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「そろそろ昼だな。とりあえず、飯食べに行くか」
「アタシ、メイドカフェ行きたい!」
「はぁ……」
出た、出ましたよ。秋葉原=メイドカフェ。思わずため息が出てしまう。
「な、なに。アタシ、おかしなこと言った?」
「なぁ新見……確かにメイドカフェは素晴らしい文化だが、秋葉原にはレベルの高い飲食店が数多く存在するんだよ。肉なら万世、カレーならゴーゴーカレー。ちょっと離れればお高い料亭なんかもある。例を挙げればキリないけど、それを秋葉原でご飯=メイドカフェというイメージで片付けてしまうのはちょっと安直じゃないか? メイドカフェなら昼食後に行くって選択肢もあるだろーー」
「あぁもうめんどくさいな! てか、長文キモっ!」
「キモって――お前なぁ! 秋葉原を舐めるな! 確かに最近はライト層や観光客の流入で変わってしまった部分もあるけど、この街にはディープでアングラな魅力が数多く残ってるんだ。郷に入っては郷に従え。正しい秋葉原の楽しみ方というものがな――」
「いや、こういう話だけ口数多すぎでしょ……」
俺の熱弁空しく、新見は意見を譲らなかった。
仕方がないのでメイドカフェで昼食をとることにする。
俺はオムライスを頼み、新見はハンバーグランチを頼んだ。
「って、うわ。アタシもオムライスにすればよかった」
「なんでだ?」
「ほら、あの萌え萌えキュン?って文字書くやつ。あれやって欲しかった」
「新見って、そういうの嫌いそうなイメージあるんだが」
「いや? むしろ興味あるぐらいだけど」
「そうなのか?」
「まぁ、前は偏見あったケド。ラノベとかでもよく出てくるし……」
そんな話をしていると、メイドが料理を運んできた。
「ご主人様、オムライスの文字はどうしますか?」
「あ……大丈夫です。自分でかけるんで」
「え、いいんですか。料金は変わりませんけど……」
「大丈夫です、はい」
「承知いたしました。それではごゆっくり」
料理の乗ったプレートとケチャップを机に置くと、彼女は他の接客へ移動していった。
「え、もったいなくね。『夕月ご主人様 LOVE』って書いてもらえばいいのに」
「いやいい」
「なんで?」
「いや、どうでもいいだろ」
「もしかして……恥ずいの?」
「べ、別に違うからな」
「そういえば鹿野って陰キャだもんね……メイドさんと話してるとき、目合ってなかったし」
「は? 目を合わせなくちゃいけないなんてルールがあるのか。ないだろ。個人の自由を束縛するんじゃない。そういう『当然こうするべき』みたいな思想が差別をだな――」
「はいはい。仕方ないからアタシが描いたげる」
「ちょ、頼んでないんだが……」
俺の制止など知らぬといった感じで、新見はオムライスにケチャップアートを始める。
どうやら文字ではなく絵を描いているらしい。
それにしても……これは。
「……」
「っと。どう? ちょーかわいくね?」
「……プレデター?」
「猫だし!」
いや、どこからどう見ても猫じゃないだろ。どちらかというと捕食者、バケモノといった表現がしっくりくる。
てか、ここのオムライス美味いな。卵の厚みが尋常じゃない。ケチャップもしっかりしたものを使っているようで、トマト特有のえぐみが感じられない。今度一人で来ようかな。
「てか、意外なんだけど」
「何が?」
「鹿野って姉か妹いるでしょ? それなのに女子と話すの苦手って」
「まぁ陰キャだからな。……というか、なんで姉か妹がいるって思うんだ?」
「この前家行ったじゃん。手洗いから戻ろうとしたら、間違えて他の部屋入っちゃって――」
「……あぁ、姉さんの部屋か」
「そうそう。外出してたっぽくて誰の部屋かはわかんなかったけど。姉ちゃんいるんだ。うらやま」
「ここ数年、帰ってきてないけどな」
「そうなん? なんか理由とか――」
「……まぁ色々とな。そんなことより、ハンバーグ冷めるぞ」
「ほんとだ。やばっ」
姉さんとはかれこれ一年以上会っていない。会いたくもない。
それも、全部あの一件が原因だ。
……彼女のことを考えるのはやめよう。飯が不味くなる。




