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『ネオ・ストレフォ24』セカンドライフ  作者: Hulanes
第一章:やり直しの春
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第9話:隣の席の争奪戦

 入学して二週間が経った。

各部活の仮入部期間が始まり、僕はテニス部の体験に顔を出していた。ラケットを握るのは、正直そこまで得意ではない。


「一年、そこ打ち返してみろ」

先輩が放ったボールは、思っていたよりずっと速かった。ラケットに当てるだけで精一杯で、返球は明後日の方向に飛んでいく。


「もう一本」

次のボールも、その次も、まともに返せなかった。


「本当にやる気あるのか、それ」

周りで見ていた同期の視線が、じわじわと痛くなってきた。額から汗が伝い、コートの白線がやけに眩しく見える。


『代われ』


頭の中で声がした。


「……いや、いい」


『いいから代われ。見てられない』

言い合っている間にも、次のボールが飛んでくる。僕は目を閉じた。次に開けたとき、視界の質感が、ほんの少しだけ変わっていた。


ラケットを持つ手の力の入れ方が、さっきまでと違う。


「お、おい、さっきと動き違わないか?」


先輩の声が、微かに動揺していた。ネオは何も答えず、次のボールを鋭く打ち返した。ボールはコートの端すれすれを抜けていく。


「……っ、まぐれだろ」

次のボール。今度はさらに強く打ち込まれた。ネオはそれを、まるで待っていたかのような角度で叩き返す。ラケットとボールが当たる、乾いた高い音がコートに響いた。


「うそ、だろ」

先輩の顔から、余裕が消えていた。


「一年、お前、経験者か」

「『いい、初めてです』」


周囲がざわついた。

「え、うそ」

「今の見た? すごくない?」


隣のコートで練習していた女子たちが、こちらを指さしているのが見えた。何人かが小声で話しながら、ちらちらとこちらを窺っている。


『いい気分だ』

「……調子に乗るなよ」


ネオはやっぱりすごいやつだ。



 ***



 その日を境に、クラスでの俺の扱いが、少しだけ変わった。


「瀬宮くんって、クールだけど時々変な冗談言うよね」

「テニス部でめちゃくちゃ強いって聞いたけど」

「なんかそつなくこなしそうな感じ」


そんな評判が、廊下ですれ違う誰かの会話から漏れ聞こえてくる。だが、それは表向きの評価に過ぎなかった。


「なあ瀬宮ってさ、柊さんと仲良すぎじゃね」

昼休み、廊下の角から聞こえた声に、足が止まった。


「話しかけてるとこ、よく見るよな」

「調子乗ってんじゃねえの、あいつ」

声の主たちは、俺に気づいていないのか、あるいは気づいていて言っているのか、判断がつかなかった。


『あんなやつら、気にすんな』

「別に気にしてない」

嘘だった。体が異常に重く感じられた。



 ***



 「来月、グリーンスクールがあります」

佐々木先生が、ホームルームの黒板に「バス席順」と書きながら言った。


「県外に行きます。長野の高原です。バスで五時間くらいかかりますが」

教室のあちこちから、小さなどよめきが起きた。


「バスの席順、決めます。基本は自由席。ただし、お互いの合意がないまま隣に座るのはなしです」

その言葉を合図に、教室の空気がざわつき始める。男子がそれとなく美桜の方を見ていた。堂々と見る者、視線をすぐに逸らす者、様々だった。


文矢は、その光景を横目に小さく肩をすくめていた。だが彼の視線は、美桜には向いていなかった。教室の斜め前、石川寧々の席の方を窺っている。


『あいつ、石川好きだろ』

「……そうみたいだな」


そして飯野のどかというと、男子の視線が柊に集中していて眉根を寄せていた。何かを企むような目つきで、頬杖をついている。


『なんか企んでるな、あの顔は』

「嫌な予感しかしない」


女子のグループの一人が、無邪気に聞いた。

「ねえ柊さん、誰と座りたい?」

美桜は少し考えるそぶりを見せてから、口を開いた。


「せ……」


その一文字目が、教室の喧騒の中に落ちた瞬間だった。


「私、瀬宮くんと隣がいい!」


柊の声を遮るように、のどかの声が教室に響いた。周りの視線が、一斉にこちらへ集まる。


「え」

「いいよね? 瀬宮くん」

のどかは、返事を待つ様子もなく、俺の机の前まで来て両手を合わせて詰め寄ってきた。距離が近い。逃げ場がない。


「え、あ……」

『どうすんだよ』

「知らない、お前が決めろよ」

『無理言うな』


周りの視線が、痛いほどこちらに集まっていた。断る言葉を探している間に、のどかの勢いに押し切られる形で、口が勝手に動いた。


「う、うん」

「やった! 決まりね!」

のどかは満面の笑みで自分の席に戻っていった。


俺は、ゆっくりと美桜の方に目をやった。美桜は、何も言わなかった。ただ、さっきまで浮かんでいた小さな笑みが、少しずつ消えていくが見えた。


『あの展開の「せ」は……』

「ああ、そうだな。悪いことしたよ」


窓の外で雲が一つ、ゆっくりと形を変えながら流れていった。

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