでしょうか?お詫びと言ってはなんですが、甘いお菓子です…。あ、包み紙は食べられませんよ!」


ペトラノームは紙ごと食べようとしたので慌てて言い添えた。大精霊はふむ、とうなずくとキャラメルを優雅に口に放り込んだ……瞬間『カッ』と目を見開いてスピカの手元を凝視した。あれ?もうひとつ頂戴アピール??


「まだありますからどうぞ…。」


スピカは2つを残しそれ以外を全てペトラノームに渡した。さっきのきりりとした顔はどこへやら、孫を目の前にしたじじ様くらい目尻が下がって頬が赤らんでいる。……あ、理由はさておき色気が半端なくダダもれているわね。


スピカもひとつ口に入れ、試しにアウディーレにも渡してみた。うん、美味しくできてるし、アウディーレが両手で抱えてはむはむする姿が愛らしすぎてきゅんきゅんする…まぁなんて癒されるのかしら……。「こほん」と音がしたので顔を上げるとペトラノーム様がラピスラズリ色の瞳をキラキラさせてこっちを見ている。


「300年前はこんな美味しいもの無かったのだが…他にもあるのか?」


えぇ、ありますともありますとも。もしや大精霊様は食いしん坊なのでしょうか…?スピカは可愛いものを愛でる視線をペトラノームに向けた。


「はい。甘いお菓子がお気に召したようで…他にもプリンやらアイスクリームやらマカロンやらたくさんあります。王都に出れば購入できますし、手作りでよければお作りしますが?」


「わかった!スピカに着いていけば美味しいものが食べられるのだな!」


あっ…アウディーレに加えて大精霊様も?アルをまた驚かせてしまうかしら…でも可愛いし賑やかになりそうね、と考えるスピカも大概である。


「私は金鉱脈の調査場所に戻ってお昼ごはんにしますが…そのお姿は神々し過ぎて他の者が驚くかもしれません?あっ、ペトラノーム様のお姿は他の者に見えるのでしょうか?」


「おぉ、さすがに300年も眠れば金鉱脈がすくすく育ったか。今回のそなたの働きの褒美のようなものじゃな!ちなみに姿は見せようと思えば見せられるし、隠そうと思えば隠せるが…その前にスピカと契約せねばなるまい。」


「契約、ですか?」


「そうそう、今まで影が薄いと言われたことはないか?」


「?はい…容姿や才能のこともあるでしょうが…弟や妹に比べますと両親の覚えはかなり悪いかと思います。」


「そうじゃろうな…実は大精霊と契約できる器の乙女は人の手によって隠されないために、認識阻害の術がかかるようになっておる。いちばん家族の愛情が欲しい時期にさみしい思いをさせたな……。」


「な、なるほど…とはいっても鉱山に関わる人たちは皆良くしてくれましたし、貴族家に生まれながら黙って好きなことをできたのは幸せだと思います。」


眉をへにょんと垂らして、うるうるした悲しげな瞳の精霊の破壊力は凄まじい。王国のひとつやふたつくらい簡単に貰えてしまいそうだ。そんなことを考えている間にペトラノームはスピカの左手をすくうと呪文を唱え始めたので、慌てて姿勢を正した。


「大精霊ペトラノームの名に於いて、我、大地の祝福と守りをこの者スピカ・スカイリアに与えん」


天上からキラキラとした光が降り注ぎ、スピカの琥珀色の瞳の奥にラピスラズリの色が重なって見える。さらに左手首をひとまわりするように蔦の紋様が浮かび上がってきた。


スピカは体内を巡る温かな力を感じながら、確かに聴こえる大地の声に耳を傾けた。

アル………戻って来て~!新生スピカ爆誕だよー!(アウディーレ)

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