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蒼虹結晶の樹の元で2人は契を交わす  作者: 片海 鏡


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エピローグ2


 南の拠点アネモス、そして赤翼の騎士団の汚職事件から1か月半が過ぎ、聖誕祭を迎え、そして1週間が経った。

 事情聴取や現場検証などで目まぐるしく日々を送ったネフィリアードとアリュスは、フローラと共に墓地へと向かった。

 人々の往来が少ないためか、厳しい環境から王都を守る天幕の効果が少し薄れたその場所には、雪が10センチほど降り積もっている。多くの墓石とその道のりは除雪がなされ、花や故人の好きだった品が供えられていた。

 3人は大輪の花を咲かせる花束を手に、大きな墓標の前へと辿り着く。

 それは人造人間達の合葬墓だ。

 生前のムスリカ達に1人1人の墓地を作ろうとネフィリアードは提案した。だが彼女達は〈ずっとみんなと一緒に居たい〉と断り、彼は意志を汲み取り墓標を立てた。


「姉さん達を弔ってくださり、ありがとうございました」


 墓標へと花束を供え、祈りをささげたフローラは、2人に対して深々と頭を下げる。

 出会った当初に比べ身長が伸び、声が変わり始めている。

 女王に保護されたフローラは3日間眠り続け、目覚めた時には赤い宝石の影響が抜けきらず錯乱状態だった。だが、ムスリカ達の呼びかけに徐々に落ち着き、元の意志を取り戻していった。


「別に、俺達は大したことはやっていないよ」


 アリュスは、多くの少女達に延命処置を施した。

 彼は膨大な魔術を扱え、それに見合う技術も兼ね備えているが、万能であって全能ではない。延命の施しようのない少女が多かった。非常な現実だが、彼女達は其れを飲み込んだうえでアリュスとネフィリアードに感謝をした。

 死を見つめたうえで、それでも生かす為に尽力してくれたのは、2人が初めてだったからだ。


「皆とお別れできたのは、2人のお陰です」


 1人、また1人と亡くなる中で、少女達は精一杯に生きた。

 ネフィリアードの邸宅で四季の花を愛で、一緒に作った温かい食事を食べ、アリュスの手製の新しく可愛らしい服を着て、ただ穏やかに日々を送った。

 痛みも、飢えも、寒さも無く、大好きな家族に見守られながら、深い深い眠りについていった。

 最後に残ったのは、フローラに次いで高い性能を持っているムスリカとパンジーだった。

 宝石の様に煌めき、晴天の下で花畑よりも華やかな聖誕祭を3人は心から楽しんだ。

 3人の後姿をネフィリアードとアリュスは静かに見守った。

 そして、3人は一晩中語り合い、朝日が昇ると共に別れを告げた。


「ボクは、これからどうするべきでしょうか」


 姉達と永遠の別れを告げたフローラは、 被害者であり加害者である為に何処にも居場所がない。

 半分の魔女の因子を持った彼は、製造の際に掛け合わされたアリュスの臓器の一部によって、妖精樹の隔世遺伝が引き起こされている可能性がある。何らかのきっかけで先代女王の様に壊れ、〈闇の魔女〉の枠組みに入る恐れがあり、他の魔女よりも高いと見なされた。

 そのため、封印指定を視野に入れて会議が執り行われた。


「しばらくは俺の店に居候かな。ネフィリアードは何日もいない時があるから、屋敷に子供一人残すのは危ないし」

「いいのですか?」


 フローラは驚き、ネフィリアードとアリュスを交互に見る。


「どうせ俺も危険人物だし、帝国との接点はこれ以上持ち無くないし、あえて監視されて生活する方が、都合が良いんだよね。それに、接客担当の子を雇えないかなってずっと思っていたんだ」


 嘘偽りなくアリュスは答える。

 店に並べるだけでなく、オーダーメイドの服も請け負うアリュスは、接客の度に制作を中断しなければならない。時には立て続けに依頼が入る為、制作に集中したいと常々思っていたのだ。

