【第33話】異世界には策がない!?
「はぁはぁ……」
ヘトヘトになりながら走る俺の後ろを無数のアンデッドナイトが追う。
「い、威勢のいい事を言った割には逃げるんじゃな!」
「うっせ……戦略的撤退だ……」
威勢良く敵に相対したはいいが、どう考えてもこの状況では勝てないと判断した為、現状を打破する策を考える時間を稼いでいる。
……決して逃げている訳ではない。
「くっ……! いくら何でも多すぎなのじゃ! このままだと奴らの仲間入りじゃぞ!」
(敵の数が三分の一……いや半分ならギリギリ何とかなりそうだが……)
後ろを見ると、相変わらずアンデッドナイトは追ってきており、疲れた様子などは全く無い。
「ヨートー! 1つだけいい方法を思いついたんだが……後で文句とか言わないか!?」
「言わん言わん! 早くアイツらを何とかし…………て?」
ヨートーが言い終わらぬうちにアンデッドナイトの一団に向けて手に持っていた物を投げつける。
"ソレ"は放物線を描きながら敵の間を抜け、後方に飛んでいく。
「ぎゃああああああ!?」
そう、俺がぶん投げた物とは、ヨートーさんである。
地面に激突する少し前に緑色の煙を上げ、ヨートーが人化する。
「こ、殺す気かぁ!? 一体これのどこが作戦じゃ!」
大声で俺に文句を言うヨートー。
声に反応し、より手近な獲物に狙いを定めるアンデッドナイト達。
悲鳴を上げながら逃げるヨートーを追うアンデッドナイト。
(計画通りっ!)
爽快なまでのゲス顔を浮かべながらしばらく走り、右手に魔力を集中させる。
周囲に無数の光球が出現し、人の形を形成していき…………
「ひぃ……ひぃ……ってあれ?」
つい先程まで無我夢中に走っていたであろうヨートーが現れた。
「よう、お疲れ」
「ソ、ソウマアアアアア!? お主よくもあんな仕打ちをおおおお!!」
「わ、悪かったよ……あれしか思いつかなくて……」
怒り狂うヨートーをなだめつつ、周囲を見渡す。
どうやらアンデッドナイトは全部撒けたみたいだ。
「ぐぬぬ……確かに機転が効いている作戦だとは思うが……やる前に一言言ってほしかったのう……」
「いや、やる前に内容話したら絶対断るだろ」
「む……確かに……」
ヨートーを納得させた所で、これからの事に考えを巡らせる。
(これからどうするか、訓練だし迎えが来るとは思うけど……本当に死にかけるまで来ない可能性が……)
「ソ、ソウマ……」
「何だ? 腹減ったとかか?」
「むう……確かに腹は減ったが……って違う! アレじゃ! ほら!」
ヨートーが指で示した方向を見ると、何かがこっちに向かって来ているのが見えた。
「アンデッドナイトか? 1体なら何とかなりそうだな」
「いや……どうやら少し違うようじゃ……」
目を凝らし、よく見るとアンデッドナイトより更に堅固な鎧に身を包み、胴体程ある盾を持っていた。
「親玉か? 一筋縄じゃいかなさそうだな」
ヨートーに刀化するように言い、戦闘態勢に入る。
敵はその間にも着々と距離を縮めており、1歩近づく毎に空気が張り詰めていく感覚に襲われる。
――次の瞬間、すぐ目の前に敵が現れていた。
「ッ! 速いし……重い……!」
初撃を受け止め、即座に反撃に転ずる。
鎧と兜の隙間を狙い、突きを繰り出すも盾に阻まれる。
(盾……流石に破壊は難しいな。作った奴はかなりの腕前の鍛冶屋に違いな…………)
そんな事を考えていると、剣撃が首のすぐ横をかすめる。
『いい? 戦闘中は目の前の敵を倒す事だけを考えなさい』
脳裏に蘇るエミリーの一言。
余計な事を考えれば痛い目に遭うのは体験済みだった。
思考を戦闘の事だけに集中させる。
盾の破壊は困難、体術で優位に立つのも恐らく難しい…………なら魔法か?
大きな賭けになるが試してみる価値はある。
剣撃を刀身で受け止め、そのまま地面に向かって払う。
――一瞬、ほんの少しだけバランスを崩した所を狙い、ヨートーを振るう。
剣で受け止めるのが間に合わないと判断したのか、思惑通り盾で防御する。
"左手"で軽く放った剣撃はあっけなく防がれる。
「喰らえぇ!」
左手の剣撃に意識を集め、意識外にあった右手で盾に触れる。
――瞬間、盾は真っ二つになる。
それに少なからず動揺したのか、一瞬動きが固まった所に再度突きを繰り出し、仕留める。
「くっ……危なかった……」
右手を見つめながら呟く。
お世辞にも戦闘向きとは言えない"加工魔法"がこんなところで役に立つとは思わなかった。
「ソ、ソウマ!」
いつの間にか人化していたヨートーが涙目で俺を見ながら言う。
「どうし…………ッ!」
正確にはヨートーが見ていたのは俺の脇腹の辺りだった。
そこには徐々に赤黒く染まる俺の服が見えた。
どうやら盾を真っ二つにする事に意識を集中させていた俺は脇腹に刃を受けた事に気が付かなかったらしい。
つくづく間抜けな話だ。




