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「あったあった」
巨大なリングが特徴的な音ゲー。その筐体の真下に俺の財布は落ちていた。誰にも拾われていなかったようで安堵する。
階段を使って一階に戻る。幸い、ここまで10分もかかっていない。新見の機嫌を崩さずに済みそうだ。
ゲーセンを出て周囲を見回す。新見はっと、……いたいた。彼女は高架下の自販機前に立っていた。髪色が目立つから見つけやすくって助かるな。
が、俺はそこで異変に気付く。
二人組の男が新見に話しかけているのだ。黒髪マッシュの眼鏡に、ガタイのいい金髪ヤンキー系の男。
新見のうんざりした表情を見るに、どうやら知り合いではないようだ。
となるともしや。あれは伝説の――ナンパ!?
「ガチで存在したのか……」
古今東西いつの時代にも存在するナンパだが、俺は自宅ガチ勢(引きこもりともいう)なので実物を目にするのは初めてだ。
席を外している間に、連れの女子がナンパされる。100冊ラノベを読んだら5,6冊ぐらいは見つかりそうなポピュラーな場面だが、まさか体験することになるとは。
俺は数々のラノベを読んだから知っているが、このシチュエーションで取れる手段は4つに限られる。
1つ目は彼女を連れて逃げる。これは一見すると軟弱に思えるが、もっともリスクの無い手段だ。しかし、その後ヒロインと決まずくなる可能性がある。
多分、いや絶対に新見は根性なしってバカにしてくるな。そうなったら気分悪い。よって却下。
2つ目は肉体的手段、すなわち暴力。ヒロインにワイルドさをアピールすることができるが、普通に犯罪。ナンパと暴力は後者の方が圧倒的に罪が重いのでワンチャン塀の中にぶち込まれる可能性がある。俺の腕力じゃマッシュの方には勝てても金髪には絶対に負けるだろう。よってこれも却下。
3つ目は対話による解決。『こいつ、俺のカノジョなんで』みたいなセリフを言えば、相手は『んだよ……男がいんならそう言えよ、ブス!』と逆切れして去っていく。統計的データから見ても間違いない。これは一番現実的な手段だ。しかし、新見を彼女なんて言おうものなら後で絶対ネタにされるしな……。なので却下。
4つ目は逃亡。もちろん一人で。創作物では軟弱系主人公のキャラ付けに使用される。おいてけぼりにされたヒロインの末路は年齢制限によって変わるが、大体悲惨な目に合う。いうまでもなく却下。
……あれ、詰んでね?
いやまて。一応、上記の手段を使わずに解決する手段もあるにはある。たった今思いついた方法だが……あまりやりたくないな。
けど仕方がない。目には目を。歯には歯を。ナンパにはナンパを、だ。
「あのー、お兄さんたち」
「あ? 誰、オマエ」
金髪の方が俺に向き直り、睨みつけてくる。うわっ、怖すぎだろ。
普通に逃げたくなるが、新見を置いてそうする選択肢はない。
溢れだしそうな恐怖心を押さえつけ、にこやかな笑顔をつくる。
「いや、楽しそうなことしてるなーって。俺も混ぜてもらっていいすか?」
「は? 後にしろ後。この女、俺が先に目つけたんだからよ」
そう言って、ガタイのいい方が新見の肩を掴む。
対する新見はというと……必死に睨み返してはいるが、委縮して黙り込んでしまっている。
「えっと、何か勘違いしてません?」
「あぁ!? どうせお前もナンパ目的だろうが! とっとと失せろカス!」
タバコ臭い息が顔にかかる。思わず顔を逸らすと丸太のような腕が目に入る。思わず身震いした。
「ちょ、アタシは一人でも大丈夫だから。鹿野は――」
口に手を当て新見を制止させる。後で何か言われそうだが仕方がない。
「いやいや、俺が狙ってるのは女の子の方じゃなくて……」
「あ?」
「お兄さんですよ」
そう言って俺は、金髪、ではなく――黙ってニヤついていたマッシュヘアーの方へ歩み寄り、彼の股間を鷲掴みにした!
「ひっ――」
「お兄さぁん」
「な、なにかな?」
「いい顔してますね。僕好みですよ」
彼の耳元に顔を近づけ、舌なめずりする。
舌なめずりって言葉を本で見るたびに普通の人生で一度もやる機会無いだろとイラついていた俺だが、ありましたね機会。
「オイ、何してんだ――」
マッシュの危機に気づいたのか、金髪の方が拳を振り上げる。このままでは間違いなく俺は殴られる。最悪、歯や骨が折れるかもしれない。
が、しかし。
「ま、まて。殴るなケンイチ!」
「あぁ!? なんでマサトが止めるんだよ」
「つ、潰される。潰されるから!」
マッシュの男が、股間から俺の手を引きはがそうともがく。しかし、俺は力を緩めない。ここで離したら俺は二人に対する抑止力を失い、殴られて逃亡される恐れがあるからだ。
そうこうしているうちに、周囲の人がこちらに注意を向ける。
『おい、なんだあれ』『ケンカか?』『あの男、チ○コつかみながらにやついてるよ……』『キモ過ぎだろ』
「お、おい。悪かった、悪かったから! 離してくれ!」
状況を悟ったのか、マッシュの方が懇願してくる。
まぁ、これだけ注目されていれば反撃されることはないだろう。そう考え、俺はマッシュの股間を離した。
一応牽制しとくか。
「あ、そうそう。お兄さんのこと気に行ったんで、今度会ったら声かけますね――仲間と一緒に」
「か、勘弁してくれ! 逃げるぞ!」
「あぁ、クソッ。覚えとけ、オマエ!」
そう言って二人は逃げ出していく。
「ふぅ……」
これにて一件落着。




