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「腹、減ったな……」
時計に目をやると、時刻は7時半。普段なら夕食をとっているはずの時間だ。
余りにも急展開すぎて意識していなかったが、かなり腹がすいている。
人間、悲しいことがあっても空腹は感じるんだな――壊れた彼女の姿が脳裏をよぎるが、必死にそれを押さえつける。
「飯、作るか……」
重い脚を引きずり、部屋を後に――しようとしたのだが
「ちょ、鹿野」
「新見。どうした」
「あの……マジごめんっ」
「えっと……」
「いや、あのフィギュアが壊れたのも、もとはといえば――」
「フィギュア? 今フィギュアって言ったか?」
「――じゃなくて、あの子が傷ついてしまったのも、もとはといえばアタシが悪ふざけしたからだし……」
そういって、申し訳なさそうにうつむく。
反省、してるのか。あの新見が。
信じられない――が、思い返してみれば、新見は口が悪くて自己中心的なところがあるが、悪いヤツじゃなかった。自分に非があるとわかればそれを受け止め、謝罪する。そういったことができる人間なんだ。これは当たり前のことに思えるが、結構難しい。
「……別に気にしなくていい。こっちにも非があるからな」
「そういうわけにはいかないでしょ。フィギュ――じゃなくて、あの子。アタシはそういうのよくわからないけど、すごい大事だったんでしょ。それを壊しちゃったのは、絶対にアタシだし……」
確かに、少し複雑ではある。事の発端は間違いなく新見だからだ。けど、こっちにも落ち度があったのもまた事実。差し引きゼロで両方とも責任なしって言うのが俺の意見なんだが……新見は納得しないようだ。
なら、仕方ないな。
「じゃあ、一つ言うこと聞いてもらってもいいか」
「いいよ……あ。え、エロいのはなしだかんね!」
「やらないっつの!」
思わずさっきの甘美な感触が脳裏によぎるが、それを振り払う。
俺が新見にお願いしたいこと。鹿野夕月が新見にお願いしたいこと。
……よし。
「これからも、ライトノベルを楽しんでくれないか」
「え……」
色々考えてみたが、俺が新見に一番望んでいることはこれだ。
「それって、どういうコト?」
「難しく考えなくていいんだ。ただ読んで楽しめばいい。あ、でも俺から借りるだけじゃ出版業界と作者が潤わないし……そうだな。本屋に行って、面白そうな作品を買って読めばいい。ネットでもいいな。Web小説は読むだけで作者の励みにもなるし」
「……それだけ?」
「それだけ。そんで、気に入った作品があったら教えてくれ。今日みたいに感想を言ってくれてもいい。俺も結構な量を読んできたつもりだけど、面白い作品って言うのはまだまだ眠ってるはずだからな」
「わ、わかった。これからも、ラノベ、楽しみます!」
「……なぜに敬語?」
「……雰囲気で」
そんな新見の反応がおかしくって、思わず笑ってしまった。つられて新見も、いつものバカっぽいまっすぐな笑顔を浮かべた。
これからも楽しむ。という言葉は、これまで楽しんでいたことを証明している。
これまで、新見はラノベを面白いと認めていなかった。多分、というか、間違いなくドはまりしていたことは態度でわかってはいたが、自分から口にはしていなかったしな。
のどに刺さった魚の小骨が取れたように爽快な気分だ。
「それじゃあ、帰りの支度だ。もう遅いし」
「アタシ、お腹空いた」
「うん。じゃあ、家に帰ろうな」
「お腹、空いた」
「帰ろう」
「ごはん作って!」
「帰れ!」
「お腹空いた!」
結局こうなるんかい。




