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「ちょっ……この挿絵は尊みが深すぎてもはや尊み秀吉でしょ。ありえん良さみが深い……デュフw」
「はぁ……」
夕焼けに染まる自室。
風に揺れるカーテン。
静かに時を刻む壁掛け時計。
ラノベの挿絵を食い入るように見つめてヨダレを垂らす金髪ギャル。
あたりまえに見せかけて異常な日常がそこにはあった。
「どうしてこうなった……」
あの後、いろいろ試してみたが新見は動かなかった。驚異的な集中力でラノベを読破する機械と化した新見は外界の情報を一切遮断しており、あらゆる攻撃が通用しない。
なるほど、ここまで没頭してしまうのなら自分の外見の変化に気づかないわけだ。金と黒が混ざり合ってプリンのようになっている新見の髪を見てそう思った。
……原稿に取り掛かれる気分じゃないしな。宿題でもやるか。
それから数十分後。
「くぅ~……面白かった!」
壁掛け時計の針は7時きっかりを指していて、新見が読み始めてから1時間きっかりが経過していた。
「あれっ、鹿野。今何時?」
「7時」
壁掛け時計を指さしてそう答える。
「えっ、時計ズレてね?」
「ズレてないし、ついでに言うならズレてるのはお前の感覚だ」
「うっそだー」
そう言いながらスマホを確認する新見。
「……マジじゃん」
「あぁ、マジだな」
「マジへこむ」
といいつつ、欠片もへこんでいない新見。
いつものバカっぽい笑顔を浮かべ、読み終わった俺妹4巻を手渡してきた。
「めっっっちゃ面白かった! 急展開過ぎて、ずっと心臓バクバクだった!」
「……ならよかった」
「特に中盤のさ――」
明るい声音で心底楽しそうに感想を話す新見。
正直文句の一つでも言いたかったが、こうも楽しそうだとそんな気も失せてしまう。ていうかちょっと嬉しい。
本は一人で読んでも楽しいが、それを共有できる相手がいるとさらに楽しくなる。と誰かが言っていた。骨の髄まで陰キャになってしまった俺は否定的だったが、なるほど確かに一理ある。
「ところで鹿野」
「なんだ?」
「お手洗い借りていい?」
「……ダメって言ったらどうするんだ?」
「うっさ。鹿野、マジサイテー」
「部屋出て右だからなー」
新見はいそいそと部屋から出ていき、5分程度で戻ってきた。
「鹿野、親ってもう帰ってきてんの?」
「いや、母さんは終電間際で帰ってくるから大丈夫だ」
「ならよかった」
一応、新見にも気遣いの心が存在したらしい。ちょっと感動だ―ー
「――っておい、なんで本棚に手を伸ばしてるんだ?」
「いや、続き読もうかなって」
「帰れ」
「……だめ?」
「とってつけたような上目遣いやめろやきしょい」
「ちょ、乙女に向ける言葉じゃないでしょそれ!」
両手をシェイクして抗議する新見。そのたびに胸も揺れるから目のやり場に困り、思わず目を逸らす。
「もしかして、親が返ってくるまで居座るつもりか?」
「そうだけど」
「ダメに決まってるだろ帰れ。別に家で読めばいいだろ」
「移動時間読めないのがつらいし!」
「甘えるな!」
「えー、鹿野は陰キャだからどうせ暇でしょ! 別によくね?」
こっちだって原稿をやらなくちゃいけないのだが、新見にそれを言うことはできない。
俺がラノベ作家だってバレたらどうなるかわからないからだ。もし誰かに知られるようなことがあったら、変に悪目立ちするに決まってるしな。
「ダメです! 帰るまでこれは没収ですからね!」
「おかんみたいな口調やめろし! 貸して貸して!」
「帰れ帰れ!」
もみ合い押し合い。新見に奪われまいと続巻を持ち上げる俺と、それを奪おうと跳ねたり飛びついたりする新見。新見は俺よりも身長が低いので、振るう手はすべてからぶっている。
このまま玄関まで誘導して……と考えた矢先、
「この……くらえっ」
「なぁっ!」
腹部にやわらかい感触。制服越しだが心地よい暖かさも感じる。
なんと新見は片腕で俺をホールドし、体を密着させてきたのだ。
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