【第29話】異世界には許可がない!?
「朝か……」
結局、あの後は図書館で数冊本を借りて、ハルさんと談笑しながら帰路についた。
あまり眠くは無かったはずなのだが、ベッドで読書をしていたらいつの間にか寝ていたようだ。
散らかった本を片付け、自室から出る。
(ケガは一応治ったけど……今日は武器屋は休みにするか……)
そんな事を考えながら酒場に足を運ぶ。
酒場に入ると、まだ朝にも関わらず酒を飲んでいる客が数人いた。
その中にヨートーを見つけたので、軽い食べ物を注文した後に、向かいの席に腰掛ける。
「む? ソウマか、体はもう大丈夫なのか?」
1人で朝食を摂っているようだが……着物姿だからか、他の客からチラチラと見られている。
「うーん……ケガは治ったけど、まだ全快とはいかないな」
「そうか、まあかなり手痛くやられたからのう。まさかあそこまでやるとは思わんかったぞ……」
ヨートーがブルりと身を震わせる。
俺がボコボコにされるのを間近で見ていたのだから無理もない。
「だよな……エミリーが鬼神って呼ばれる理由がよく分かるよ……」
「うむ、まさに鬼じゃったのう……というか普段のエミリーがアレだから余計に恐ろしいのじゃ……」
「普段は気持ち悪いオッサンだけど鬼神仕様だとただのオッサンだからな……」
そんな事を喋っていると、俺の目の前に先程注文した料理が置かれた。
「あ、どうも」
礼を言いつつ、運んできた人の方に振り返る。
「いえ、礼なんて言わなくていいんですよぉ……"気持ち悪いオッサン"なんかに……」
――そこにいたのは……まさに鬼神。
憤怒のオーラを身にまとい、冷徹な目で俺を見下していた……
救いを求めてヨートーの方に向き直るが、完全に固まっていた。
「ち、違うんだエミリー……」
「あらあらぁ……今日の訓練は普通にやろうと思ったけど……もう一回ボコボコにされたいみたいねぇ?」
エミリーがニヤリと笑い、隣の席に腰掛ける。
「さあ! それ食べたら今日も訓練よ〜♪ もちろんヨートーちゃんも来てもらうから」
「「は、はい! 喜んで!」」
――――――――――――――――――――――
朝食を食べ終わった俺達は、前に俺がボコボコにされた空き地に来ていた。
俺は動きやすい服装に着替え、エミリーは鬼神仕様になっていた。
「のう……今回は一体何をするのじゃ?」
隣にいたヨートーがこっそり耳打ちしてくる。
エミリーは先程から1人でなにやらブツブツと呟いており、なかなか訓練が始まらない。
「分からん……でもボコボコにされるのは嫌だな……」
「ワシもイヤじゃ……あれは見ているだけでもキツかったぞ……」
「さてと、じゃあ今日も始めるわよ」
後ろから声をかけられビクリとする。
ヨートーとコソコソ喋っていた為、背後からエミリーが近づいてきた事に気づかなかったようだ。
「ち、ちなみに今日は何を……」
俺は勇気を振り絞って質問した。
朝の事のせいでエミリーの機嫌を損ねてしまったため、前回のようにボコボコにされるかと思っていたが、返ってきた答えは……
「そうねぇ……とりあえず脱いでもらおうかしら」
「は?」
意味が分からん。
――――――――――――――――――――――
「な、なんでこんなことに……」
幸い、脱ぐのは上だけで許してもらえたが、先程からエミリーに舐めまわすように見られている。
一方ヨートーは、岩陰からチラチラ見ているが……あれでバレてないつもりなのだろうか?
「へえ……意外と筋肉はついてるわね。鍛えたのかしら?」
「うーん……まあ毎日鍛冶やってたからか? ハンマーとか意外と重いし……」
「なるほどね。これなら筋トレは必要なさそうねぇ……」
そう言って俺の体をまじまじと見つめる。
(……これ本当に訓練の一環か? 私情入ってない?)
「でも体の使い方がダメだったわ。前にボコ……戦った時に気づいたのだけど」
「使い方?」
「ええ、武器……もといヨートーちゃんを腕の筋肉だけで振ってる感じ? もっと下半身を使っていかないとダメなのよ」
下半身?
上半身ならまだ分かるが、剣を使うのに下半身とは?
「とりあえずこの木刀で素振りしてみなさい」
「お、おう」
エミリーから木刀を受け取り、何度か振ってみる。
「違う! もっとここを……こう!」
「ひっ……」
エミリーが俺の腰に手を当て、数回動かす。
……指導の為だよな? セクハラとかじゃないよな?
