領地編 3 大精霊暴走の巻
毎度、ご覧くださいましてありがとうございます。細々と金曜日の朝に更新しております。平和なお話ですので息抜きにどうぞ〜。
メレルナを待つ間父レグルスに魔糸織を託し、アルバークにマーガレットとオリビアのロックバード帰還を伝えるよう依頼した。大量の仕事をこなすアルバークをそっと観察し、新しいお菓子の差し入れを心に誓った。
「スピカお姉さま、許可を得て参りました!大精霊様、本日はよろしくお願いいたします。」
何やら大きなバスケットをちらりと見せて、恭しくお辞儀をするメレルナは、やはり天使だろうか。バスケットに目線を送ったペトラノーム様は深くうなずくと
「それでは、エスエスト領へ!」
他領ということもあり、人目の少ない魔の森の少し内側に飛んでもらった。移動が初めてのメレルナを心配したスピカだが、なにごともない様子に胸を撫で下ろした。
「歩かせてしまい恐縮ですが、あの小高い丘の上にあるのが我が家でございます。」
隣の領なので領内にさほど違いはないと考えていたのだが、畑に植えている作物や家の作りなどかなりの違いが見られ、独立した文化に驚いた。作物の説明を受けながら丘を上るうちに香りの異なる風が強くなり、突然視界が開けた。
「あれが海ですよ。今日は穏やかですが、風が強くなるとかなり波が高く荒れることもあります。」
スピカたちは初めて見る海に目をまん丸にした。スカイリア家の領内は森や鉱山がほとんどで、水場といえば川しかなく湖すら見たことがなかったのだから当然だろう。
「まぁ…初めて見たけど果てが見えないのね…。」
青、といえばそうなのだが白や水色、紺や灰色が複雑に混ざり合いいつまでも見ていたい風景だ。メレルナの肩が定位置になりつつあるアウディーレとガルディも身を乗り出している。
「初めて見たらそうなるのね?私たちは当たり前になっているから、むしろ今日は何の魚が捕れるかくらいの感覚よ。」
「橋が出来たら、海を目当てに王都周辺の貴族が殺到しそうね。」
「そんな日が来たらスピカたちに手伝ってもらおうかしら?」
当人たちは冗談のつもりだったが、実際予約が取れない東端のリゾート地になる未来はすぐそこまで来ているのである。
玄関に近づくと焦りの隠せないワイルドな男性が猛ダッシュしてきた。さっとガルディが前に出る、さすが騎士。
「オリゼ~~~!!」
「お父様!私は走らずとも逃げません、それよりも大精霊様方とスカイリア家のスピカ様ですよ!」
速度を落としながらのスライディング土下座体勢になった男性は伏せたまま挨拶をした。
「お初にお目にかかります、サムリー家当主サイモンでございます。このような辺境の地までようこそお越しくださいましたっ!」
この光景は馴染みがある……。土地柄?土地柄なのか?
「お父様、お願いしていたものの準備はできています?」
「もちろんだ!腕によりをかけて仕上げたから安心しなさい…。皆さま、お恥ずかしい姿をお見せしましたがどうぞこちらへお入りください。」
突然きりっと姿勢を正したサイモンに続きスピカたちはぞろぞろと家の中に入っていった。外観は真っ白な石壁と水色のタイル張りで細い塔が組み合わさったような形をしていたのでこじんまりした印象だったが、玄関は吹き抜けで広々としている。
「風が通って気持ちが良い室内ね?素敵だわ。」
「お客様に褒めてもらえると嬉しいものね。少しでも過ごしやすいように工夫を続けた結果よ?」
廊下や壁には絵のような珍しい織物がたくさん飾ってあり、藤でできた椅子やテーブルなどの家具が感じ良く配置されている。つい、「これは売れそうだな」と考えてしまう品々である。
「こちらのお席へどうぞ。」
応接室ではなく、ストレートに食堂に案内された。これは本気の食事会の気配がする。隣でペトラノーム様がそわそわし始めて、ちょっとほっこりしてしまった。
「「「いただきますっ!」」」
スイーツももちろんあるが、海に面した領地だけあって見たことのない料理がぎっしり並んでいる。特に、艶々した魚を薄切りにした身は加熱せずそのまま食べるようで、先ほど魔鳩で連絡した後にお父上が海で捕獲してきた魚だそうだ。ワイルドな!
「「「美味しい〜っ!」」」
今日は声が良く揃う日だ。感嘆の声を漏らした後は皆無言で食べ進めている。美味しいとしゃべらなくなるわよね…。
「うまいっ!スピカ、イースラック領に海は作れぬのか?それにこの透明なぷるぷるしたお菓子…」
感情など無いかのように見えるペトラノーム様だが、やはり食のこととなると表情が豊かになる。うん、海を作るのはさすがに無理でしょうね…。
「ペトラノーム様、海の恵みを分けていただく立場が人ですから海を作るのは難しいかと…それよりもイーラック領とエスエスト領をつなぐ橋を早く完成させる方が現実的です。それでも1年以内にできるかどうか…。」
「そんなに待てぬ!この魚もお菓子もイーラック領ですぐ食べたいのだっ!」
ぐぬぬ…という顔をしながらも、はっと何かを思い付いたように笑むとぼそりと呟いた。
美味しい食べ物のためならえんやこら〜
大精霊様が暴走ぎみですね…。
いったい何を思いついたのやら……(汗)




