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工事現場の邂逅

「ビンゴ」


 工事現場から少し離れた藪の中で悠馬と神島は息を殺して様子を窺っていた。

 2人の眼前には20メートル程にわたって大きく掘り返された地面が広がっている。


 その脇にはかなり大型のパワーショベルが停められていて、黒と黄色でペイントされた棒が三角コーンにかけられ現場全体を囲っていた。

 三角コーンの先に所々設置された赤く光るランプが、関係者以外が近寄らないよう、まるで威嚇するかのように点滅を繰り返している。

 今夜はもう工事が終わったのか、人気のない工事現場は夏の夜を歌い上げる鈴虫の音色に包まれていた。


 その中にあって、明らかに場違いなスーツに身を包んだ男がただじっと工事によってむき出しになった太いパイプに手を当てていた。

 俯きながら片手を当てている姿は、まるで祈りを捧げているようにも見える。


「悠馬はここで待機してね。あと……」


 神島はパーカーのポケットをごそごそ探って取り出した携帯を悠馬に手渡す。


「これでウッキーとジョシュに此処が当たりって伝えといて」


 とりあえず携帯を受け取る。


「1人で突っ込む気か? 2人が来るまで待った方がよくないか?」


 神島が強い決意の篭った目を悠馬に向ける。


「そんな暇ないわ。いつ奴の攻撃が始まってもおかしくないのよ? 大丈夫。2回戦ってアイツの攻撃はもう十分把握済み。私一人でも楽勝よ」


 可愛らしいウインクを見せる神島。


「それよりも悠馬。アンタこそ出てきちゃダメよ。足手まといになるだけなんだから。あと、もし……万が一、私が倒されたらその時は全力で逃げなさい」

「……」


 悠馬は自分がどんな表情を浮かべているか分からなかったが、恐らく納得いかないという顔を浮かべていたのだろう。


「あのねぇ、私に課せられた任務は悠馬の護衛も含まれているのよ。両方の任務を失敗だなんてカッコ悪過ぎ。そんなの耐えられないわよ」

「……」


「まあそんな心配はする必要ないけどね。私が負ける訳ないし。とりあえずサクっと倒してくるわ」


 そう言い残して神島は藪から飛び出していった。

 その小柄な体に肩を並べる事の出来ない不甲斐なさをかみ締めながら、悠馬は今自分が出来る唯一の事を成すために神島の携帯を開いた。





「ちょっとそこのお兄さん。今夜の営業時間はもう終わりよ。とっととお家にお帰りなさい」


 突然現れた邪魔者に驚きもせず、パイプに触れた手は離さないまま皆盛は顔だけ彩音に向けた。


「これは失礼した。だが君の様な子供こそもう寝る時間だよ。こんな所に居ないでお家に帰ったらどうだい?」

「いいからそこからどけって言ってんのよ!!」


 怒声と共に彩音は握っていた数個の石を投げつけた。

 狙いは違わず炎を纏った石礫はすべて皆盛に襲い掛かる。

 膨大な熱量を伴う石礫だ。

 当たったらただではすまない。


 さすがに皆盛はパイプから手を離し、バックステップで石礫をかわす。


「よく此処に気が付いたな。だが他の2人はどうした? 今日はお嬢ちゃん1人で相手してくれるのかな?」


 彩音が炎の刀を生み出しながら皆盛との距離を縮めていく。


「アンタなんか私1人で十分よ」

「ずいぶんと舐められたものだな」


 いつの間にか皆盛の右手に握られていたペットボトルが内部から弾けて、あふれ出した水が剣の形に収束していく。


「私はね、アンタみたいに自分の不幸の穴埋めに他人の不幸を使う奴がだいっ嫌いなの」

「やれやれ。俺の事を勝手に調べたのかい? 理不尽だなぁ。でも君だって似たようなものじゃないのかい? 手に入れた力を堂々と振るいたいからそんな仕事してるんだろ?」


 彩音の表情がその色を失っていき、言葉の温度が一気に下がった。


「アンタと話しても一生分かり合えそうにないわね。もういいから大人しく脳みそ燃やされときなさい」


 その言葉が合図になるかのように炎刀と水剣が激しくぶつかり合った。

 お互いのギフトが干渉しあって、切り結ぶたびに青白い閃光が飛び散る。


 2人の剣の技量にそれほど差は無いように見えた。

 ただスピードにおいては彩音が、パワーにおいては皆盛が勝っている。


(長引くと私が不利ね)


 一気にケリを付けようと彩音がスピードに任せて連撃を叩き込むが、時に剣で、時に左手に宿した水を上手に使って皆盛はその全てを捌ききっていく。

 その合間合間に繰り出される皆盛の重い一撃が、確実に彩音の体力を削りとっていく。


 突破口を探っていた彩音は直径2センチほどのパイプが何本か地面に転がっているのを見つけた。

 皆盛のちょうど真後ろになるので気づかれていないはずだ。

 彩音は連撃のスピードをさらに増して皆盛を徐々に後ろへと押し込んでいく。

 そしてついに狙い通り皆盛がパイプに足をとられて大きな隙が生まれる。


(とった!)


 がら空きになった胴に刃を返して背の部分で打ち付けるように炎刀を叩き込む。

 だが、予想された感触は生まれずそのまま炎刀は水使いの胴を()()()()()反対側から出て行ってしまった。


 予想外の事にバランスを崩した彩音の隙を見逃さず、皆盛が必殺の一撃を叩き込む。

 空中で炎を爆発させ、その勢いで何とか水剣の一撃をかわしたが完全にはかわしきれず、左肩に鋭い痛みが走る。


「くっ……物質……透過……」


 右手で左肩を抑えながらうめくように彩音が言葉を紡ぎ出す。


「正解。まさかお前らごときにこの能力を見破られるとは思わなかったよ。しかしどうするね? この能力がある限り俺を倒す事は不可能って事ぐらい分かるよなぁ」


 皆盛が馬鹿にしたようないやらしい微笑を浮かべて勝ち誇っている。

 彩音がゆっくり右手を左肩から離していく。

 その手の平には血がべったりと付いていた。


「ハッタリね。もし本当にどんな攻撃でも透過できるならなんで最初の石はわざわざ避けたの? どうせ複数の物を同時に透過させる事が出来ないってショボイ能力なんでしょ? その程度で勝ち誇るなんてバカじゃない? どうやら脳みそ燃え尽きちゃってるみたいね」


 そういうと彩音は両手に炎の刀を生み出した。


「二刀流とは恐れ入った。しかしその傷では少々、無理があると思うぞ」


 その言葉に答える代わりに、一気に間合いをつめ左右からの斬撃を繰り出す。

 しかし皆盛の言った通り、先ほどまでのスピードは無くしかも両手で扱っても非力だったものが二つに分かれたため彩音の生み出す斬撃は一撃一撃がさらに軽くなってしまっている。


「あきらめたらどうだい?」


 もう何度目だろう、皆盛の強烈な一撃を殺しきれずに吹き飛ばされ、地面に手を付いている彩音に哀れむような口調で声をかける。

 しかし彩音はあきらめる事無く再び立ち上がり、もう一度両手に炎刀を宿す。


「寝言は寝てから言いなさいよね」


 そしてそのまま再び皆盛に向かって斬り込んで行く。


「まるで駄々っ子だな」


 そしてこれで終わらすとばかりに両手で持った水剣に渾身の力をこめて迫り来る彩音に向かって剣を振り下ろす。

 3本の本来この世に存在しない刃がぶつかりあい稲妻を伴う閃光を生み出していく。


 その結果、やはり吹き飛ばされたのは彩音だった。


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