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それぞれの事情

「皆盛の背景が大体わかったでー。どうやらかなり頭のええ奴みたいでな、東大を現役合格しとるねん。やけど順調やったんはそこまでで、親が親戚の借金の連帯保証人になっとったみたいでな、よーある話やけど親戚が飛んで借金肩代わりさせられたみたいやねん。家財道具や家も売っても到底返せん金額やったみたいで夜逃げしたらしいわ。当然、合格しとった東大もいけずじまいや。

 んで、このアパートに引っ越してきて親子3人で暮らし始めた訳やけど結局、大学進学はあきらめて親和水道設備に就職したみたいやな。優秀な奴やったから結構ええ感じで出世しとったみたいやわ。ところが、例の借金の借用書がかなりたちの悪い所に渡ってもうた挙句、ついに居場所がばれてもうて、皆盛の会社にまで押しかけてきよったみたいやわ。

 で、厄介ごとに巻き込まれとーないとばかりに適当に理由をつけて会社が皆盛を首にしよったんや。それでな一度ならずも二度までも息子の人生壊してしもうた責任感じて両親が自殺してもたらしい。それ以降、皆盛はずっと引き篭もり状態やったらしいけど、ちょっと前に出かけていったきり、姿が見えんくなって今に至ると。まーこんなとこらしい」


 ひどい目に遭わされたとはいえ、この事情を聞くとすこし可哀想になる。


「悲惨だなー、それで復讐のために街を吹っ飛ばそうとしているのか。……まあ気持ちは解らなくもないな」


 悠馬が何気なく放った言葉に、神島が敏感に反応した。


「は? 何言ってるの? そんなの自分の腹いせの為に無関係な人達に力を使って八つ当たりしたいだけじゃない。いい歳した大人がガキみたいなこと言って馬鹿じゃないの」


 神島のあまりの剣幕に驚く悠馬。


「俺だって皆盛のやろうとしてる事に賛成してるわけじゃねーよ。だけどそういう事情があったら普通、ちょっとは同情するだろって話だよ」


「お優しいのね片瀬君。皆盛の所に行って慰めてあげたら? 泣いて喜んでくれるかもしれないわよ」


 そう言い残して神島は肩をいからせながら部屋から出て行ってしまった。


「……なんだよ、冷たい奴だなー」


 神島が出て行ったドアを見ながら呟く。

 まさか神島が此処まで感情を逆立てるとは思ってもみなかった。


「堪忍したってや、少年」


 浮島の方へ振り返ると、いつものニヤケ面ではなかった。


「境遇つうことなら彩音も重いもん背負っとるねん」


 浮島がすこし寂しそうに下を向いて言葉を続ける。


「彩音のギフトが発現したんはあいつが4歳の時でな、最悪のパターンやった。そのころ彩音に弟ができてな、今まで全部自分に向けられとった愛情が弟に取られてもた様に感じて寂しい思いをしとったらしいわ。それである日、わざと料理をひっくり返して母親を困らしたらしい。ちょっとでも自分に注意を引きたかったんやろうな。やけど母親はその事に気づかずに彩音をきつく叱ったらしいわ。こないな事は誰にでもあるごく普通のことやろ?」


 無言で頷く悠馬。


「せやけど不幸な事に彩音にはギフトが宿っとった。叱られたショックと今まで溜まったストレスが引き金になって彩音のギフトが暴走状態で発現してもたんや。うちの組織の人間が到着した時、燃え盛る炎の中で無表情の彩音が、ただのガラス玉みたいなった目から止め処なく涙を流しながらぽつんと立っとったらしいわ」


「母親はどうなったんだ?」


「ああ、かなりひどい火傷を負ったみたいやけど、命に別状は無かったみたいや。ただ、すっかり母親が怯えてもうてな、育てるのは無理って事になって組織で育てる事になったんやわ。彩音は頭のええ子やったから、自分の力のせいで親に捨てられたちゅう事をしっかり理解できた、いやできてもたんや。せやから彩音は自分の力の事を嫌っとるねん。望んで得たんやない力、そのせいでむちゃくちゃにされた人生、でもな彩音はそれを親のせいにしたり、八つ当たりせんと自分の中に抑えこんできたんや。せやから、不幸を理由に力を振るう事を正当化するやつが許せへんねん」


 悠馬の胸中に自責の念が広がっていく。

 客観的に見て、悠馬に非があるとは言えないだろう。

 だが知らなかったとはいえ、神島の心のデリケートな部分に無思慮に触れてしまった事には違いない。


「……俺、ちょっと神島の所に行って来る」


 すこし前に神島が出て行ったドアをくぐって悠馬が外に飛び出していった。


「ずいぶんと悠馬に肩入れするのだな」


 ジョシュアの言葉を受けて浮島の表情がいつも通りにやけだす。


「だってええ子やん。あの少年、ワイらや彩音の力を知っても普通に接してきよるやろ? 自分の置かれた状況にもえらいさっさと順応しとるし」


「確かにそうだな」


 ジョシュアの口元もすこし緩む。


「彩音もそろそろ外の世界に目を向けるべき時がきとると思うねん。素の自分が出せるんが組織の中だけって寂びしすぎるやろ? 人生は長いねんから力に囚われずにもっと自由に生きてほしいねん。あの少年がその切っ掛けになってくれたらええなと思ってな」


 ジョシュアが肩をすくめる。


「頌栄、お前まるで彩音の親みたいだな」


「はあ? きーわるいなー、ワイまだぴっちぴちの20代やで!? それをいうんやったらせめて兄貴とかやろー」


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