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「――ってゆーわけ。納得っしょ?」
「いや、欠片も理解できん。もっと言えば、なんで俺がお前と秋葉原に来ているのかもわからん」
「やば! 記憶喪失じゃん」
その週の土曜日。
何が起こったのか、俺は新見と秋葉原に来ていた。
今は秋葉原駅と直結しているスタバで先日の件について話しているところだ。
「っていうか、昨日説明したっしょ。この前のお詫びだって」
「いやわからん。どうしてお前と外出しなくちゃいけないんだ。むしろ俺にとっては罰ゲームなんだが」
「ちょ、鹿野マジありえないんだけど! 女子と出かけるのが罰ゲームて。性格のヤバみが深い! てゆーか陰キャすぎ!」
「うるせぇ、このプリン頭……」
にこやかに罵倒してくる新見を、コーヒーを啜りながら睨みつける。
休日にも関わらず、俺がこいつと外出している理由。それは、この前フィギュアを壊してしまったお詫びがしたいと彼女に頼まれたからだ。あの件はチャラにしたつもりだったのだが本人は納得できなかったらしい。
「というか、お詫びって具体的になにするんだ」
「アタシがデートしたげる」
「帰る」
「まってまってまって。ほら、そう言わずにさ! パーッと遊ぼ」
正直、休日に女子と二人きりで外出とか俺にとっては罰ゲームでしかない。高揚感よりも心労が勝るからだ。
断ろうとしたが、あまりにもグイグイ頼まれたので了承せざるを得なかった。やっぱ押しに弱いんだな、俺。
「というか、俺がもう一回聞きたいのはもう一つの話だ。ラノベ作家になりたいだのなんだの……」
「そうそれ。この前、鹿野にラノベを楽しんでくれって言われたじゃん。あの後よくよく考えたんだけどさー」
クリームまみれの甘ったるそうなフラペチーノをかき混ぜながら彼女は語り出す。
「ラノベ読むのって、めっちゃ面白いじゃん?」
「まぁ、それは同意だ」
「じゃあ、それを書くのも楽しいに決まってんじゃん!」
「……いや、それは論理的に間違ってないか?」
例えるなら、野球観戦が趣味の人がいたとして。彼らは野球を見るのが好きだが、別にプレーするのが好きな訳じゃない。もちろん、中には見るのもプレーするのも好きな人もいるだろうけど。割合で言ったらむしろそうじゃない人の方が多いのではないだろうか。
ラノベも似たようなものだ。
というか、ラノベとスポーツだけじゃなくてこれは世の中のほぼすべてのことに当てはまると思う。政治や戦争だって映画とかドキュメンタリーで見る分には興味深いが、実際に体験するとなったらとんでもない苦痛だろう。
「ラノベを楽しめって言われたからにはやっぱ全力で楽しみたいワケ。アタシ的には、めっちゃ名案だと思うんだけど」
「それは趣味で書くのか? それとも、何か目標とかがあったりするのか」
「書籍化!」
「おおう……」
「まぁ、アタシなら余裕ってゆーか? なんならアニメ化も視野に入れてる」
そんな根拠のない自信をどや顔で披露する彼女を見ていると、少し腹が立った。
俺は青春の殆どをラノベに捧げた人間だ。それに、ポッと出の新米ではあるが一応現役の作家でもある。必死に努力し、ラノベを書くことの難しさを身をもって経験してきた。だからこそ、何も知らずに能天気な新見を見ていると心がざわつく。
「あのな。一応言っておくが……書くのと読むのは全然違うぞ?」
「そうなん?」
「当たり前だろ。なぁ新見、ラノベ1冊の文字数ってどれぐらいかわかるか?」
「えっと……1万文字ぐらい?」
「10万文字」
「えっ」
「10万文字だ。中には20万とかの分厚いヤツもあるけどな」
「……めっちゃ多くね?」
「ああ。学校で原稿用紙使ったことあるよな。あれが1枚400字詰めだから、20万÷400で……250枚ってとこか?」
「やっば……」
250枚の原稿用紙を想像したのか、青い顔で戦慄する新見。
「まぁ、短編とかはもちょい少ないけどな。それでも学校の作文とかと比べると段違いの量だ」
それに量だけじゃない。
書くことによる時間の消費。他者からの批判。自分の文才の無さ。ラノベを書くことによる心労は数えきれない。
「書籍化が目標なら……ネットに公開するにしても新人賞に出すにしても、他人からの批評は避けられない。途中で作品を投げ出すにしても、諦めてしまったことへの自己嫌悪に苦しむことになる。自分が作者になるってことは、思ってるよりもしんどいぞ」
「う……」
俺の熱弁にたじろぐ新見。
「……てか、やけに詳しくない? やけに実感がこもってるってゆうか……」
「いや、まぁ……想像だ。ほら、あとがきからの」
「あー、あとがきね。なるほ」
苦しい言い訳だが、納得してくれたようだ。
「正直、あまりお勧めできない。読んでるだけでも楽しむことはできるしな」
俺としては、彼女に筆をもって欲しくない。ラノベを書くことは辛い。それは俺が身をもって知っている。こらえ性のない新見のことだ。途中で辛くなって、書くのをやめて、ラノベごと嫌いになってしまうかもしれない。
俺は、それが怖い。
忠告を受けて、新見は数秒間黙った。しかし、すぐに顔を上げて――
「アタシは。それでも書いてみたい。だって――」
続く言葉を待つが、彼女はそこで止めた。
「だって、なんだ」
「いや、なんでもないし」
露骨に視線を逸らす彼女を見ていると追及したくなるが、それも野暮なのでやめておく。
「とにかくアタシは書く。それは決まり!」
「はぁ……まぁ、いいんじゃないか。俺には関係ないし」
「だから鹿野。ヒヒョー?ってやつ、よろしくね!」
「批評な。というか……なんで俺が?」
「え、一番詳しそうだし」
妥当な人選だが、釈然としない。
まぁ、ラノベ関連の頼みとなれば断ることはできないのだが。俺の信念がそうさせる。
「それに――」
「それに?」
「悪いところ探すの得意そうだし。人でも作品でも」
「それは口に出すなよ……」




