序章 2 とうとう幻聴が聴こえ始めた
「こっちこっち、早くきてよ~」
んんん?スピカは自然の中で生活しているので耳は良い方だと思っている。そんな自分の聴力に疑問を持つ日が来るとは…勇気を出して聞いてみるとしよう。
「誰かいるの?」
端からみたら外に向かって大きな独り言を言っているみたいだが、恥ずかしさよりも好奇心が勝っているスピカの瞳はキラキラしている。
外を見渡すが、岩山と森しか見えない。その時カタッと音がして振り向くと、机の上に置いていた原石のコレクションが淡い光に押されてゆらゆら揺れているのが見えた。
スピカは大きな瞳をさらに見開いてみたが、淡い光しか見えない。
「動いて…いるわね…。」
そろり、そろりと近づいてみると光がふわっと揺れてスピカの肩に乗った。
「ねぇ、この石が仲間のところに行きたいって言ってるよ。」
今度ははっきり聴こえた。間違いなくこの光から聴こえる気がする…たぶん。
「この石を連れていけば良いの?」
「そう!動かしたいの!」
光は嬉しそうにふるふる震えて答えた。
「ふぅん…それじゃあ明日の調査に連れていくわ。ところであなたの名前はなんて言うの?」
「名前?そんなものないに決まってるじゃないか!ぼくの声に耳を傾けてくれた子は今まで1人も居ないんだから...」
姿は見えないのに、大きな瞳に涙をいっぱい溜めて訴える子どもの姿が見えるようだ…。
「じゃあ、あなたの名前はアウディーレにするわ!私はスピカ。よろしくね。」
「ぼくの名前はアウディーレ…ありがとうスピカ!よろしくね!」
そう言うとひときわ明るく輝いて、シルバーブロンドでくるくるヘアの小さな羽の生えた生き物が現れて、ぐるぐるスピカの周りを飛び始めた。
「ねぇ、スピカ!お願いがあるんだけど…」
そう言ってアウディーレはスピカの耳元でごにょごにょ話始めた。昔話の妖精はイタズラ好きでわがままな性格と相場が決まっているので身構えたスピカだったが、なんとも可愛らしいお願いに「もちろん!」と即答したのであった。
翌日の早朝、布団の隅でまるまって寝ているアウディーレを起こさないようそっと布団を出たスピカは領主邸の裏庭にいた。
「さて…アウディーレに合う色は…」
そう言いながら器用に花を組み合わせて作り上げたのは、美しい花冠である。それを持って部屋に戻ると香りに気付いたのかアウディーレが目を覚ました。
「うわっ!それぼくの花冠?やったー!」
飛び上がらんばかりに喜ぶ妖精は眼福ものだなぁ~と思いながら頭上に載せてあげるとぴったりサイズに小さくなった。わぁ、びっくり。
「ねぇ、このお花枯れちゃう?」
「そうね…自然に咲いている花は摘んでしまったらしおれるから、いつか枯れるわね。」
「うーん…じゃあ、『お花が長持ちしますように』って祈ってくれる?」
そう言うとスピカの頭上から光の粉をキラキラ降らしながら、ぐるっとひとまわりした。スピカは驚きながらも「お花が長持ちしますように…」と祈った。
その瞬間、アウディーレの花冠がつやつやの「何か」でコーティングされたのだ。まるで有名なパティシエールが手がける繊細な飴細工のように、花の質感や色を損なわずそのまま閉じ込めたような…。
「やったー!これで枯れないね!ぼくの祝福だから受け取って。『保存』は結構便利だよ〜」
スピカにまた一つ秘密が増えてしまった。でも小さなお友達は愛らしく、ついほっこりしてしまうのであった。
アルのアゴが外れないことを祈ろう…。




