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「そ、そんなことよりさ」
「ん?」
「例のブツは……」
「ただのラノベだからな? 怪しげな言い方するなって」
そう会話しながらも、新見は体をそわそわと動かしている。思い返してみれば、部屋に入った時から落ち着きがなかった。よっぽど続きが読みたいらしい。
本棚からSAO、俺妹を各三冊づつ、どちらも4巻から6巻までを取り出す。
「ほらよ」
「――っ、マジありがと!」
「うぉっ……」
ばしゅっ、と。目にもとまらぬ速さでラノベが抜き取られた。思わず後ずさってしまった。
ともあれ。俺の部屋も見せたし、ラノベも貸した。これで用件は完了したわけだ。もうお引き取り願おう。
「おい、新見。もう帰れるだろ」
「………」
「聞いてるのか?」
「……」
「もしもーし」
返事がない。どうやら、周りの声が聞こえなくなるほど没頭しているらしい。
いや、まさか。そんなことありえないだろ。
「演技ならよせって。こっちは用事があるから、早く帰ってくれないか」
「…………」
「もしもーし、新見。聞こえてるかー」
「…………」
どうやら、演技ではなく本当に声が聞こえていないらしい。
「嘘だろ……」
つまり、読み終わるまでこのままなのか?
冗談じゃない。こちらとしては早く原稿に取り掛からなくてはいけないのに。そもそも、密室で女子と二人きりとか、真の陰キャである俺にとっては罰ゲームでしかない。幸い、親が返ってくるのはまだまだ先だが……。
「勘弁してくれ……」
「……フヒッ。桐乃、可愛すぎワロタw」
「!!???!」
えっ、幻聴!? いや、まさか。確かに、スランプで精神面はあまりよろしくはないが、そこまで追い詰められてはいない。
じゃあ、今のキモ声は一体……まさか、新見の独り言? 待て待て。そんなこと、あるわけないだろ。
「おい……」
恐る恐る声をかける。いや、まさか――
「フヒッ。もしや、これが『萌え』って感情なん? 尊すぎワロタw……もはや神の領域でしょ」
「……」
尊すぎワロタじゃねぇよ。そもそもお前誰だよ。口調違うじゃねぇか。
確かに、俺もラノベ読むときには独り言ぐらいあるけど……思わずニヤついちゃうこともあるけどさ……これは次元が違うだろ。
「桐乃ちゃん……いや、もう桐乃神かな? どうか、転生してアタシの妹に――って、それは独りよがりすぎじゃね? 転生したとして、彼女はキャラクターとしての『桐乃』ではあるけど、それは彼女の存在を穢す行為に他ならないはず。なぜなら、京介や黒猫、他の友人と過ごすことこそが彼女にとっての幸せであり、それをアタシがそれを邪魔することは傲慢でしか――」
いけない、眩暈がしてきた。
普段の新見とあまりにもキャラが違い過ぎる。いや、キャラ云々の次元じゃないな。もはや別人格に則られたと言われた方が納得できるレベルだ。
もしかしたら、これは夢なのか? いや、きっとそうに違いない。だって、クラスメイトの美少女ギャルがラノベにハマって自宅訪問とかありえないもんな。そう考えれば腑に落ちる。よし、覚めろ、覚めろ俺の意識。この意味の分からない夢から俺を救い出してくれ――
――ピリリ
俺の祈りが届いたのかは知らないが、めったに鳴らない俺のスマホが震えた。誰かから電話が入ったみたいだ。




