羽田から沖縄へ、浪漫飛行と失踪の影
お盆休み最終日、アキラは羽田空港にいた。この日が終われば仕事が始まる予定だったのだが、涼子と共に沖縄へと旅立つため、悪友の竹田の現場仕事を急遽キャンセルしていた。
涼子とは羽田空港第1ターミナルの出発ロビーで待ち合わせだった。アキラは亡き兄貴が使用していた、サムソナイトのスーツケースを持ち、マジカルカラーの緑色の肩掛けカバンを持っていた。ユニクロで買った白いハーフパンツに夏らしい紺色のデッキシューズを履き、詩音のマジカルカラーの紺色の半袖シャツで合わせた。胸元には、詩音との沖縄旅行で買って貰った、レイバンのサングラスをぶら下げている。
一目見ただけでも、南国へ旅立つことが解るような、ラフな服装で涼子を待っていた。
アキラは時計の針を見る。そろそろ15時半になろうとしている。JAL921出発は15時55分。フライト時刻30分前だというのに、涼子の姿はなかった。
アキラが諦めて、アイスコーヒーを飲みに行こうとした矢先、ロビーの入り口近くにひと際目立つ女性の姿があった。サングラスをかけていて、真っ赤なドレスを見に纏っている。ワンポイントにハイビスカスの華が飾られた麦藁の帽子をかぶっていて、ジェラルミンのミニスーツケースを引きながらこちらへと歩いてくる。アキラは、(まさか)と思ったが、あの胸の膨らみは間違いない、藤原涼子だ。
涼子はムーディーなまでに露出を多くして、ロビーを行きかう男性の視線を一身に集めていた。さすがはインスタのフォロワー7万人以上を集める超人気ジャズピアニストだ。まだまだ気候は夏真っ盛りだと言うのに、暦の上ではもう立秋を過ぎていて、キャノンボール・アダレイの枯葉の名演が聞こえてきそうだった。
「アキラ君お待たせ」
額に少し汗を滲ませて涼子が言う。夜の顔と打って変わって昼の顔は意外と爽やかだ。
「おはようございます。今日は一段と華やかですね」
「そうかな?」
「まぁ、音楽家全般に言えることだけど、観られて奇麗になるのはあると思いますよ」
アキラはお世辞ではなく事実を述べた。そのことが嬉しかったのか、涼子は心なしか少し頬を紅潮させている。汗の匂いを防ぐためにつけているであろう香水の薫りがほんのり漂っていた。
「さぁ、行きましょ」
涼子がそう言うと、スーツケースを預けて、搭乗窓口からカードでチェックインした。
アキラたちを乗せたJAL921は予定の時刻から少し遅れて離陸を開始した。ファーストクラスのキャビンアテンダントがアナウンスを流すと、飛行機は雲の上を突きぬけて安定飛行に入った。
涼子はアイスコーヒーを飲み、アキラは紅茶を飲みながら羽田空港で買ったクッキーをつまむ。詩音を残したまま涼子と二人きりの浪漫飛行は、いったいどんな結末をむかえるだろうか。元宮と恭子さんは無事に生きているのだろうか。さきほどから涼子は、空想に耽っていて、なかなか話し辛い雰囲気だったのだが、一番社交的でお喋りなパーソナルの公を持つアキラは、沈黙に耐えかねて、涼子に話しかける。
「涼子さんは好きなジャズピアニストとかいますか?」
アキラの質問に、涼子は待ってましたと言わんばかりに碧い瞳を輝かせた。
「うーん。いっぱいいすぎて絞れないな」
「例えば、子供の頃にピアノはじめたそうですが、影響を受けたピアニストとかはいますか?」
「あ~。だったらいるよ。親がジャズ好きで、家にはよくビルエバンスとかキースジャレットがかかってたから、奇麗な旋律のピアニストには影響を受けているかもしれない。後は、アキラ君は知らないかもしれないけど、ジェラルド・クレイトンとかジョーイ・カルデラッツオなんかは参考にしているよ」
涼子はさすがプロのジャズミュージシャンだけあって、ジャズ好きを自称するアキラが知らないピアニストの名前をあげた。
「へぇ~そうなんですね。知ってるのはビルエバンスくらいかもしれません。詩音の影響でジャズを聴いてるつもりになってましたけど、やっぱりプロのセレクトはセンスありますね」
涼子はふと窓際の席から地上の景色に視線を落としては、意を決したかのようにアキラに尋ねる。
