夜会編 3 夜会そっちのけ
間に合った~(毎週言っている)金曜日の朝に更新できるようこつこつ進めています。ぶれないスピカにお付き合いいただければ嬉しいです。
見るからに豪華なソファーに並んで座るとスピカはオリゼの両手をがしっと掴んだ。
「このお菓子を広めないのは罪深いことよ?お隣さんなんだから、協力させてちょうだい。」
スピカはどこから取り出したのか地図を広げ始め、指でイースラック領とエスエスト領の間の川を示した。
「ここに馬車が通れる橋をかけましょう。」
「は、橋!?」
「オリゼは領地の特産品を考えるくらいだから、領主に近い立場なのでしょう?ここに橋がかかればお互いに領地の行き来が楽になるし、プレアデス領で試験販売をしてみたら王都への足掛かりになると思わない?」
オリゼはしばらく放心していたが、すぐ真剣な顔になって地図を見つめ始めた。
「費用はこの際置いておくわ。もし橋をかけるなら少し川幅は広いけど流れの緩やかなここね。」
オリゼの指差した場所はロックバードに程近い位置で民家は少ないがその分工事もしやすそうだ。
「費用はオリゼへの投資としてスカイリア家が負担するから安心して。この美味しいお菓子が日常的に食べられるようになるなら、お互いの領地に利益しかない取引だと思わない?」
スピカの笑顔の圧がすごい。そして隣の大精霊からの圧もすごい。どうやら食い意、おっとグルメなのは本当のようだと判断したオリゼは降参した。
「そうね、借りっぱなしは嫌だから今後何かの形でスカイリア家に貢献するよう努力するわ。一大イベントの夜会もほぼ終わったことだし、橋の話を進めましょう。」
2人とも目的のためなら即断をためらわない性格のようだ。目を見てがっちり握手する様子は令嬢を通り越しているような気もするが、賢い精霊たちは黙って見守るだけである。
「橋の話は明日から始めるとして、他にも気になる食べ物はあった?」
「それなら、ぷるぷるしたゼリーの粒みたいなものがシロップに漬かっているのが面白かったわ。あとは…」
2人(とその一行)は夜会そっちのけで商売の話に花を咲かせた。真剣な議論の様子はさながら「軍神の女神」のようでどちらにせよ遠巻きに崇められるのであった。
「それでは明日お迎えに参りますね!」
打ち合わせで明日会う約束を取り付けたスピカが満面の笑みでオリゼの手を握る。オリゼも固く握り返すと
「今まで気の合う仲間を作る余裕もなかったものだから、嬉しいわ。明日もよろしくね。」
小柄な背を翻し、堂々と会場に戻っていった姿を目で追うスピカは「凛々しいも正義だわ」とうっとり呟きをもらした。
「ス、スピカ殿!」
弱々しい声にふと振り向くと、息も絶え絶えなプリュート殿下がそこにいた。登場時の輝かんばかりのオーラはどこへ置いてきたのだろうか?
「1曲お相手を…」
あー、ダンスの申し込みね?このぼろぼろ具合からして全ての令嬢と踊るつもりかしら…王子様も大変ね、と可哀相な子を見る視線を送る。
「慎んでお受けいたします。」
特訓のおかげで受け応えもバッチリ。滑り出すようにフロアの中心に出るとさすがの王子も輝きを取り戻したように見える。周りからは「天上で踊る神々のようだ」と評された踊りも、スピカにかかれば「義理で踊るお疲れさまダンス」なのである。
曲が終わり優雅に一礼するとスピカは扇で口元を隠しさっと蜂蜜飴を握らせた。
「だいぶお疲れのご様子。きちんと食べないと気力が枯渇しますわよ?」
近くで大精霊たちが首を縦に振っている。スピカは王子に弟へ向けるのと同じ労りの視線を残し立ち去った。飴を握ったまま呆然とするプリュート殿下には再びご令嬢たちがアタックを始めた。
「新しいお菓子もチェックしたし、王族と踊ったし、明日の準備もあるから帰ろうと思うけどみんなは?」
「「「イエッサースピカ!!」」」
大精霊たちは、人だかりにちらりと目線を送りながらスピカをエスコートして庭に出ると文字通りどろんと消えたのであった。
スピカの鉄壁の守りを崩したのは、やはりスイーツ( ^ω^ )キラキラしいだけの王子かと思ったけどあの律儀さはどこかで見たような苦労症だよね……。




