序章 3 大物あらわる
アウディーレから『保存』の祝福をもらったスピカは、いろいろと試してみたくなった。
「ねぇ、この力ってアウディーレが側にいなくても使えるの?」
「もちろん!祝福はあげたものだからスピカの好きなときに使えるよ〜。あ、保存といっても祈り方でいろいろ状態を変えられるから試してみてね!」
そんなことを聞いたら、じっとしていられるスピカではない。さっそく荷物置き場に向かうと祈りの体勢になった。
「食べ物が何日も新鮮な状態で長持ちしますように...」
水や食料品がぽわんと光るとすぐ元の状態に収まった。ガタッと音がしてスピカが振り向くと、アルの目が飛び出さんばかりに見開いてアゴが外れそうなほど口が開いていた。
「お、お嬢様…今のはいったい…?」
スピカは悪さが見つかった子どもみたいに眉を下げながら、さっきの出来事をかいつまんで話した。
「あーあー、ソーデスカ…なるほど...。」
アルは1人でぶつぶつとつぶやくとパンッと顔を叩き何事もなかったかのようにスピカの方を向くと、
「お嬢様、この能力が知られたらどんなことになるかわかっていますよね?」
もはや鉱山言葉すら忘れるほど真剣なアルに、スピカもたじたじで答える。
「え、えぇ…政略結婚はまぁ良いとして、身柄を隠されて一生使役されるとか…?」
「政略結婚ですら、愛のないただの道具として一生を終えることだってあります。お嬢様は豊かとはいえ伯爵家。格上の侯爵家や公爵家で買い殺される未来も想定しないと…。」
スピカの美しさなら、そうならないかもしれないが人間、更にいうなら貴族は強欲な生き物である。素直なスピカに狡猾な生き方は似合わないしできないだろう。
「いいですね?石耳の乙女だけでも聖女扱いの争奪戦が起きるのです。更に精霊の祝福を受けたなんてバレたら…戦争になりますよ…。」
「え?妖精じゃなくて精霊なの?」
「驚くポイントそこ!?」
アルは祝福を与えられるのは精霊のみで、かなり高い能力を有しないと姿は見えないことなどをこんこんと説明した。いまいちピンときていないスピカを横目にアルバークは「お嬢様はわっしが守る…」と決意を新たにしたのである。
「で、明日その石を持っていくのですね?あー、もう何が起きても驚きませんからね!」
「そんな驚くようなことは起きないと思うわよ…?何にせよ、明日はよろしくね。」
アルがぐったりしているような気もするが、スピカが迷惑をかけるわけにもいかないので早々に立ち去った。
翌朝、石のざわめきを子守唄にぐっすり眠ったスピカはすこぶる調子が良い。アウディーレに頼まれた石をポケットに入れ、魔糸で編まれた帽子にそっと『保存』をかけるとマーガレットから愛情たっぷりのお弁当バスケットを受け取り馬車に乗り込んだ。
事前に石のざわめきが大きくきこえる方向はアルに伝えてある。しかもざわざわに交じって「早く来ないかな〜」や「見つけて欲しいな〜」という声まで聴こえており、もちろんアルにも秘密だが、道に迷うことはない。
「お嬢様!方向合ってますか!」
荷台から振り返ったアルが大声で聞いてきた。風が強いので、スピカも負けじと大声で返事する。
「間違いないわ!そのまま真っ直ぐ進んで突き当たった山よ!」
さすが山に囲まれた土地だけあってどこを見渡しても山なのだが、ひときわ高いてっぺんが雲に覆われた正面の山が目指す目的地である。10分ほど走ったろうか、切り立った崖のような山肌の横にぽっかりと穴が空いている場所を見つけ、「そこだわ!」とスピカが声を上げた。
さっきまでビュービュー吹いていた風はぴたりと止み、スピカ一行は2メートル四方の横穴に入っていった。中に入った調査隊員たちは皆、中の景色に驚いて口をあんぐり開けている。
「き、金だ...しかもかなり太い鉱脈だ…。」
隊員たちは次々と我に返り、自分達の仕事を始めた。スピカはアルに
「奥の石が呼んでるから、ちょっと行ってくるわね。」
と言い残し、ポケットの例の石を手の平に載せると奥に向かって歩き始めた。石の声が聴こえなければ、ためらうような分かれ道を導かれるように歩いていく。途中でアウディーレも現れた。
「ねぇ、早く早く~。こっちだよ!」
アウディーレが光っているお陰で全く暗くないのは助かる。しばらく歩いたら突然部屋のような開けた空間に着いた。手の平の石がふるふるふるえて喜んでいるように感じる。アウディーレに付いていくと台座に窪みが見えた。
覗こうと頭を下げた瞬間、小石が転がり落ち、その窪みにはまってしまった。「あっ!」と焦る間もなく、ゴゴゴゴッと岩が動くような音とともに台座がずれて隙間からまばゆい光りがあふれでた。
眩しさに目を細めてから恐る恐る見ると、そこには長い銀髪をかきあげて身体を伸ばす絶世の美人(?)が立っていた。横ではアウディーレがひれ伏している……誰?
アルのフラグは正確?あんまり驚かせるとアゴが戻らなくなっちゃう…