「詩音とはうまくいっているの?」
アキラは沈黙した。詩音とのことはなんて説明すれば良いか解らなかった。
涼子はその隙を逃さなかった。
「うまくいっていないなら、私にもチャンスあるかな」
「え?」
涼子は嬉しそうに窓の外を眺める。アキラは涼子が一瞬みせた乙女な表情に、星の王子様に出てくる、友達がいないバラの儚さのようなものを感じていた。
フライト中、アキラと涼子は夢を語り合った。その中でアキラがたどり着いた未来は、プロの小説家になって、普通に結婚して奥さんに子供を産んで貰い育てるという平凡な夢だった。
那覇空港に降り立つと、異国に来たかのような錯覚を覚えた。そういえば、ここ沖縄は江戸時代までは、琉球王国として約450年栄えた歴史がある。主に中国や東南アジア諸国と貿易して栄華を極めた。焼酎などももともとはシャムから琉球を経由して日本にもたらされたものだ。そして、空手の発祥の地でもある。
涼子は『めんそーれ』と書かれたウエルカムボードを見て、まるで新婚旅行に来たみたいだねと言う。
アキラは頭を抱えて
「涼子さん。僕たちは事件を解決しにきた探偵なんですから」
と言うと、新婚旅行気分の涼子には全く聞こえていない。
「ねぇアキラ君。那覇空港のサーターアンダギ―って美味しいの?」
涼子は悪びれもなく尋ねる。元宮と恭子の行方など興味ないといった感じだ。
「那覇空港の2階にある琉球村空港店のサーターアンダギーだったら、揚げたてで美味しいと思いますよ」
「寄ってっていい?」
涼子は観光気分にでも浸っているのだろう。アキラはハァと半ばあきれ顔で了承した。
到着ロビーからエスカレーターで2階まで登る。DFSの免税店や地元の食材を使ったレストラン、スイーツの専門店などこれから出発する人達で溢れかえっていた。
時刻は19時を悠にまわっていた。到着の予定よりは気流の影響で遅れたようだった。
「実は沖縄には数えるくらいしか来たことないんだよねぇ」
涼子は片手にルイヴィトンの長財布を持ち颯爽と歩いていく。
「でも、僕も沖縄は母の故郷ですけど、両手で数えるくらいしか来たことありませんよ」
「へぇ、意外だね」
「まぁ、主に法事とかで帰省するだけですからね」
「アキラ君のパワーストーン屋さんは沖縄にあるんじゃないの?」
「えぇ、沖縄に本店がありますけど、インターネット店がメインなので、沖縄での研修期間が終われば、東京にいてもお仕事できますから」
サーターアンダギーのお店にたどり着くと、涼子はアキラの分まで含めて4個も購入した。揚げたてのサーターアンダギ―は、すぐにぺろりと2個くらい食べてしまえるくらい、味に癖がなくて、子供の頃に駄菓子屋で買った4個入のミニドーナッツみたいに、シンプルで優しい味付けなのが特徴的だ。
「さて、恭子の行方を捜しに行かなきゃね」
涼子がそう言うと、到着ロビーまで戻り、スーツケースを受け取る。とりあえず宿を確保するため、タクシーで国際通りまで出ることにした。
詩音と沖縄に来た時は、ハイアットリージェンシーという5つ星ホテルのスイートルームだったが、涼子とだったらビジネスホテルで別々の部屋をとるということも考えられた。
タクシーで移動している最中に、スマホでホテルの空き部屋を探したが、この観光シーズン中の沖縄にはホテルはほぼ満室で、コンフォートホテルというビジネスホテルならば二人部屋が空いていることが解った。
「アキラ君。申し訳ないけど、私と同じ部屋でいいかしら」
「別に構いませんよ」
「じゃあコンフォートホテルで2人部屋を予約するね」
涼子はそう言って、タクシーの運転手にコンフォートホテルの近くで降ろしてくださいと告げる。現代社会では、スマホで簡単にホテルの予約を取ることができる。恵まれた時代に生きているのかもしれない。
車は国道331号線をひた走る。車内はクーラーが効いていて涼しいが、外に出ればTシャツ一枚でも汗だくになりそうなくらい、真夏の沖縄は日差しが強く、針で肌を刺すかのようにヒリヒリして痛い。
