第116話 蒼海解放
「準々決勝第二試合は二階堂郁斗の勝利!どちらが勝ってもおかしくないバトル」
「惜しかったわね。この悔しさを忘れずに努力を積み重ねて。そしたら、もっと強くなれるから」
本当なら、もっと事細かにアドバイスをしたい。
心の中でその想いを抱えている輝夜。
輝夜だけでなく、12神は他のプレイヤーにあまり直接的なアドバイスをしない。
鬼姫とリベリオンのギルドバトル後に行われた輝夜とジャスパーの模擬戦。
あれをはじめ、かなり遠回しに抽象的な話しかしない。
理由はかなりシンプル。
12神は《Let's Monster Battle》における頂点。
頂点に立つプレイヤーが事細かにアドバイスを送る。
その価値の大きさは計り知れない。
アドバイスをもらえた、もらえなかった。
様々な面で争いの火種を生みかねない。
それもあって、12神は密かにアドバイスを送ることはあれど、こういった公の場で個人に対してアドバイスを送ることはない。
観客席は以前として大盛り上がり。
「さあ、お待たせしました!準々決勝第三試合、姫島莉菜と青天目朔夜のバトルはいよいよ始まります!」
「一回戦、ギルドバトルとマリンを出してない。どういう成長を遂げてるのか楽しみ」
【姫島莉菜VS青天目朔夜 バトルSTART】
「来て、マリン!」
「お願いね、ソレイユ!」
莉菜は1体目にここまで温存してきたマリンを召喚する。
対する青天目は人類種のモンスター。
巫女装束に身を包み、パタッと閉じている真紅の扇子を持っている。
「マリン、『覆海』!」
開幕と同時にフィールドが水没する。
水中を自在に泳ぎ回るマリンに対し、ソレイユは動かない。
「ソレイユ、『灼熱の業火』!」
突如としてフィールド上の水にブクと泡が浮かぶ。
それが徐々に増えて、至るところから泡が浮かび始めた。
それだけでなく、水面が下がり、水蒸気が立ち昇る。
瞬く間にフィールドを水没させた水は蒸発して消え去った。
フィールド上は水蒸気は溢れ、マリンとソレイユ。
お互いに相手の姿が視認できない。
はじめてマリンの『覆海』が破られた。
マリンの力は『覆海』があってこそ。
誰もがそう考えていた。
だけど、水蒸気は晴れて、見えた莉菜の目は勝負を諦めていなかった。
これに青天目は、マリンには未知の力がある。
そう認識を改めた。
莉菜は常夏の白黒祭を途中で離脱した後、世界最難関ダンジョンの一つ『海底神殿』に挑戦した。
ランク変動ダンジョンではあったけど、未だ誰も攻略できていないダンジョン。
最初のエリアのエリアボスすら、倒せていない。
だが、通常モンスターのムーンシャーク。
その魔石をマリンに合成している。
それによって、地上でも宙に浮いていられるようになった。
当然、水中ほど素早く動けない。
「ソレイユ、『日輪の舞』!」
「マリン、『人魚の唄』!」
『日輪の舞』はソレイユ自身にバフを付与する。
効果が強力な上、『日輪の舞』はソレイユが舞い続ける限り、どんなスキルでもバフの解除はできない。
その上、時間経過と共に際限なくステータスが上昇する。
逆に舞い続けられなくなると途端にバフはリセットされる。
それを知らない莉菜はマリンの『人魚の唄』でバフの解除を試みる。
だけど、『人魚の唄』のもう一つの効果、デバフの付与はできた。
「ソレイユ、『灼熱の嵐』!」
「マリン、『アビサル・タイダル』!」
ソレイユを中心にフィールド全体に灼熱の炎を巻き上げた嵐が発生する。
黒い海水の大波『アビサル・タイダル』で押し返す。
「ソレイユ、『灼熱の雨』!」
「また全体攻撃。マリン、『オーシャンスフィア』!」
今度はフィールドの遥か上空から降り注ぐ灼熱の炎による雨。
それをマリンは『オーシャンスフィア』によって展開された水球に覆われる形でシャットアウト。
「こっちも防御を固めるか。ソレイユ、『巫女の祈り』『神秘の輝き』!」
『巫女の祈り』はスキル効果を強化する。
今回は『神秘の輝き』を強化している。
『神秘の輝き』は、自身への遠距離攻撃を見えない障壁でシャットアウトする。
これは自身のステータスの魔法防御力の高さでその耐久力が算出される。
それに加えて、魔法防御力よりも魔法攻撃力の方が高いなら時間経過で自動的に『神秘の輝き』の耐久力が回復する。
ソレイユの魔法攻撃力は魔法防御力よりも高い。
時間経過とともにステータスが際限なく上昇することも加味すると速攻で倒さない限り、マリンはソレイユに勝てない。
ただ、莉菜は知らない。
ソレイユが発動したスキルの効果を。
「マリン、『アクアボール』『アクアトルネード』『アクアカッター』!」
マリンは舞い続けるソレイユへ次々に攻撃を放つ。
だが、その全て『神秘の輝き』を突破できない。
「ソレイユ、『赫灼』『紅蓮華』!」
フィールド全体を光が包み込み、焼け焦がす。
直後、フィールド全体が真っ赤に染まった。
荒々しいまでの炎がフィールド全体に燃え盛る。
「マリン、『蒼海解放』!」
「……え?」
青天目は目の前の光景が信じられず、スッとボケたような声が出た。
フィールド全体を侵食していた灼熱の業火。
それが一瞬にして消え去った。
それだけにとどまらず、『覆海』を発動している。
そう思わせるようにフィールドが再び水没した。
マリンの『蒼海解放』は、通常の解放スキルと効果が違う。
時間制限付きだが、モンスターを強化する。
もしくは、一回だけ特別な効果を付与する。
このどちらかとなる。
海夕のニュクスやアナスタシアは前者。
蓮のリーフィアやウィリアムのタロス、輝夜のアテナは後者。
マリンは後者に近いが、そもそも『蒼海解放』自体が強力な攻撃スキル。
攻撃に全て振り切った解放スキル。
その威力は通常スキルを遥かに上回る。
「『輪唱』『アビサル・タイダル』!」
フィールド全体を水が渦巻く中、マリンが発動した『輪唱』。
スキルのクールタイムを任意で一つだけ無視することができる。
その上、『輪唱超強化』によって、『輪唱』を使って発動するスキルの威力を強化する。
『蒼海解放』によってフィールド上に現れた水が黒く染まる。
水は意思を持つ集合体のように動き、マリンの背後へ集まった。
その状態で全ての水は防波堤が決壊したかのような勢いで解き放たれた。
『蒼海解放』強化された『アビサル・タイダル』の合技と言っても過言ではない。
ここまで徹底的に強化し、放たれた一撃はブルーの昇華スキル『八雷神』をも超える威力を誇る。
「ソレイユ、『日輪』!」
これをソレイユ最強の攻撃スキル『日輪』で迎え撃つ。
ソレイユが太陽の如く、灼熱の炎を纏う。
それが膨張し、フィールド上に小さな太陽が出来上がる。
マリンの一撃はこれを容易く呑み込み、『神秘の輝き』を貫き、ソレイユのHPを一瞬にして削り切った。
【ソレイユ DOWN】