「うーん……これは重症だわ……間に合うかしら?」
「のう……ちょっといいか?」
先程まで岩陰にいたヨートーがエミリーに声をかける。
「前にソウマがボコボコにされた時、ワシがソウマの体に巻きついたじゃろ? あの時と同じ事をすれば手っ取り早く体運びを習得できるんじゃないかの?」
「それよ! ヨートーちゃんもたまには役に立つじゃない!」
「おお! ヨートーにしては珍しく冴えてるな!」
確かにあの時、多少動きにくかったが、いつもより少ない力で動けていた気がする。
「むう……なんか馬鹿にされてる気が……まあよいか」
そう言ってヨートーが緑色の煙に包まれ、刀の姿になる。
俺はヨートーを手に取り、前と同じように柄の紐が伸び、体に巻きついてくる。
全身に巻きついたのを確認し、エミリーの方に向き直る。
「よし! じゃあ始め」
「なんか亀甲縛りみたいね」
俺が言い終わらぬうちに、エミリーが言った。
「亀甲? なんじゃそれは?」
静まり返った俺とエミリーとは裏腹に、ヨートーはよく分かっていない様子だった。
「亀甲っていうのはねぇ、よくプレ」
「訓練! さ、さっさとやるぞ!」
エミリーが変なことを口走りそうになったのでとっさに遮った。
「むう……? 気になるぞ……」
――――――――――――――――――――――
「お、終わった……」
今日は特にボコボコにされたりはせず、無事に訓練は終わった。
前と違ったのはエミリーのボディタッチが多かったことと、ヨートーがことある事に亀甲について聞いてきたくらいだった。
そして俺は今、近くの大衆浴場に来ていた。
ここは日本でいう銭湯みたいなもので、オッサン達の憩いの場になっている。
料金である300ゴールドを払い、脱衣場で服を脱ぎ、浴場に入る。
体の汚れを一通り落とし、いよいよ湯に浸かる。
「「ふぃ〜」」
「「ん?」」
隣を見ると俺と同じタイミングで湯に入ったオッサンがいた。
湯気で顔がよく見えず、おとなしく湯に癒されていようと思ったが、何故かオッサンが近づいくる。
「おっ! 兄ちゃん久々だな! 覚えてるか?」
――頑張れよスラッグの1番弟子
「ああ! あの時のおじさん!?」
「ははっ! 覚えててくれたか! どうだ? 儲かってるか?」
「まあボチボチ……っと。その前に1つ聞いていいですか?」
「ん? どうした?」
「おじさんって新聞の記者ですよね?」
先程まで笑っていたおじさんがギクリとする。
やっぱり図星か。
「バレたか……でもまあこのおかげでまあまあ儲かったんじゃないか?」
「うっ……まあそうなんですけどね……」
「じゃあそれでおあいこだな!」
事実、新聞効果で一時お客さんの数は大変なことになった。
ゴールドが手に入らなかったと言えば嘘になる。
「うーん……まあ次からもし記事を書く時は一言言ってくれると助かります……名前もお客さんに知られてたし……」
俺がそういうとおじさんは不思議そうな顔をした。
「名前? おかしいな……名前は記事に書かなかったはずだが……?」
「え? そうでしたっけ?」
「許可なく名前を新聞で出すと法に騎士団に捕まるからな……あ、ちなみにスラッグは契約を結んでるから大丈夫だ。名前を新聞で使う度に使用料を払う事になってるんだ」
スラッグさん……地味に稼いでるんですね……
「そ、そうなんですか……」
「なんなら兄ちゃんも契約しちゃうか?」
「いや、大丈夫です。もう新聞に載るような事はないと思うので……」
新聞に取り上げられたのは、俺の腕前が良かったから等ではなく、スラッグさんが弟子をとったから取り上げられただけだ。
「なるほどな。でも新聞って意外と簡単に載れるぞ? デカイ犯罪やるとか……」
「やりませんからね?」
――――――――――――――――――――――
「あっ〜! ソーマさんお帰りなさい〜!」
結局、俺はのぼせる寸前までおじさんと談笑した後にギルドに戻ってきた。
外は既に日が落ちており、ギルドの営業時間も過ぎていた。
ギルドに入ると真っ先にレナが出迎えてくれたが……その手にはジョッキが握られており、ほろ酔い気分といった感じだった。
酒場を覗くと、メル、ヨートー、エミリーが談笑しているのが見えたが、ルナさんの姿は見当たらなかった。
「ただいま……てかお前らまた飲んでるのか?」
「女子会ですよ〜♪ ソーマさんもどうですか〜?」
「いや、遠慮しとく。というか前みたいに酔いつぶれるなよ? もう後片付けしないからな?」
「へへへ〜♪ すいませ〜ん♪」
レナの態度を受け、俺はまたアイアンクローをお見舞いしてやろうかと思ったが、風呂上りで暴れて汗をかくのもイヤだったのでさっさと自室で寝ることにした。
(最近ルナさんが夜いない事が多いな……)
そんな事を思いながら自室のベッドに身を投げる。
……明日自分が女子会の片付けをやる事になるとは知らずに。




