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「……そもそも、なんで尾市は新見を元に戻したがっているんだ?」
「気持ちが悪いから」
「たしかに」
思わず納得してしまった。
これはオタクがキモいとかそういうレッテル張りではなく、新見朝日がラノベを読む姿がキモい。そういう意味だろう。
ニヤケ顔で不気味な笑い声を上げながらラノベを読む姿は、お固めの尾一からしたらさぞ不気味だろう。俺ですら引いてんるんだし。
「まぁ、それもあるのだけど……一番の理由は、私が彼女の友人だからよ」
「友人だから?」
「ええ。友人が間違った道へ進もうとしているのなら、それを止めるのは当然でしょう? もっとも、友人のいないあなたのような人間にはわからないかもしれないけれど……」
「……本人が頼んでもいないのにか?」
「えぇ、そうね」
尾市琴はスペックが高い。聡明なのは言うまでもなく、コミュ力や外見、高校生らしからぬ洗練された人格は、同じ高校生だなんて信じられないぐらいだ。
正直、尊敬していた。けどたった今、俺はコイツが嫌いになった。
「……それ、ただエゴを押し付けてるだけだろ」
「そう?」
「要するに、尾市の『こうあって欲しい』って願望を新見に押し付けてるんだろ? エゴの塊じゃないか」
「あなたのような人間からしたらそう見えるのね。勉強になるわ」
口調こそ穏やかだが、言葉の裏には明確にこちらを嘲笑する意図が含まれている。
「あなたのように、なんの責務も負わずにのほほんと生きてる人間が言っても説得力がないわ」
なんの責務も負っていない――彼女の言葉には、いつもとは違う、一種の熱量のようなものが込められているように感じられた。
「スーパー生徒会長サマからは、俺はそう見えてるのか。勉強になるわ」
「……バカにしてるの?」
「どうだろうな」
意趣返しで真似したやったが、思いのほか効いてるみたいだ。
「友人のためとか理由をつけてはいるけど、結局は自分のためだろ? 自分と険悪な田中のグループが力をつけると、生徒会長サマとしてはよろしくないもんな」
「……あら、思ったよりも賢いのね。おまけに口も回る。ただの根暗だと思ってたわ」
「勘違いしているようだけどな。陰キャの洞察力は優れてるんだよ、安全ポジションから高みの見物を決め込めるからな」
驚いているのか軽蔑しているのか、よくわからない表情を向けられた。たぶん後者ですね、はい。
ちなみに、やけに雄弁な俺だが内心めっちゃビビってる。区部指示に変な汗を感じる。正直逃げたい。尾市怖いし。
「……まぁ、利己心があったのは認めるわ」
先ほどとは打って変わって、真面目なトーンで話す尾市。
「でもそれだけじゃない。高校生というのは残酷な生き物よ。それも女子は特に」
「何が言いたいんだ」
「私やカズヤさんは大丈夫。友人もいるし、なにより彼女たちにナメらていない。でも、朝日はどうかしら」
そこで俺は、彼女の意図を察する。いや、まさか。
「今の彼女はあまりにも熱中しすぎている。正直、クラスから浮いてるわ。そんなカーストから落下した異物を、彼女たちは放っておかない」
「……いじめられるっていうのか? バカ言え。うちの学校の職員はしっかりしているし、なにより尾市がいるだろ」
「直接的でなくても、人は他人を貶められるものよ」
「……」
「だから私は、彼女が心配でならない。あの子を元に戻してあげたい」
そう言う尾市の表情には、普段の凛々しさは欠片も無かった。ただ不安。心底友人を心配する色が浮かんでいる。
「……わかった。俺も出来るだけのことはやってみる」
「えっ……いいの?」
「言っておくけど、期待はするなよ。正直、新見からラノベを取り上げるのは不可能だしな」
それに、そんなこと俺はしたくない。あんなに楽しんでラノベを読む彼女から、それを奪いたくない。
「俺は尾市が嫌いだ。でも、こんな状況で無視できるほど人格破綻者じゃない。だから。少しだけ協力する」
「あら。私はあなたのこと結構気に入っているわ。まぁ、嫌いではあるけど」
なんとも反応に困る感想だ。
「とりあえず、教室に戻るか。新見の様子も気になるし」
「そうね。……あなたって、そんなに朝日のこと気に入ってるの?」
「そういうのじゃなくて、ただ心配なだけだ。俺にも責任があるしな」
「そんなに気に病む必要はないかもしれないわ。あの子って飽き性だから、もしかしたらもうラノベを読んでいない、なんてこともありえなくないわ」
そんなことを離しながら、微妙な距離感のまま俺たちは教室へ向かった。
……その先に待ち受けていた惨状も知らずに。




