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もしかしたら、失敗したかもしれない――自宅へ向かう電車の中、俺はそう考えていた。隣の座席に目をやる。金と黒が入り混じった髪、淵の厚い眼鏡に着崩した制服。ギャルと文学少女のキメラである新見に並ぶ、長髪眼鏡の冴えないオタクである俺。傍から見れば、いや、傍から見なくても異質な光景だ。周囲からの奇異の視線が痛い。
「なぁ、新見」
「ナニ?」
「外見、わざとなのか?」
「どゆこと?」
「……いや、なんでも」
(。´・ω・)? みたいな表情。どうやら、自分の外見がどうなっているのか気づいていないのか…?
面倒なので指摘しないが、目の前のこと――この場合はラノベ――に気を取られていると、身のまわりのことがおろそかになってしまうのだろう。結構ズボラなのな。まぁ、予想通りと言えば予想通りだけど。
「そんでさぁ――」
そう言って新見は打ち切っていた会話を続ける。俺は車窓から東京のビル群を眺めながら、彼女に対して適当に相槌を打つ。会話が続かなくて気まずい思いをするだろうと予想していたが、流石の新見。あまり返答に困らない当たり障りのない話題を振ってくれる。俺に気を使っているのかは知らないが、もしそうなら相当なコミュ力の持ち主だ。
そんなことを繰り返しているうちに、俺の住むマンションに到着した。
「おぉー、めっちゃ綺麗。新築?」
「……知らん。ほら、入るぞ」
「うーい」
鞄からカギを取り出し、鍵穴に差し込む。
が、いきなり不安になってきた。同級生、それも女子を家に招く。相手は超がつく美少女(認めたくないが)。勢いでOKしてしまったが、これって結構アレな状況なのでは?
「どしたん?」
「いや、なんでもない」
が、ここまできてしまった以上、もう引き返すことはできない。
と思っていたが。
よくよく考えてみれば、家に上げる必要はなくないか?
用件はラノベを貸すだけなのだから、別に玄関で待っていてもらえば済む話だ。
そうだ、何を勘違いしていたんだ俺は。というか、新見もそう考えているに決まってるだろう。危ない危ない。
「ラノベ持ってくるから、そこで待っていてくれ」
「え」
「ん?」
「家、上がっちゃダメなん?」
「……ダメ」
「えー……」
露骨に残念そうな表情を浮かべる新見。
「残念がるなよ。別に、俺の部屋とか興味ないだろ」
「え、あるし」
「なんで」
「ロッカーの中、めっちゃラノベあったから。自宅はもっと凄いんだろうなぁって」
「まぁ、確かにそうだが」
「どうしてもダメ?」
「……今回だけだぞ」
もしかして、俺って押しに弱いのか?
鞄からカギを開け、玄関に上がる。誰の靴もないことを確認してから、新見を招き入れる。
幸い――というか、知っていたのだが――母さんはまだ帰宅していないようだ。仕事が長引いているのだろう。仕事柄、突然帰ってくることもないだろうから安心だ。親に内緒でクラスメイト、それも女子を家に上げるのは心苦しいが、まぁ仕方ない。




