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――――こうして場面は始めに戻る。
あの後、俺は尾市と教室へ戻った。
が、そこに広がる光景は、予想を大きく裏切るものだった。
うずたかく積まれたラノベ。がらんとした教室に、ぽつりと立ち尽くす一松カズヤ。そんな彼に一切注意を向けず、ラノベを読みふける新見。もちろんあの独り言も健在だった。
以上なのは、彼女の机にあるラノベの数だ。
目算で50冊――いや、100冊はゆうに超えている。俺が昨日貸したのは6冊だけ。つまり、あの後本屋に行って買いそろえた計算になる。なんという執念だ。これを学校に運ぼうとする時点でイカれてる。
その事実に呆気にとられる俺に、彼女を治してくれと追いすがる二人。もちろん、そんなこと不可能だ。
「なんで……こんな……ぐすっ」
「ちくしょう……ちくしょうッ」
床に座り込んでいる二人が慟哭する。そんな二人を見ていると、なんとも言えない罪悪感を覚えた。
「どうしてこうなった……」
ラノベを楽しめと、昨日の俺は言った。言ったけども。
いくらなんでも楽しみすぎだろ。限度ってものを知らないのかこいつは。
「おい、新見……」
「ヒ、ヒヒッ。マジ尊い……」
彼女はブツブツと何かを呟き、時々「フヒヒっ」という笑い声を漏らしてはページをめくる。
壊れたラジオのように、その動作を繰り返しているだけだ。
俺の声は届かない。二人の声も届かない。
そして、数分が経った。
「フヒ、ヒ……ヒィ……………」
パタンと、文庫本を閉じる音。どうやら読み終わったらしい。
もしかしたら、彼女はあのまま元に戻らないんじゃないか?
そんな後ろ向きな想像が俺の心を支配している。もしかすると、二人も同じ心境なのかもしれない。
俺たち三人は息をのみ、二人は新見に駆け寄る。
「お、おい……」「あ、朝日? 大丈夫?」
「……あれっ、琴にカズヤ。って、鹿野もいるじゃん。みんなどしたの?」
あっけらかんとした様子で、いつもの笑顔を浮かべる新見。
よ、よかった! いつもの新見だ!
安堵のあまり体から力が抜ける。一松とか半泣きだし。尾市もハンカチで目元を拭っている。
「だ、だいじょうぶ、朝日? 頭とか痛くないかしら……」
「え、めっちゃ元気だけど。どしたの急に」
「いいの、なんでもないの。私は、あなたが元気ならそれで……」
「なにそれ。ウケるw」
いや欠片もウケる要素ないだろ。とツッコみたかったが、それは野暮だ。
とりあえず、今は彼らをそっとしておこう。俺は背を向け、教室を後にしようと――
「って、鹿野。ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「ん、なんだ」
この時の俺は、新見朝日という少女の性格を上手く理解していなかった。彼女の破天荒っぷりは全人類有数で、地球上すべてを探し回っても同じような人間は見つからないだろう。
というか、いてたまるか。そのことを、俺はすぐに思い知らされることになった。彼女の一言によって。
「アタシ、ラノベ作家になりたい!」
……え?




