原宿のマンション、昭和な置き手紙
その夜、アキラは原宿にいた。
元宮のママさんから合鍵を借りて、彼のマンションを住所が書かれたメモを見ながら探していた。原宿のような活気ある街には縁がないアキラだったが、久しぶりに来てみると、ネオンが瞬いていて、どことなく寂れていて、哀愁を感じさせる街に変貌を遂げていた。その理由は解らない。通りゆく人々のファッションを目で追いかけると、マッシュやセンターパートの男子と清楚系の女子たちしかいない。韓国ブームの影響を強く感じられた。
アキラは原宿から表参道方面へと歩いていく。お洒落なオープンテラスのカフェや高級なアパレルブランドの服がショウウインドウ越しに視界に入ってくる。街並みが奇麗すぎて落ち着かない。けど、この街に住んでみたいと憧れる若者は多いことだろう。
どこからどこまでが繁華街なのか解らないほど店舗が密集している。しかし、住所が書かれたメモを見ると、この辺りで間違いない。竹下通りを抜けて神宮前まで来ると、高級マンションがちらほら見えて、アキラは裏路地へと入っていく。
5階建てでオレンジの外装のマンション。ガラス面は扇状になっている。マンションの入り口には樹木が植えられている。間接照明でライトアップされていて幻想的だった。アキラはメモを見た。間違いない、この4階が元宮が借りている部屋だ。
マンションのエントランスにあるオートロック式のドアの前で合鍵を回す。中へ入るとラグジュアリーホテルのように装飾品が飾られていて、エキゾチックな夜を演出していた。
エレベーターで4階まで登る。奇しくも元宮勇気のマジカルナンバー4と同じ数字だった。元宮の部屋の前まで辿りつくと、じわり額から汗が流れた。申し訳ないと思いながら合鍵でロックを解除し、ドアを開けた。
玄関にはエアジョーダンなどのバッシュが何足かころがっていて、誰か部屋にいるのではないかと疑いたくなるくらいだった。
部屋に入ってみるとすぐに10畳ほどの広いリビングルームだった。元宮が自分でデザインしたブランドのラグの上にソファーやダイニングテーブルが置かれている。テーブルの上には、元宮のママさんが言った通り、探さないで下さい、という手紙が置かれていた。それを見て、アキラはぷっと笑いがこみあげてきた。なんて昭和な奴なんだと思い、自分と元宮の誕生日が一日違いであることを再認識した。元宮の気持ちが手にとるように解る気がしたからだ。
ソファーの横には、音楽家らしくアコースティックギターが置かれていて、一人暮らしでも部屋を小奇麗に使っているのは、彼が乙女座生まれだからだろう。同じ乙女座まれでも、自分の部屋と元宮の部屋の違いに、経済的格差を感じる。
オープンキッチンにはウイスキーのボトルとタバコが置かれている。なんてことはない。元宮は音楽家だが、ハスキーボイスがウリなのだから、酒とタバコで喉を潰すことも仕事の内だろう。しかし、料理などをしている形跡もなく頻繁に外食やウーバーイーツなどを利用していることが解る。
アキラは元宮のプライベートルームへと足を運ぶ。寝室を兼ねているこの部屋には、本棚の上に写真が飾られていて、アキラは見覚えのある顔を目にした。詩音の大学の先輩でジャズピアニストの藤原涼子だ。元宮と藤原涼子の間には、知らない女が映っていた。元宮との距離感からして、彼女といった間柄ではないだろかと推測をする。
元宮の部屋は無駄な物がなく、いくら部屋を探しても、元宮と見知らぬ女との関係性を示すものは何も出てこなかった。こうなったら、藤原涼子に会いにいくしかない。
幸いなことに彼女は、ジャズの世界では有名人だ。インターネットで調べれば、いつどこでライブをしているかが解るだろう。アキラはスマホで藤原涼子のプロフィールを探した。どうやら、今日はお茶の水でライブがあるらしい。ジャズのライブと言えば、終電がなくなる時間までお客さんは帰らない。今日はホテルにでも泊まるしかないと、アキラはそう覚悟を決めて元宮のマンションを後にした。




