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サイクロプス

 悠馬の報告を受けて4人は部屋の調査を即刻切り上げ浄水場へと急行した。

 家からは特にめぼしい手がかりはなにも見つかっていなかったが、元より皆盛が家にいなかった時点で詳しい調査をするのは調査部の仕事となるので別に問題はないらしい。

 悠馬の話を聞いた神島が直ぐにサイクロプスに連絡を取ったところ皆盛の姿はまだ確認されていないとの事だ。


 17時過ぎごろ、悠馬達は浄水場へと到着した。

 森に囲まれているため、あらゆる場所からステレオで蝉の鳴き声が響き渡り、思わず耳を塞ぎたくなるほどの騒々しさだ。


 以前にも来た事があるのだが、その時は夜だという事もあり何ともいえない不気味さを感じたりしたが、昼間に見る浄水場は本当になんの変哲も無い建物で、これからここで街の存亡を賭けた戦いが起こるかもしれないと解っていても絵空事の様に感じさせるような穏やかな雰囲気に包まれていた。


 駐車場はほとんど空の状態だったが、ジョシュアは迷うことなく一つの区画を選び車を停めた。なにかまたくだらないこだわりでもあるのだろう。

 駐車場に車を停めてそのまま施設内に向かうのかと思いきや、3人は右手に広がっている森の方へと向かっていく。


「おーい。おっさんいるかー?」


 森の直ぐ手前まで来ると、浮島が大声で叫んだ。


「おっさんではない。俺はまだ52だ」


 怒鳴り声と共にいきなり何も無かった空間に人が現れた。


「十分おっさんやん」


 現れたのはいかにもというか、ここ日本だよな? と再確認したくなるような風体のかなり大柄な人物だった。


 緑がベースの迷彩服に網が被せてある丈夫そうなヘルメット、片目は眼帯で顔中、髭で覆われている。

 ご丁寧にやたらぶっとい火がついていない葉巻までくわえていた。

 背中にはゲームで見た事があるような、やたら黒光りする大きな銃を背負っている。


 そのキャラの濃さにも驚いたが、そんな人物がいきなり現れた事の方が驚きだった。


「え? え? 瞬間移動!? この人もギフトホルダーなのか?」

「違うわよ。サイクロプスにギフトホルダーはいないって説明しなかったかしら?」


 そのやり取りを聞いて、髭の大男が悠馬をまじまじと見つめてきた。


「ほう。君が噂の片瀬悠馬君かね?」


 どんな噂なんだろうと少し気になる。


「は、はい」

「俺はこの部隊の隊長をやっている藤崎巌(ふじさきいわお)だ。よろしくな」


 そういうと、体に似合わず人懐っこい笑顔を浮かべて握手を求めてきた。


「ちなみに今のはただ気配を殺していただけだ。別にギフトなんて無くても訓練で誰でも出来るようになる、ただの技術だよ。」


 誰にでも身に付くという所に少し興味が引かれたが、身に付けた所で何の役に立つか直ぐには想像できない。


「そうだな、死ぬ一歩手前まで追い込めば1週間ぐらいで身に付くぞ。君は死にかけるのが得意なようだし、どうだ? やってみないか? 今なら漏れなくウチの部隊に入れる特典付きだぞ?」


がはは、と笑いながらいきなりスカウトをしてきた。


「え、遠慮しときます。俺には平穏無事に人生を過ごすという大きな夢があるので……」

「そうか。それは残念だ」


 藤崎はかなり落胆していた。

 どうやら真剣にスカウトしていたらしい。


「どうせ悠馬がサイクロプスに入っても3日で戦死するわよ。それよりも電話で話した通り……」

「ああ、直ぐに俺たちは皆盛のアパートへ急行する」


 いつも通り悠馬だけ話についていけない。


「え? 皆盛の奴ここに来るんだろ? 戦力を分散しないほうがいいんじゃねえの?」


 神島に向けた質問だったのだが藤崎が答えた。


「俺たちサイクロプスとギフトホルダーが一緒に戦う事はあまりない。戦いのスタイルが違いすぎるのだ。基本、一対一もしくは少数で戦うギフトホルダーに対して、俺たちは数で勝負する。だから戦いの場に俺たちがぞろぞろいると味方のギフトホルダーの足枷になりかねんのだ」


「つまり飛び道具同士で戦っている所に刀を振り回して突撃するようなものね。どちらが強いというよりも相性が悪いのよ」


 それにね、と神島が続ける。


「悠馬の話を疑う訳じゃないけど、皆盛が嘘をついた可能性も捨てきれないし。アイツの家には調査部が向かっているからその護衛が必要なの。帰ってくる可能性もあるからね」

「なるほど」


 藤崎が右手を悠馬に向けながら口を開いた。


「さて、片瀬悠馬君。君はどうするかね? こう言ってはなんだが君はなんの力も持たない一般人だ。そしてここは今から戦場になる可能性が高い。君が希望するなら我々で身柄を預かり安全な所に非難させる事も出来のだが?」


 そう言われて悠馬の心に様々な思いがよぎる。

 もちろん安全な場所に居たいというのも偽らざる正直な気持ちだ。

 だが先ほどの様にただ結果を知らされるのを待つだけというのも辛い。

 それに今更、自分だけ安全な所に引っ込んでしまったら一生後悔しそうな気がする。


 色々な思いが浮かんだが、そのどれもが身を守りたいという本能を押さえ込むための理屈だったり、言い訳だったり願いであることに気づいた。


(なんだ。結論はでてるじゃねえか)


 悠馬はこの3人と一緒にいたいと思った。

 だがその自分の気持ちとは別次元の問題がある事にも気づいてた。


「俺……ここに残ったらやっぱり邪魔かな?」


 その言葉を受けて、


 ジョシュアがサングラスをくいっとあげ直した。

 浮島がいつものにやけ面にいたずらを思いついた様な表情を加えた。

 神島がめんどくさそうにこちらを向いたが、口元は嬉しそうに笑っていた。


「ふっ。俺たちを誰だと思ってりゅ」

「少年がおったほうがワイは楽しいなぁ」

「言ったでしょ。私達は強いのよ。悠馬を守りながら戦うくらい朝飯前よ」


 それを聞いて藤崎が再び人懐っこい笑顔を浮かべた。


「了解した。それじゃ片瀬悠馬君、この件が片付いて死んで無ければ一杯おごらせてもらおう」

「俺まだ未成年……」


 悠馬が言い終わる前に、出てきた時と同様、唐突に藤崎の巨体は霞の様に消えてしまった。


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