疑念
「どう? 変化はない?」
『なんもみえんなー、来るならはよ来いっちゅうねん』
悠馬と神島、ジョシュアは以前、皆盛と戦った浄水池で待機していた。
浮島だけ得意の目を使って監視するために、管理棟の屋上にその身を置いている。
サイクロプスから借りたインカムを使っているのでコミュニケーションには不都合しない。
悠馬達が到着してからすでに2時間以上経過していた。
19時をすでにまわっているので、ここからでは確認できないが、外はすでに暗くなっている頃だろう。
「まったくね。こんな事ならなにか食べ物とか買ってくればよかったわ」
浄水場には喫茶店に毛が生えた程度の食堂があったが、浄水システムを動かす最低限の人員以外はすでに退避させてあるので、当然閉店している。
「悠馬、暇つぶしになんか面白い話してよ」
「無茶振りだなぁ。俺はジョシュ見てるだけで結構面白いぞ?」
そのジョシュアはこの2時間ずっと、この部屋における最もカッコのいいポーズを研究し続けていた。
「……たまに、ほんとにたまにだけど、バカって人生楽しいんだろうなーって羨ましくなるわ」
『くそ暑い中、外で能力使いつづけとるワイをのけ者にしてえらい楽しそうやんけ』
神島が心底めんどうくさそうに答えた。
「ただの1ミリだって楽しくはないわよ」
そのやり取りに苦笑いを浮かべながら、ジョシュアの観察にもそろそろ飽きてきたので悠馬も会話に加わる事にした。
「俺が言うのもなんだけど、本当に来るのかな?」
『さあな。せやけど水使いの目的を考えたら此処には必ず来るはずや』
悠馬はその事にちょっと違和感を感じていた。
皆盛のプロフィールを聞いた限りだと、行き当たりばったりで行動する感情的なタイプではなく、用意周到に事を進める知的なタイプのように思える。
そんな男が立てた一世一代の大復讐劇にしては計画が杜撰すぎないだろうか?
いくら能力の調査の為とはいえ、浄水場がキーポイントになっている事がばれるような事をするだろうか?
そんな事をしたら警戒されて、容易には近づけなくなる事など子供にもわかるというのに。
「なあ、なんで皆盛はわざわざ警戒される事が分かっていて、此処で実験なんかしたんだろう?」
「実験がばれないと思っていたんじゃないの? 実際、私達が気づいたのも裏技みないなものを使ったからだし」
『いや、そうとも言えんで。襲われた警備員はほっといたら確実に死んでたやろうし、何かしら事件にはなっとったはずや』
「必要以上に建物を破壊して事件を大きくしようとした節もあったな」
2時間以上考えた挙句、もはやどうなっているのか訳が分からなくなったポーズでジョシュアが意見を述べた。
「そうなると益々わからないな。なんでリスクを上げる必要があるんだ?」
『それはワイも気になっとってんけどなー』
「そうねー、どんなに警備を固めても突破する自信があるとか?」
『奴の準備の仕方からすると、リスクを犯すゆーよりは出来るだけ減らすってタイプやと思うねんけどなー』
そうなると悠馬には少し気が重くなる可能性が浮かんでくる。
つまりこれは陽動で、悠馬はまんまと利用されたという可能性だ。
「あんまり考えたくないんだけど、これが陽動って事はないかな?」
頭の後ろで括られたポニーテールをいじりながら神島が答えた。
「なくはない、わね。でも可能性は低いと思うわ」
「どこか他の場所でやろうとしてるとか、そんな可能性は?」
「ギフトってね、なんでもありに見えるかもしれないけど、結構発動条件があるの。個人の特定のものもあるけど、共通する制限が自分の体に触れている物にしか発動しない事。だから皆盛が水を爆弾に替えるためには直接、上水に触れなければならないの。流れている水を逆流していく力は無いみたいだから、上水に触れる事ができる最後の場所、つまり此処に来ないと目的を達成できないって訳。だから他の場所の可能性は薄いわね」
自分がまんまと囮に使われた、とういのはどうやら杞憂だったようで悠馬は胸をなでおろした。
「しかし喉が渇いたわね。目の前にこんなに水があるのに飲めないってのも皮肉な話ね。こんなことならせめてコンビニでペットボトルのお茶くらい買っておけばよかったわ」
まったくだと心の中で同意しながら、悠馬は初めてここで水使いに出くわした時の事を思い出していた。
あの時、奴はペットボトルを投げて攻撃していた。
今思えば、ああやっていつもペットボトルにいれた水を携帯して武器にしていたのだろう。
もちろんその当時はそんな事分からなかったのだが、緊迫した状況の中で投げ込まれたものがやたら身近なものだったので鮮明に覚えている。
水使いの手を離れたペットボトルが綺麗にくるくる回って……
……あれ?
なにか違和感がある。
悠馬はその正体を確認すべく、記憶を何度もリピートさせる。
そしてついにその違和感の正体を見つけた。