 彼の立場をふまえても、それ以上の監視対象でありネフィリアード達と繋がりのある自分の傍に置くのが最適解だと考えたのだ。無論、女王には許可を取ってある。


「まずは成人しないと。君がどんな大人になりたいか、沢山考えよう」

「……はい!」


 フローラは大きく頷き、姉達に報告をした。

 帰り道、フローラは軽やかな足取りで2人の前を歩いている。

 気丈な子だとネフィリアードは思った。

 彼はアネモスでの1件を覚えていたのだ。夢の中の出来事と思い込んでいた彼だが、ムスリカ達との会話を通して現実と知り、衝撃を受け、傷付いていた。見た目の年齢よりも、精神面ではまだ6歳ほどだ。白翼の騎士団からの事情聴取や現場検証、姉達との生活と別れ、そして今後も続いて行く人生。全てを受け入れ、飲み込むには、1か月半では足りない。

 それでもフローラは自分を奮い立たせ、明るく振舞っている。


「世話を掛けるな」

「いいって。ネフィリアードが俺を世話した時に比べれば、ずっと楽だろうから」


 ネフィリアードはアリュスの歩幅に合わせ、共に雪を踏みしめて行く。


「目覚めたての君は、聞き分けが良かったぞ」

「えっ、そうなんだ……流石にその辺りは覚えていないな」


 記憶を封印し、自我が戻るまでの期間はアリュスであっても記憶が朧気だった。

 ネフィリアードの言い回しから、悪さはしていない様だが、徐々に気恥ずかしさを感じ始める。


「殻の神は、何か教えてくれた?」


 人と対話する為の〈神格〉を形成する際に、殻の神は〈魂源の血脈〉へ協力を要請していた。その神は、殻の神の対存在である魂を司る神だ。霊脈や龍脈と呼ばれる世界を巡る膨大な魔力の流れを意味し、そこは魂が産まれ帰る場所とされている。

 そして、神は輪廻転生へと導く存在とされる。

 協力を要請したとなれば。少女達の寿命を当然知っている殻の神は、対処に動いてくれている筈だ。


「あぁ、少女達の魂を転生の路へと導くそうだ。幼くして亡くなった生きものに対して行って来た事柄、と教えてもらった」

「出来る限り幸せな家庭に、生まれてきてほしいね」

「今回は自ら介入されたんだ。最後まで見届けてくれる」


 殻の神は何故最後まで顕現していなかったのか。

 それは、存在そのものが形へと作用してしまうからだ。

 フローラと戦い、そして3人が城内の蒼虹晶樹へと辿り着いた後、アネモスでは超常現象が多発した。石材や木材などで構成された建物や道が歪曲し、捻じ曲がり、地震が無いのに地割れや隆起が発生し、間欠泉のように水柱が大量に拭き上がる等、危険な状態だった。死傷者が出なかったのが奇蹟であり、殻の神がぎりぎりまで力を抑えていたと知る機会となった。


「ロズマキナでの騒ぎは徐々に治まるだろうが……帝国の動向が気になるな」


「自分達は何もしていないってしらばっくれた挙句、成果は我々のものと言い出しそうだ」

 大きくため息をついたアリュスは、肩を落とす。

 既にアネモスに関する情報を手に入れていそうだが、帝国に動きは無い。ネフィリアードと殻の神の存在を知り、動き出しそうなものだが不気味な位に沈黙を貫いている。


「君から見て、今でも帝国はまともではないのか」

「どこの国もおかしい奴が高い地位に就くことはあるからね」


 確かに、とネフィリアードは苦笑した。


「まぁ、真面目な話はこれ位にして、今晩のメニューを考えない?」


 可能な限り晩御飯の時間は一緒に過ごす、と2人は決めている。


「今日は俺がご馳走するよ」

「そ、それなら、君の手料理が食べたい」


 尻尾が残っていたら大きく振っていたと思える程に、ネフィリアードの表情が明るくなる


「帰りついでに、レストラン行けるのに?」


 満更でもなく、冗談めかしに軽い口調でアリュスは言い、フローラを見る。


「フローラ。今日の夕食はどうする?」


 彼は振り返り、2人の元へと駆け寄る。


「前に皆で食べた白いスープをまた飲みたいです!」

「あー……あれ、本当はシチューだったんだよ。ちょっと水の分量を失敗してさ……」


 料理を作り始めたアリュスは困った様子で言った。

 本屋で買った料理本は3人前から4人前程度の分量しか書いていない。人数に合わせて測ろうとするが、料理をする過程で間違っていると時折判明するのだ。


「あれはあれで、とても美味しかった。私も食べたい」

「ネフィリアードまで? 仕方ないな……それじゃ、材料を買いに行こう」


 3人は雪で滑らないように再び歩き出す。

 過去の悲しみと苦しみに足を掬われない様に、罪に心が囚われない様に、前を向いて大地を踏みしめる。

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