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「今のナシって……ちょ、マジで困るんだが」
「ふっふふ」
「おい新見!」
「新見じゃなくて朝日」
「あ、朝日。どうかこのことは秘密に……」
「どーしよっかなー」
無邪気な子供……ではなく、獲物をいたぶって楽しむ蛇を彷彿とさせる新見。
さっきまでの尊敬に満ちた態度から一変して、なにやら
「あー、なんか肩こっちゃったな」
「はい?」
「肩揉んで」
「ぐっ……」
こ、こいつ。こっちが下手に出ればつけあがりやがって!
「朝日ィ……!」
「なにその反抗的な目。あ、アタシ急にクラスLINEで呟きたくなっちゃった。『ねぇみんな知ってる? 鹿野って実は――』」
「喜んでやらせていただきます!」
悲しいかな。弱みを握られている以上、俺はこいつに逆らうことはできない。もしかして一生このままなのかな。俺の余生、すべてこいつのいいなり? 辛すぎるだろ。鹿野くんは金髪ギャルのいいなり。なんかラノベありそうだな。
「覚えとけよオマエ……!」
「……に」
「え?」
「別に、話してくれてもよかったのに。もっと前にさ」
俺は彼女の肩を揉むため後ろにいる。なので顔を見ることはできない。しかし、その声はどこか不機嫌……というか拗ねた子供のようだ。
もしかすると、さっきまでは衝撃が勝っていただけで、今になって俺が隠していたことに腹を立てたのかもしれない。
指が疲れたので手を離し、元の席に戻る。
「……仕方ないだろ。俺とお前は、気の知れた友人ってワケじゃないんだ」
「……」
なんでちょっと悲しそうな顔するんだよ。俺が悪いみたいじゃないか。
……けどまぁ、実際悪いのは俺なのかもしれない。朝日がラノベを書くといって相談してきたとき、ラノベ作家であることを隠していた。たしかにこれは不公平だ。
「……まぁ、隠してたのは悪かったよ。ごめん」
「別にいいし。怒ってないし」
「嘘つけ……」
「嘘じゃない!」
ツンとした様子の朝日。目も合わせてくれない。完全に怒ってますねこれ。というか、なんかヒートアップしてないか?
そんな俺たちの様子を、まるで噂好きのおばさんのように見ていた由紀さんが一言。
「……痴話喧嘩?」
「違います!」「違うし!」
「あらそう? そんなに息ぴったりなのに……」
あらあらやーね最近の若い子たちは……みたいなメッセージが瞳から送られてくるが、俺はそれを無視。
「水とってくる」
「あ、俺のも頼む」
「……自分でやればいいじゃん」
俺の渡そうとしたコップを受け取らず、朝日はウォーターサーバーへ歩いて行った。
「ねぇねぇ夕月先生」
「……なんですか?」
「もしかして、あの子がこの前話してた娘?」
「そうですよ」
「実在したのね……」
一週間ほど前。俺は由紀さんに新見の話をしたんだっけ。もっとも、あの時は信じてもらえなかったが。
「朝日さんって、苗字は新見?」
「そうですけど……俺、苗字教えましたっけ」
「詩織が、ね」
由紀さんと詩織は姉妹だ。同じ家に住んでいる以上、クラスメイトの話題が出てもおかしくない。
「何か言ってたんですか、あいつ」
「『ポッと出のギャルにアタシの夕月を奪われちゃった! ぴえん』って」
「絶対嘘だろ……」
「もちろん嘘よ」
なんだこのおばさん。
「そもそも。あの子はそんな愚痴を言うタイプじゃないし」
じゃあ言うなよ。
「でも。最近ちょーっと暗かったのは本当よ?」
「はぁ」
「だから、ちょっとは構ってあげてね。あの子、寂しがりやだから」
「詩織が寂しがりやですか? それはありえませんよ。俺もあいつも、一人は慣れてますし」
「…………」
「なんですかその目」
「いや、別にぃ……?」
そんなこんなで新見が水を持って戻ってくる。
当然、こんな状態では話が弾むはずもなく、俺たちは10分もせずに店を出た。
――――――
「なぁ朝日。機嫌治してくれよ」
「……別に怒ってないし」
「嘘つけ。じゃあなんで目合わせないんだよ」
「……目を合わせなきゃいけないなんてルール、あるの?」
いつぞやに俺が言ったことじゃないか。
「隠してたことは悪かったからさ」
「そうじゃない」
「え?」
「別に、そんなことどうでもいい。そりゃ、ちょっとは怒ったけど……」
「それなら、なににイラついてるんだよ。教えてくれ」
「……アタシとは友人じゃないんでしょ? じゃあ、そんなことどうでもいいじゃん」
その言葉が、彼女の心を表している。今になって俺は気づいた。
もしかして、俺が友人なんかじゃないって言ったから怒っているのか。
いやでも。たしかに最近の俺と朝日は話す機会が多かった。けどそれはラノベという共通の趣味が生まれたからで、別に仲が良かったわけじゃないだろ。
「アタシ、馬鹿みたいじゃん」
「……」
「一緒話して、遊んで。なんやかんや言いながら、夕月は楽しんでくれてると思ってた。でも、そうじゃなかった」
「そんなこと――」
「じゃあ、なんであんなこと言ったの? 普通に友達でいいじゃん。なのに……!」




