【第34話】異世界には体質がない!?
血が流れ出ていき、身体が冷たくなっていく。
温度が奪われる毎に視界が歪み、音が遠くなっていく。
誰かが俺を呼ぶ声だけが意識を繋ぎとめる最後の頼みの綱だったが、それすら聴こえなくなり、意識が徐々に溶けていく……
「がああああああああああああ!!」
不意に襲う激痛に、失いかけていた意識を取り戻す。
脇腹に手をかざす人影を捉え、反射的に手を掴む。
「ッ! ソ、ソウマ? 大丈夫?」
聞き覚えのある声に徐々に意識がハッキリとしていく。
声の主は金髪に口紅のオッサン。
「ハァ……ハァ…………エミリー……か?」
「そうだけど……やけに激しい寝起きね。傷は痛む?」
そう言われ、脇腹を見る。
痛みは無いどころか、傷跡すら残っていなかった。
「いや……今は大丈夫……」
「そう? でもあの様子は尋常じゃなかったけど……回復魔法かけた途端飛び起きるなんて……」
「まさか間違えて火魔法とか使ってないだろうな? 傷口に塩を塗り込むより悪質だぞ……」
「そんな軽口が叩けるようならもう大丈夫そうじゃの」
起き上がりつつ、声の聞こえた方を向く。
そこには腕組みをし、不機嫌そうな様子のヨートーがいた。
「ヨートーか……」
「あら〜? さっきまで泣きながらオロオロしてたのは誰かしら〜♪」
「なっ! 泣いてなどおらん!」
「心配かけて悪いな……ヨートーも怪我とかないか?」
「怪我などしてないし心配もしておらん!」
そう言うとプイっと向こうを向いてしまった。
その様子を見ていたエミリーは少し微笑み、俺の方に向き直る。
「ふう……何というかお疲れ様。訓練はこれで終わりよ」
「そうか……まさか本気で死にかけるとは思わなかったよ……」
脇腹をさすりながら、胸を落ち着かせる。
(回復魔法って凄いな……本当に刺されたか疑うぐらいだ)
「とりあえず帰りましょうか? 馬車もそこに停めてあるし」
エミリーが指差した方向に行きに乗った馬車と同じものがあった。
そして今気づいたが、もう日が落ちかけている。
「そうだな……帰るか……」
エミリーに肩を貸してもらい、馬車に乗り込む。
その後に続き、ヨートーも乗り込む。
本当に疲れた。
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「はぁ……ひどい目に遭った……」
帰りの馬車の車内で呟く。
「まあいい経験になったんじゃないかしら?」
馬を走らせながらエミリーが言う。
ちなみにヨートーは俺の横で眠っている。
……刀の姿だけど。
「でも回復魔法かけた途端に叫ぶなんて……ちょっとびっくりしたわよ?」
「いやいや、あれって本当に回復魔法か? めちゃくちゃ痛かったんだけど……」
今でも思い出すだけで脇腹が締め付けられるような感覚に陥る。
それほど激痛が記憶に刻み込まれているようだ。
「失礼ね……回復魔法は意外と得意なのよ? …………あ、ギルドが見えてきたわよ」
確かに、あの時のエミリーは本気で驚いていたように見えたし、本当に何故俺が痛がっていたのか分からない様子だった。
(……回復魔法アレルギーとかだったりしないよな?)
そんな体質があるのかと考えながらも馬車で揺られていく。
ギルドの灯りが少し懐かしげに目に映った。




