11
「えっ……それはつまり、ハープ先生は女子高生と仕事をしたがっているってことですか?」
「まぁ、そうね」
「やばい人じゃないですか。通報案件ですよ」
「そう言うと語弊があるんだけど……」
そういう由紀さんは、なにやら煮え切らない様子だ。
まるで、何かに板挟みになってしまい、うまく身動きがとれない。そんな悩み方に見える。
「語弊、というのは?」
「私からは詳しく言えないわ。コンプライアンスの都合でね」
「そこをなんとか」
「ダメよ。彼女の個人情報に関わるわ」
「彼女、と」
「あっ……」
なるほど。今の失言のおかげで、なんとなくだが事情が掴めてきた。
恐らく、ハープ先生は女性だ。そして彼女は俺の作品のファンで、作者が女性作家ということに親近感を覚えた。そして、イラストレーターを担当すべく立候補した……そんなところだろう。
いや、だとしたらおかしなところがある。
彼女は編集部と話をしたはずで、そのときに俺の素性も知らされているはずだ。
「あの、つかぬことをお聞きしますが」
「な、何かしら。改まって」
「もしかして俺のこと、女子高生って伝えました?」
「……」
「あの、なんとか言ってくれませんか」
「まぁ、直接伝えた訳じゃないわ。それっぽーく、濁しただけで……」
「詐欺じゃねぇか!」
ハープ氏はとんでもない大物だ。個人活動オンリーだった彼女がラノベを担当するとなれば、かなりの売り上げが見込める。編集部はそれを見越して、なんとしてでもハープ氏を確保したがってるわけだ。
そこで俺の誤情報が利用された、と。
「嘘ついてまで仕事なんてしたくないですよ、俺」
「でも、ハープ先生よ?」
「ぐ……」
あの超神絵師が、俺の作品を担当してくれる。
その事実は確かに魅力的で、俺の心は揺れていた。
ちょっとくらいなら、嘘ついてもいんじゃね……?
いやまて。
「そもそも。先に受賞作を完結させなくちゃ」
「それはわかってるわ。一応伝えておいたってだけよ」
俺はまだ受賞作を完結させていない。6月という当初の締め切りをオーバーしてしまっているのが現状だ。
「それに……」
由紀さんは表情を緩めると、
「あなたの作品は。あなたが思ってるほど悪いものじゃない。多くのファンが続巻を待っているし、ハープ先生だってその一人よ」
「……」
「そのことを、ゆめゆめ忘れないように。私からは以上よ」
由紀さんは俺が作品で悩んでいることを知っていて、モチベーションに繋がる話をしてくれたのだろう。
やっぱり、社会人ってすごいな。
どうにかして作品を完結させる。当面の目標はそれだ。
ハープ氏の件は、それが片付いてから考えよう。