県庁前までたどり着くと、タクシーを降りて、運転手がトランクに入れたスーツケースを降ろしてくれた。
コンフォートホテルまで歩いている間、焼けるような太陽の日差しが眩しくて、アキラは胸元にぶら下げていたサングラスをかけた。
夕方の国際通りは観光客で賑わっている。皆それぞれに異国情緒あふれる琉球王国の歴史を感じながら、本土では滅多に見かけない珍しい沖縄土産を物色したり、カップに盛られたアイスを食べながら歩いていたり、中国語や韓国語も入り混じって、あらためてここは琉球王国なのだと再認識する。
コンビニの向かいにホテルを見つけると、小腹が空いたねと涼子が言うので、そのまま買い物をすることにした。
焼けつくような外の暑さに比べて、店内は空調が効いていて天国だ。涼子はスパムおにぎりとさんぴん茶をかごにいれると、アキラはコカ・コーラとタバコだけを買った。アキラにととって、夕暮れの時間とは晩御飯を美味しく食べるためのカロリー消費の時間なのだ。
タバコとコーヒーさえあれば昼飯すら食べなくても良いとアキラはそう思っている。
コンフォートホテルの受付でチェックインを済ませて、一階の奥にある食堂でウエルカムドリンクを飲んだ。涼子はそれを見ているだけだった。もう37歳だから、顔がむくむのを嫌って水分はあまり摂らないようだ。
しかしながら、真夏の沖縄の殺人級の暑さに耐えかねて、ペットボトルのミネラルウオーターは常に持っておきたいようである。
涼子のマジカルナンバーは6。これは深層心理と呼ばれる鑑定項目から導き出される運気があがるナンバーなのだ。偶然にも二人が泊まる部屋は、涼子のマジカルナンバーである6階だった。運気が上がっている証拠だろう。
部屋に入った途端に、涼子がスーツケースからミニ鍵盤を取り出して、指慣らしを始めた。ピアニストという人種は一日でも練習をさぼるとそわそわして落ち着かないようだ。
アキラは書きかけの小説が気になっていたが、元宮と恭子失踪の謎を突き止めるため、元宮が経営するコーヒーショップの所在地を調べていた。アメリカンビレッジにあることは知っていたが、他にも、サーフ系ブランドのアンダーサバーを務めていたりするから、ショップ店員に聞けば、足取りがつかめるかもしれない。
元宮のマジカルカラーは青。幼少期からサーフィンを嗜んできた彼だからこそ、マジカルカラー青が持つキーワードの海とは切っても切れない関係にある。一方で、運気が最悪な時に一番行ってはいけない方位に来てしまったと予測される片瀬恭子は、マジカルカラーが白だ。マジカルカラー白は置かれている環境に影響されやすい。涼子の説明によると恭子は看護師をやっていて、ボランティアで保護猫の里親を探すNPO法人のお手伝いをしていたらしい。看護師資格を取るくらいだから根が真面目で、患者の死に対しても真摯に向き合ってきたに違いない。しかも、恭子の父親は早くに他界しており、片親で育てられたという。シングルマザーの経済事情はよく解らないが、涼子と同じ中高一貫教育の同級生だったことを思えば、一般的な家庭よりは裕福な暮らしをしていたはずだ。
アキラはアイデアが煮詰まって、タバコが吸いたくなった。部屋は禁煙ルームだが、風呂場に行って換気扇を回し、タバコに火をつけた。
こうして、タバコを吹かしている間は、禅の瞑想みたいに無の境地になれる。その溢れ出るアイデアや回想からヒントを得て、小説の執筆に活かしているのだ。
アキラはゆっくりと瞳を閉じていく。元宮と恭子が同じ時期に失踪した。二人が行動を共にしているのはほぼ間違いないように思えた。しかし、恭子がうつ病を患っているかもしれないことを思えば、先に恭子が失踪して、恋人である元宮が恭子の後を追いかけた可能性だってある。謎はかなり複雑に思えた。
今のところ占術というツールを使って沖縄にいる可能性だけを頼りに、涼子と謎を解きに来た。小説家志望のアキラにとって、これがはじめてのミステリーである。
ふと元宮が歌っている歌詞を思い出す。食べる分それ以上、身に着けるものそれ以上、渇きを潤すのに一体何が必要?
