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「お、お前、なんてことを」
「ふふふ……鹿野、そのラノベを渡せば離したげる」
「ひ、卑怯だぞ」
動揺している俺に反して、余裕な、それどころか楽しんでさえいそうな表情の新見。
腹立たしいが、俺は女子免疫ゼロの陰キャ。確かに体が密着しただけで心臓バクバクだし、思考もうまくまとまらなおっぱい柔らかすぎだろコイツ。違う。思考が上手くまとまらない。ていうかめっちゃいい香りするな。だから違うって。
「こ、こんなことしていいのか? 俺は男だぞ」
「べっつにぃ? 鹿野なんて陰キャだから、別に恥ずかしくもなんともないしぃ」
「ぐぅ……」
「ほら、アタシって美少女じゃん? この程度、慣れっこ慣れっこ」
「この、ビッチめ……!」
新見が喋るごとに首元に吐息がかかり、早かった鼓動がさらにブーストされる。
生意気そうな上目遣いの彼女の瞳に、意識を吸い込まれてしまいそうな錯覚すら覚える。
「ほぅら、早くラノベ、渡してってば」
「あ……」
半ばパニックになってしまい、腕の力が弱まる。そのまま新見にラノベを――奪われそうになったところで、ひらめきが稲妻のように頭を駆け巡る。
――これ、べつに渡さなくてよくね?
そうだ、何を焦っているんだ俺。
パニックになって冷静さを失っていたが、よくよく考えてみれば新見に抱き着かれることで発生するデメリットはゼロ。別にRPGみたいに継続ダメージを受けるわけでもない。対するメリットはというと、貴重な女子の感触はラノベの資料にすることも出来るし、なにより心地が良い。
まぁ、顔から火が出そう、なんて古典的な表現を使ってしまうぐらい恥ずかしくはあるけどな……。
考えれば考えるほど、俺の頭は冷静になる。
大方、女子に免疫のない俺をちょっとからかってやろう、ぐらいの気持ちだったんだろう。甘い。甘いぞ、新見。
俺は確かに女子免疫ゼロだ。でもな――数多のラノベでこういうシチュエーションは予習済みなんだよ。
見誤ったな、新見!
「ふんっ」
「きゃあっ」
ラノベを持つ右腕を高く掲げ、左腕で新見の背中をホールドする。
「な、なにしてんの……?」
「いや、お返しだよ。新見が抱き着いてくれたんだから、俺も抱き着かないとな」
「へぇー。あ、暑苦しいから、離れてほしいんですケド」
新見は生意気そうな上目遣いで反抗してくる。が、さっきよりも語気が弱く、なんというか余裕がない。
「あれ、もしかしてビビってるのか?」
「は、はぁ!? そんなわけないし!」
「だよな。ならもう少し、このままでいようか」
あれっ、新見、焦ってね?
さっきまで余裕しゃくしゃくだった生意気な表情が、みるみる内に赤くなっていく。呼吸も浅く、体を通して伝わる心臓の鼓動も早くなっているのを感じる。
これは――あれか。カースト上位勢あるあるの、自分は他人をいじるけど、相手からいじられるのには慣れていないヤツ。反撃を受けることが少ない強者だからこそ、撃たれ弱いってやつだ。
「どうした新見。顔が赤いぞ」
「ひゃ、はあっ? 別に見間違いでしょ。鹿野こそ、陰キャのくせに無理しない方がいいんじゃない?」
「まぁ、無理はしてるけどな。女子が抱き着いてくれたんだから、男である俺から離すのは礼儀知らずだろう」
必死に睨みつけてくるが、恥ずかしさがこみあげてきたのかどんどん表情が崩れていく。
いける、いけるぞ……ここ数日。ことあるごとに『陰キャ』だの『根暗』だのバカにされていた俺だが、初めて新見に勝てるかもしれない。
恥ずかしさと高揚感を表に出さない様、ポーカーフェイスで新見を見つめる。平然とした俺の態度に、たじろぐ彼女。
さぁ、その手を放せ新見。そして俺に勝利を!




