【第35話】異世界には料理がない!?
『皮肉なものね』
ここは……電車の中?
辺りを見渡すが、俺と彼女以外は誰もいない。
『私に刺された所と同じ箇所を負傷するなんてね』
『クソッ……また夢かよ……』
走る訳でも、乗客を待つわけでも無い電車にポツリと俺の声がにじみ、広がっていく。
『あら? そんな顔されても困るわ。私はあなたから出た紛い物なのだから』
『……違う』
否定の言葉は頼りなく車内に滲む。
『違わないわ。ここは正真正銘あなたが作った世界。そして私とあなたしかいない世界。あなたが私を欲してる証拠じゃない?』
『……違う』
静寂に再び声が落ちる。
『ふふっ……相変わらずね。私は変わってしまったけどあなたは変わらない。変われない。私がいる限り!』
『違う』
絡み合う声の波紋に彼女は更に追い討ちをかける。
『あなたは! 私が必要なのよ! 例え紛い物でも私を傍に置いておきたいのよ!』
『違う!』
反響。
『あははははは! 変わらないわね! まだ私のあなたのままで嬉しいわ!』
『違う違う違う違う違う違う違う!!』
飽和。
『そろそろ時間かしら? 最後にこれだけ言っておくわ』
『紛い物より本物の方が怖いのよ』
――――――――――――――――――――――
悪夢から解放され、ゆっくりと目を開ける。
訓練の際にかいた汗とは違う不快な汗が首筋を伝う。
(またか……最近夢見が悪いな……)
まだボンヤリとした頭を覚ましつつ、ベッドから起き上がる。
元の世界でもしばしば悪夢を見ることはあったが、最近になって頻度がかなり高くなった気がする。
しかも前までは彼女の最後を見るだけで終わっていたものの、この頃は夢の内容に幅が出てきている。
(ストレスでも溜まってるのか……? この調子じゃ寝ても疲れが溜まる一方だな……)
そんな事を考えつつ窓を開け、射し込む朝日に顔をしかめる。
浴場にでも行って気分を紛らわそうかと自室から出た所でふと気が付く。
(そういえば昨日の昼から何も食べて無いな……)
それまで特に気にならなかったが、一度自覚してしまうと余計に空腹感に襲われ、浴場どころではなくなってしまった。
――――――――――――――――――――――
「さて……参ったな……」
空腹を満たすために酒場に来たは良いが、肝心のエミリーがおらず、扉には"CLOSED"の文字。
「何とか自分で作ってみるか……? 異世界の食材ってちょっと不安だけど……」
そんな事を一人で呟き、裏の厨房に回る。
パッと目に付いた食材は卵、オルゾっぽい物、、ソースみたいな物。
ちなみにオルゾとは米型のパスタである。
どれもあくまでそれっぽい物で、味も元の世界と同じか怪しい。
しかし、そんな不安など取るに足らない程の空腹。
「よし、やるか」
寂かった一人暮らし時代をフル活用し、料理に関する記憶を掘り起こす。
卵を木製のボウルに割って入れ、かき混ぜる。
火魔法で調理用の魔道具に着火し、フライパンを温め、油を引き、ちょっとした薬草と原料不明の細かく切った肉を投入し、炒める。
そこに追い討ちをかける様にソース(?)を参戦させ、間髪入れずにオルゾを入れる。
オルゾ(?)とソース(?)が馴染んできたところで火を消し、皿に移す。
次に最初にかき混ぜた卵の方に向き直り、ささっと塩コショウに似た見た目の物を振りかけ、先程のフライパンに少しづつ垂らしていく。
小さく音がしているのを確認しつつ、一気に流し入れ、丸く成形していく……つもりだったが少し形が崩れる。
そんな事は意に介さず、完成した卵を先程のオルゾの上に慎重に乗せる。
「よしっ! 完成!」
皿に鎮座しているソレは限りなくオムライスに近い物だった。
「材料も工程も怪しいけど何とか形になったな……」
欲を言えばケチャップやお米が欲しかったが、ない袖は振れないのでとりあえず有る物で代用した。
早速無人の酒場のテーブルにオムライスモドキを置き、若干の不安を感じながら一口食べる。
「ん……? 味はオムライスにかすっても無いけどまあまあ旨いな」
卵以外はほとんど代用品だったため、オムライスと言えるか微妙だが、それなりに食べられる味になっている。
「ケチャップの代わりにソースもアリだな…………そもそもアレはソースだったんだろうか?」
「むむむ? 何か美味しそうなもの食べてますね〜!」
後ろから声を掛けられ、少しビクっとしてしまった。
「何だ、レナか……」
「な、なんだとはなんですか!」
レナは頬を膨らませ背中をつついて来る。
「で、何の用だ? またルナさんが椅子でも爆破したか?」
「ち、違いますよ……ちょっと朝ごはん食べに来たんですけどエミリーさんが居なくて……ちなみにソウマさんは何故酒場に?」
「ああ……俺も同じ様な感じだ。よかったら一口食べるか?」
そう言ってレナの顔の前にオムライスモドキの乗ったスプーンを差し出す。
それを見て一瞬躊躇いながらも空腹には勝てなかったのか、パクリ食べる。
「んんっ! 美味しいですね! これソウマさんが作ったんですか?」
「ああ、そうだけど……食材勝手に使ったことはエミリーには内緒にしておいてくれ」
今更ながらにエミリーの影に怯えつつ、再び食べ始める。
「あっ! うう……了解です……」
レナが俺の顔を見ながら顔を真っ赤に染める。
「ん? ああ、まだお腹空いてたらもう一回作るけど?」
「べ、別にお腹が空いてるわけじゃ……」
いつもと違う様子のレナを見て不思議に思いつつもオムライスモドキを食べる手は止まらない。
一口食べる毎にレナが恥ずかしそうにしていたのは結局謎だった。
今回料理描写がありますが作者は全く料理をしないので間違っていたり変な所があったら教えて下さい。