アキラは換気扇の真下にいて、天井を見あげた。ドレミファソラシドの音階が螺旋を描くように、自由自在に舞っていく。元宮が創る音楽は数学的であり、仏法哲学でもある。
自殺を考えるような奴ではないことならば、アキラが一番よく知っている。
元宮は小学校の時、目立ちすぎたがゆえに、軽いイジメにあっていた。音楽家になって有名になってからも、彼のネームバリューを悪用する奴がいた。女に彼の友達であることを話せば簡単に興味を持って付いてくる。性欲盛んな若い頃に成功したが故、彼は利用され続けて、心に深い傷を負ったのだ。
元宮はなぜ涼子ではなく片瀬恭子に心惹かれたのだろうか。ジャンルは違えども、同じ音楽家同士ならば、元宮と涼子がくっつくのが自然な流れではないだろうか。
アキラはタバコを吸いきって、濡れたクロスで天井や壁、床などをピカピカに磨いていく。たかだかタバコ一本の煙くらいで掃除するくらいならば、はじめから表で吸えばよかったなどという考えはなく、もう無意識化のレベルまで習慣化されている。アキラは入る前よりも奇麗に磨き上げてお風呂場を出る。
涼子は狭い室内で、なるべく動かないように椅子に、じっと座って読書をしていた。アキラはそれを横目で見ながらも、ベッドにダイブし、片手に顔を乗せて、静かに涼子のことを眺めて空想に耽っていた。
音楽家という人種は不思議な生き物だ。売れない時期から苦楽を共にしたバンド仲間ならば、勝手に男女が結ばれるというケースもあり得る。が、異なるジャンルのアーティスト同士が結ばれるというのはあまりないのかもしれない。それに涼子はマジカルカラーが赤で派手好みだ。パーソナルは智を持っている。このパーソナルという鑑定項目は、お仕事の適正や性格を見ることに長けている。パーソナル智は、芸術的センスが高く、頭も良い。人が盲点となるようなことを察さり見抜く洞察力にも長けている。
詩音のパーソナルは匠で、やはり芸術方面で才能を持つ方が多いが涼子の持つ智と詩音の匠は、ゼロから一を生み出すのが智であり、その一やニを限りなく10や究極まで高めていくのが匠なのである。
詩音はマジカルカラー藍で、深層心理には星を持つ。それを数値化すると、マジカルナンバー7となり、心の奥底で目立ちたいという願望を持っていて、友人や周囲の人間からは、お洒落でロマンティストに見えている。
全てを数値化すると『777』というぞろ目のナンバーになることが特徴的だ。ラッキーナンバー1という数字からは、異性問題に対して潔癖であることが解っている。涼子のラッキーナンバーは8だ。この数字は、異性関係で特に性にたいして割と自由奔放で、セックスに対するハードルがかなり低いことを表している。簡単にいえば、変態的資質を持ち、性欲盛んだということだ。
アキラはベッドに大の字になり、これまでの経緯を簡単にイメージしてみた。
そもそも、悪友の竹田と地元の蒲田で酒を飲んだところから話がおかしな方向に展開していった。アキラと竹田の相性は壊し壊される安壊という関係性だということも解っていた。しかし、竹田の方から誘われれば長年の付き合いからして断れるわけもない。その結果、欲に負けて風俗に行ってしまった。そして、そのことが詩音にばれて一方的に別れ話を切りだされて出て行ってしまった。
詩音との関係性はこの世に二つとないほどの愛し愛される運命の女性だったはずだ。
しかし、詩音の先輩である藤原涼子とも、天地徳合という夫婦になるには最良の相性と出てしまった。涼子とは流れに身を任せて、身体の関係の一歩手前まできてしまった。詩音のことを大切に思えば思うほど、出会って3日目でヴァージンを奪ってしまった自分自身の無責任な行動に嫌気が差す。それでいて、自分は風俗遊びに興じているのだというのだから、もうホームレスなんかよりもよっぽど、人間として最低だと思う。
ホームレスだって、莫大な借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなってしまった人間が、借金取りに居場所を知られることを恐れて、福祉にも頼れないほどに追い込まれた人間が陥るものだと、勝手に推測している。それでも、死ぬに死ねず、ぼろぼろで洗濯もしていない衣服を纏い、ごみ収集の日に空き缶を集めて、それを業者に買い取ってもらい、幾ばくかの金を手にして、寒さをしのぐためワンカップの酒を買って酔っぱらう。少しでも教養がある人間だったら、素直に福祉の力を借りれば良いのにと思い、ホームレスの気持ちなど到底、理解できない。好きでホームレスをやっているとしか思えないからだ。
