【第28話】異世界には図書館がない!?
「暇だな……」
酒場で食事を摂った後、俺は自室に戻り、ベッドに潜った。
しかし、丸2日も寝ていたため、寝れる訳がなく、仕方なく作業場で時間をつぶしていた。
(もしかしたら……寝るのが怖いのかもしれないな……)
少し前に見た夢を思い出す。
元の世界で散々俺を苦しめた"彼女"。
今回の夢で、ギルドの皆が出てきたのは俺がまだ過去に縛られているせいなのだろう。
「いい加減忘れなきゃな……」
「あら? 何の話かしら?」
俺が1人でつぶやくと、いつの間にか作業場の中にいたルナさんが聞いてくる。
「ル、ルナさん……カギをかけといたはずなんですが……」
「細かい事を気にする男はモテないわよ♪ で? 何の話?」
別に話してもいいのだが……他の世界から来たことは一応隠しているし、記憶が混濁している設定だからな……
「いや……最近ちょっと悪夢をよく見るので……」
「ふぅん……悪夢ねぇ……確か悪夢を見せる魔法とか魔物がいるって聞いたことあるけど……心当たりは?」
「いや……特に無いですね」
「そう……もし辛いようだったら王立図書館に行ってみたら? 悪夢関連の本……というかありとあらゆる本が置いてあるから」
図書館か……悪夢が解消されるなら願ったり叶ったりだが、それよりも、こっちの世界の情報を集める上ではかなり役に立ちそうだ。
「図書館ですか。まあ明日とか暇だったら行ってみますね」
「あら? あそこはこの時間でもやってるし今から行けば? どうせ寝ようにも寝れなくて暇なんでしょ?」
「うっ……お見通しって感じですね……」
ルナさんがニヤリと笑う。
俺をイジルときの表情だ。
「まあ暇ならエミリーの部屋に夜這いでも」
「図書館行ってきます!」
ルナさんが言い終わらぬうちに作業場から飛び出す。
少し脳内で想像してしまった……
本当にルナさんのイジリはタチが悪い。
「悪夢ねぇ……」
――――――――――――――――――――――
「ど、どうしよう……」
勢いよく作業場から飛び出し、夜の街に繰り出したは良いが、ルナさんに図書館までの道を聞くのを忘れていた。
道を聞こうにも、通りには自分以外歩いていない。
「むむむ……仕方ない……ルナさんに絶対からかわれるけど戻るか……」
「あの……もしかして道に迷ってます?」
後ろから急に声をかけられてビクンとした。
振り返ると、そこにはハルノさんがいた。
「あっ……ハルノさん。お久しぶりです」
「むう……前にハルでいいって言いませんでしたっけ?」
ハルノさん改めハルさんが不機嫌そうな顔をする。
「ああ、すいません……それで? ハルさんは何でここに?」
「私はちょっと図書館に用事があって……」
「え? 奇遇ですね。俺も今から図書館に行こうと思ってたんですよ」
何だかハルさんとは色々通じあってる気がする。
そういえば、前偶然会ったのもこんな感じの深夜だったな……
「あれ? そうだったんですか。じゃあ一緒に行きましょうか」
――――――――――――――――――――――
ハルさんに案内され、中央区の図書館の前まで来た。
「デカイな……」
「ええ、昔は東区にも図書館があったのですが……今はここだけらしいですよ」
ハルさんが図書館のドアに手をかけながら言う。
確かに東区に図書館があってもあまり人が集まらないだろう。
中に入ると、落ち着いた雰囲気のカウンター、ズラリと並んだ本棚、優しく館内を照らす照明の光に出迎えられた。
「では、私はちょっと本を探してきますね」
そう言ってハルさんは本棚の間に消えていった。
「さて……俺も探すか……」
そう1人でつぶやき、目的の本を探し始めた。
――――――――――――――――――――――
「うーん……何か違うな……」
館内の広さの割に、探していた本はすぐに見つかった。
悪夢に関する本と、この世界の辞書のような物を数冊持ってきて、館内の1角に設けられた読書スペースの椅子に腰掛けて読んでいるのだが、どの本にも有力な情報は書いておらず、すぐに本棚に戻した。
「さてと、次は……」
悪夢の事は諦め、他の本を探そうと本棚に目をやると、気になる本を見つけた。
―― "異世界からの転生者についての研究、調査、及びその事象がもたらすこの世界への影響の考察"
……なげぇよ!
スラッグさんの店に続き、この世界では長い題名などが流行っているのかと疑いたくなる。
しかし、こういう本があるという事は割と異世界からの転生者は沢山いるのかも知れない。
早速、本を手に取り読んでみる。
最初の前書きや、専門用語だらけのページを読み飛ばし、目的のページにたどり着く。
『――我々調査チームは、異世界から転生したという複数の人にインタビューを行なった。
その結果、我々が生きる世界との相違点が幾つか判明した。
あちらの世界には魔法が存在せず、魔物、"魔人"もいないと言う。
しかし、魔法が無いのを補うためか、あちらの世界には奇妙な技術が普及している。
鉄の馬車、炎を噴出しながら飛ぶ鉄の鳥、動き出す絵画など様々だ』
この文章を読んだ俺は、妙に懐かしく思った。
鉄の馬車はおそらく自動車、鉄の鳥は飛行機、動き出す絵画は……アニメか?
そして、さらに読み進めていくと、研究者の考えが載っていた。
『私は、この数年の調査から、ある一つの仮説を立てた。
それは、こちらの世界とあちらの世界では、時間の流れる速度が違うというものだ。
例えば、あちらの世界で1日経過する間、こちらの世界では、10日が経過するという仮説だ。
この仮説に沿って考えると、あちらの世界は、まだ魔法を発見していない点から、こちらの世界の過去と似たような状態だと思――』
思わず読んでいる途中に本を閉じてしまった。
難しい内容になってくると、頭が痛くなってくる。
そこで、ふと先程の本に書いてあった"魔人"という単語を思い出す。
魔法や魔物の事は聞いたことがあるが、"魔人"は聞いたことがなく、早速辞書で調べる。
【魔人】
『魔人とは、生まれつき普通の人間よりも高い能力を持つ、人間と魔物の混血、または人型の魔物である。
魔人は、魔物を従属にする力を持っており、大抵その力を用いて、人間を攻撃する。
また、魔人や魔物には回復魔法が効かず、逆にダメージを与える事になる。
また、元々人間だった者が魔人になるケースが確認されており、これを"魔人落ち"と呼ぶ。
魔人落ちの要因として、精神的に不安定、あるいは異常な傾倒を――』
また途中で本を閉じてしまった。
しかし、これは意外と有益な情報だったかもしれない。
回復魔法はまだあまり使えないが、対魔物戦では、切り札になるかも知れない。
本を両手に持ち、椅子から立ち上がる。
(結構時間つぶせたな……そろそろ帰るか)
そんな事を思いながら、本棚に向かうため振り返る。
「ひゃっ……何だハルさんか……」
振り向くと後ろにハルさんが立っていた。
「ご、ごめんなさい……驚かせちゃって……」
ハルさんが申し訳なさそうな顔をする。
「でも"ひゃっ"って……か、可愛いですね……」
先程の申し訳なさそうな態度が一変し、ハルさんが必死に笑いをこらえていた。
「うっ……忘れて下さい……」
恥ずかしさか、ハルさんから逃げるように本棚に本を戻しに行く。
「ふふ……やっぱり可愛い」




