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「……なんでそう思うんだ?」
「だって、めっちゃ大きくない? ラノベってもうちょっと小さいじゃん」
「あー……」
なるほどそういうことか。違ったみたいで安堵。
「出版社によってサイズが違うんだよ。新見のいうラノベ――文庫版と違って、Web発の新興レーベルとかは大きめなサイズで印刷することが多いんだ」
「へぇー、なるほ」
納得した様子で、『無職転生』をカゴに入れた。
「……ん? ねぇねぇ夕月」
他の棚へ向かう途中で、新見……朝日が足を止めた。
「どうした」
「『ラノベ』って、なんなの?」
「……哲学的な話?」
思わず詩織みたいな返事をしてしまった。
「や、そうじゃなくて。ラノベの定義ってなんなのかなー、って」
「あー……」
この質問は一見、簡単そうに思える。しかし。実際考えてみるとなかなか結論が出ない問いだったりする。
「それなんだがな……」
「うん」
「ライトノベルの定義は……存在しないんだ」
「え、嘘!」
実際そうなのだ。ネットや現実で、これまで幾度となくこの問題は議論されてきた。しかし。
それは『ライトノベル』という存在が独立した概念ではなく、現実の書籍媒体の一部である以上、明確に定義することは不可能なのだろう。
「まぁ、いろいろな意見があるけどな。文体が軽いとか、萌え絵があればそうだとか。ただ、軽い文体とか萌え絵っていう言葉にも明確な定義が必要になってくる。そうなるともうイタチごっこだ」
「それじゃあ、アタシが今まで読んでた本は……このカゴの中にある本は。一体どーなんの。ラノベじゃないの?」
「いいか新m……朝日。お前がラノベだと思うならラノベなんだ」
「えぇっと……」
うなったりひねったりくねったり。悩んでいる様子の新見だが、
「考えるな、感じろ」
「わ、わかった!」
この件に深入りしたくないので強引に会話を打ち切った。
「そんなことより。他におススメは……」
周囲の棚を見渡す。右隣の棚。そこに俺は見覚えのある本を見つけた。
「あ……」
『暁色の僕ら』。俺、いや、香月ユノが書いたラノベ。
もしも朝日に、『暁色の僕ら』を勧めたら。
こいつは楽しんでくれるだろうか。面白いと言ってくれるだろうか。
――それとも、つまらないと言って読み捨てるのか。
わからない。眩暈がする。首筋に冷たい汗が流れ、平衡感覚があやふやになってくる。
「ど、どしたん?」
いきなり黙った俺を不思議に思ったのか、朝日が俺の顔を覗き込んでくる。
狂いかけていた感覚が現実に引き戻される。
「体調、悪いの?」
心配そうな朝日の声。
その本に気づかれないよう、本棚から目を逸らす。
「……いや、なんでもない」
「ならいいケド……」
俺は、怖いのか?
自分が作家だとバレるのが。彼女に俺のラノベを受け入れてもらえないかもしれないことが。
自分でもよくわからなかった。
「ちょっと他のコーナー見てくる。用事があるんだ」
「いいけど……アタシはもうちょい見てるね」
「あぁ」
なぜだかわからないが、一刻も早くこの場を去りたかった。
新見に背を向けエスカレーターの方へ向き直る。
「あれっ、夕月先生」
「……え」
聞き覚えのある声。
なぜだかわからないが、心臓が大きく跳ねた。