アキラは瞳を閉じてさらに想いを巡らす。
詩音とはじめて帝国ホテルで会った時のこと。
ディーゼルのジーパンにヒステリックグラマーの白いロングTシャツ。その上に、藍色のジャケットを羽織っていて、一目みた瞬間に、この世のものとは思えないほどの、可愛らしさと奇麗の良いところ取りした顔を見て、恋の予感が走った。
無理やりハイヤーに押し込められて、沖縄へと旅立つ時、
「アキラ君。悪いけれど、沖縄では婚約者という設定にしたいの」
と言われて、それからはアキラと呼び捨てにされたこと。
琉球入り3日目の昼下がり。マジカルカラー緑の占術師絢香と詩音が喧嘩越しに言い合いになったこと。
「年収一千万円くらいで威張らないで下さい。私は資産の配当金だけで悠に億を稼いでますから」と詩音が語気を強めて言うと、絢香は「仕事の邪魔だから帰って下さい」とやんわり白旗をあげた。
女性関係で秘密を持ちがちな自分のことだから、いつかこんな日が来るのではないかと心のどこかで感じていた。
熱心な仏教徒でありながら、自殺未遂を犯し、キリスト教への強い憧れを抱きながら周囲を欺いて生きてきたこと。裏切るということは、一体どのようなことなのだろうか。
そして、強く仲間の幸せを願えば願うほど、心が離れていく。
アキラは回想した後、たまらなくせつなくなって、勢いよくベッドから身を起こした。涼子がそれに気づき、こちらを眺めながら微笑んでいる。心の全てを見透かされているような不思議な気持ちになる。
「さて、アキラ君。そろそろ恭子の行方を捜しにいきましょうか」
「そうですね。でも、ちょっと待っていて下さい。占術のメンターに詳しいことを占って貰ってますから」
「そうなの?」
「あてずっぽうで探すよりは、占術が科学であることを信じたいのです」
「占術が科学?」
「はい。科学とは再現性の高さだと教えられました。誰がやっても同じ結果が出ることを科学だと言うのならば、占術は未来さえも教えてくれている。そう信じているのです」
「解ったわ。アキラ君がそこまで言うのならば、私も信じる気になってきたわ」
「ありがとうございます」
「それで、いつごろ鑑定結果が出るの?」
「遅くても今夜中には結果がでます。それまでは、自由行動でも良いですよ」
「それならば、せっかく沖縄に来たんだし、少し観光しましょうよ」
「観光ですか?幼馴染が大変な状況かもしれないのに……。よくそんな気分になれますね」
「アキラ君。私も神様の教えを少しだけかじってるから解る。所詮この世は、神々が創り上げた演劇よ。生きていることにだって、死ぬことにだって何の意味もないもの」
「それって、なるようにしかならないってことですか?」
「アキラ君は男だから解らないのよ」
「え?」
「そもそも、出会いのタイミングは選べないもの。女は結婚すれば旦那さんの運命によって幸せか不幸化が左右されるわ。でも、その出会いだって自分で選んでいるようで、実は神様が決めている。女は受け身っていうけど本当の事よ。素敵な人と出会えれば幸せだけど、実際に生活を共にしてみて、はじめて解ることもある」
「そのことが、元宮たちを心配しないことと何か関係あるんですか?」
「アキラ君。所詮はね、恭子も元宮君もいい大人だもの。こんなこと言ったら嫌われちゃうかもしれないけど、仮に死んでいたとしても、私たちには何の罪もないってことだけは言っておきたいわ。私だって恭子のことが心配でなんの根拠もなく沖縄まで追いかけて来たことは真実よ。けれどもね、人が死にたいっていう気持ちって、もしその気持ちが真実だったとしたら、誰にも止められないと思うのよ」
アキラは涼子の言うことに特別な異論はなかった。詩音との最後のやりとりの中で、自分自身が犯した罪と、元宮たちが死んでいるかもしれないという憶測とが、勝手に脳内を混乱させているのだ。
「じゃあ。恭子さんの身を案じて沖縄まで来たのは、虚栄だったってことですか?」
「アキラ君。小説家志望なら日本語は正しく使おうね。虚栄ってのは見栄やうわべだけのプライドって意味だよ。私は見栄っ張りで、プライドが高く見えるようだけど、虚栄心から幼馴染を探すなんてあり得ない。それよりかは、単純に好奇心を持っただけよ」
「好奇心?」
「あなたにね」
涼子はそこまで言うと、不意にアキラの首を掴み引き寄せてキスをした。アキラにとってそのキスは自分が吸ったタバコのフレーバーがして、ほろ苦いものだった。




