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治安が悪いとか、埼玉の植民地だとかいろいろ馬鹿にされている池袋だが、実際に足を運ぶとその発展度合いに驚く。
駅の中はどの時間も人でごった返しており、大きな商業ビルがいくつも立ち並んでいる。まさしく都会、といった感じだ。
放課後。俺と詩織、朝日の三人は、池袋へ出かけていた。
……冷静に考えてみると謎メンすぎるな、この三人。
「……これ、この前のブックタワーよりもデカくね?」
池袋で最も大きな書店と言ったら、やはりジュンク堂だろう。池袋店は全国でも5本の指に入るほど規模が大きく、他の書店ではお目にかかれない専門書などが充実しているのが特徴だ。ラノベの品ぞろえもブックタワーに匹敵するレベルで、有名作品からマイナー作品まで幅広く取りそろえられている。
「天下のジュンク堂様だからな」
「はえー……」
目を丸くして建物を見上げる朝日。こういった大規模な書店に行ったことが少ないから新鮮なんだろう。
エスカレーターを使い、漫画・ラノベが置いてある地下一階に降りる。
「新見さんは漫画とか読まないの?」
「あんまりかなー。そもそも、お金を払って本を買うってコト、あんまりしてこなかったから」
「そうなんだ」
「しおりんのおススメとかない?」
「え、おススメ? うーん、私もあんまり読まないからなぁ……」
そういって詩織はあたりを見渡し、一冊の漫画を棚から取り出した。
「これとか」
詩織が取り出した漫画は、ポップでキュートな絵柄が特徴的な、アビスでメイドインな探窟系漫画だった。
え……詩織、朝日のこと嫌いなん?
「絵、めっちゃカワイイじゃん!」
騙されるな朝日。確かに絵柄はカワイイかもしれんが、中身は……。
「ん……あれっ」
「どうした」
「……アタシ、このマンガ知ってる!」
「え、そうなの?」
「たしか……琴が持ってたんだよね」
琴……尾市がか?
まさか。ありえないだろ。あいつは純文学とか詩集とか、そういう作品の方が好きなんじゃないか。もっとも、勝手な予想だけど。
「尾市って漫画とか読むのか? あんまりそういったイメージが無いんだが」
「うーん、どうだろ。たぶん誰かから没収したやつだと思うケド」
それなら納得だ。尾市はアニメとか漫画とか、そういうの好きじゃなさそうだからな。
そのまま俺たちは壁際にあるラノベコーナーに移動した。
「しおりんはラノベ好きなん?」
「ま、まぁ人並みには」
「騙されるなよ朝日。詩織は俺と同等、いや、それ以上のオタクだ」
「ちょっと!」
「隠してもしょうがないだろ」
「そうだけど……」
口をとがらせて講義の目線を向けてくる。勝手にカミングアウトされたことが不満だったらしい。
詩織はクラスで大人しいキャラで通っているが、オタクということは知られていない。しかし実態はガチガチのオタクだ。JKという貴重な時間を全て趣味に注ぎ込むことによって得た知識はとんでもない量で、ラノベ以外の分野では俺は足元にも及ばない。
「マジ? しおりん、オタクだったんだ」
「私……自分をオタクって表現するの、抵抗あるんだけど」
「その気持ちはわからんでもない」
使い古された表現だし、そもそも定義が広すぎるもんな……。
「え、じゃあ毎朝読んでた本ってラノベだったん?」
「そうだけど……」
「やばっ! アタシ、まったく気付かなかった!」
詩織は俗にいう隠れオタ、というやつだ。ラノベには革製のブックカバーをつけ、ちょっと高尚な本を読んでる雰囲気を醸し出してるし。なにより文系教科の成績が優秀なので、おとなしめな文学少女、というキャラ付けに成功している。
「なんかおススメのラノベない?」
「さっきも聞いたじゃん……」
「あれはマンガだし。こっちは別腹でしょ」
詩織は少し逡巡してから、電撃文庫の棚に向かい
「これとか」
一冊のラノベを取り出した。
詩織が手に持っているラノベ。『ブラック・ブレット』は、電撃文庫から発売しているバトル系のラノベだ。
魅力的なヒロインや濃厚な戦闘描写、そしてなによりもハードな世界観が魅力的な作品で、バトル系ラノベでもトップクラスの面白さを誇る。誇るのだが……
「え、面白そう。買うわ」
「……」
この作品、2014年に7巻が発売されて以降、続巻が発売されていないのだ。作者の体調不良が原因らしいが、現在どうなっているのかは不明。なのでこれを読んだが最後、続きが気になって夜も眠れなくなる呪いを長期間にわたって背負うことになる。
「……なぁ詩織。朝日のこと嫌いなのか?」
「いや?」
そう言った詩織の表情はどこか楽し気だ。こいつ、俺より性格歪んでるんじゃないか?




