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あの後、俺たちはジュンク堂の四階にあるカフェで休憩していた。
それにしても……
「すごい量だな……」
新見の足元にある紙袋の中には大量のラノベが入っていて、持ち上げたら取っ手がちぎれてしまうんじゃないかと思うほどだ。
「そんなに買って、よく財布が持つな」
「まぁね。バイトしてるし」
「援交か?」
「なわけ! てかそれ、ふつうにセクハラだから!」
肩を抱き、俺から距離を取ろうとする朝日。
「夕月。それはない」
詩織も冷たい目で見てきた。
ついポロって言っちゃったけど、死ぬほど失礼だったね俺。
「そういう夕月こそ、バイトとか……って、やる必要ないか」
「まぁな」
印税があるからな。
とはいえ。結構前だが、社会経験としてコンビニバイトに申し込んだことがある。直前になってキャンセルしたが。
なぜかって? 俺は孤高なる存在。他者と肩を並べて仕事をするなど笑止千万。誰も、たとえ神であっても俺を縛ることなど不可能。
……ただの社会不適合者だねそうだね。
「夕月、話したの……?」
目を丸くし、信じられない、といった口調で詩織が問いかけてくる。
話したの、とは俺がラノベ作家であることを話いしたのか、という意味だろう。
「……なりゆきでな。由紀さんから聞いてなかったのか?」
「お姉、なんかやったの?」
どうやら由紀さんは、朝日に俺の秘密がばれてしまったことは話さなかったらしい。由紀さんのせいなのに。
自分のミスを隠して一部分だけ話すあたり、大人って汚いな。……いや、由紀さんだからか。
隠す必要もないので、俺は昨日ブックタワーで起きたことを話した。
「--信じられない……お姉のバカ!」
「ま、まぁまぁ」
「まぁまぁ、じゃなくって。仕事とプライベートの区別ができないなんて、社会人失格だよ……」
そういって、頭を抱える詩織。どうして7歳下の妹の方がしっかりしているのか。謎です。
「あの人が社会人失格なのは今に始まったことじゃないだろ。俺は気にしてない」
「私が気にするのっ」
「えっと……由紀さんとしおりんって、姉妹なん?」
置いてけぼり気味だった朝日が、意外そうに質問してくる。
「不本意だけど、そうだよ」
「え、意外過ぎ。全く似てなくね?」
「たしかにそうだな」
陽気で抜けてる由紀さんに、大人しめでしっかり者の詩織。陽と陰。確かに、二人は正反対の性格をしている。
……ふと気づいたが、スタイルのいい由紀さんに比べて、詩織は……こう、控えめというか。ちっさい。
へー、そこも正反対なんだ。
「……夕月、どこ見てるの」
「空気中に漂うほこり」
苦しすぎる言い訳だが、詩織はそれ以上追及してこなかった。
「……他にもお姉が迷惑かけてない?」
「大丈夫、そんなことはない――って、まぁ、うん」
そういえば最近、俺の性別を偽って大御所イラストレーターを釣っていたような。
思わず語尾が濁り、詩織はそれを察したようだ。
「やっぱりあるんだ。ほんっと、ありえない……」
「まぁまぁ。俺と詩織がこうやって話せてるのは、詩織さんのお陰でもあるんだから」
「そうだけど……」
「え、なにそれ。めっちゃ気になる」
俺と詩織が交流をもつきっかけとなったのは、去年の夏、俺の所属するNR出版が主催したイベントだった。
NR出版に所属する作家たちが集まり、講演やサイン会を行うといった内容のイベントだったのだが、俺は顔出しNG。参加したはいいもののやることが無かったので、舞台裏でイベントを見物していた。
そんなとき。当時から担当だった由紀さんから「同年代の妹がファンで、もしよかったら会ってあげてほしい」と頼まれたのだ。軽い気持ちでOKしたが、その後の展開は衝撃だった。
お互いが顔を合わせた瞬間のショックは、今でも忘れられない。
……その日の夜、クラスに言いふらされるかもしれないという不安で眠れなかったしな。
ただ、詩織は誰にも言いふらさなかった。
そこから俺たちはちょくちょく話すようになり、今に至るというわけだ。
「めっちゃロマンチックじゃん……」
俺たちの話を聞いて、朝日はいたく感動したようだった。
たしかに出会い方はロマンチックかもしれないが、俺も詩織も陰キャだからな。色気のある話は一切ない。メロドラマだったらそこから愛の物語が始まっても不思議じゃないが、どっちも陰キャだしな。
「ところでさー」
そんなことを考えていたら
「二人って付き合ってんの?」
いきなりぶっこんでくるな、こいつ……。
そういうデリケートな話題って、もう少し手順を踏んでするものじゃないのか? いや、俺の退陣経験が少なすぎるだけかもしれないけど……。
「そんなわけないだろ。どっちも陰キャなんだから」
胸の内を正直に答えると、詩織の表情が少し曇った、気がした。
「……当たり前でしょ。そもそも私、そういうの興味ないし」
この反応……数多のラノベを読破した俺は知ってるぞ。
これは「実は主人公のこと好きだけど、今の関係が壊れるのを恐れる幼馴染系ヒロイン」のそれだ。
……いや、そんなはずはないか。冷静になれ、俺。
いくらそれっぽく思えたって、それは俺の想像に過ぎない。結局、人の心なんて分かりっこないしな。
「というか、そっちこそどうなんだよ」
「え、アタシ?」
朝日は俺たちと違って陽側の人間だ。色恋沙汰の一つや二つ、あっても不思議じゃない。
「いないんだよねー」
「意外だな。男とかとっかえひっかえ。ちょべりば。って感じなのに」
「マジで偏見ひどくない? てか、そんな相手いないし」
「ほら、一松とか」
「カズヤは……そういうのじゃないし」
「そうなのか」
よくよく考えてみれば当たり前だ。彼氏がいるなら、俺と休日に出かけたりしないし。
詰まって更新が止まってました。ぼちぼち更新してきます。




