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繰り返される日常

 目覚まし時計が鳴り響いていた。


 ご主人サマである片瀬悠馬(かたせゆうま)を目覚めさせるために、その時計は持てる力の限りを尽くして鳴り響いていた。

 そしてついにご主人サマが深い眠りから目を醒ます。

 布団の中からごそごそと腕が伸びてきた。


 時計は思った。「ワレ勝利セリ」と。

 しかし伸びた腕はそのまま、ああよく寝たという感じで上には上がらず、時計の停止ボタンを割りと力いっぱい叩き付けるという暴挙にでた。

 ……

 しかし時計は挫けなかった。

 なぜなら彼? には人類の発明した最も偉大な機能、スヌーズ機能が搭載されていたからだ!


 そして時計は確信した。

 今日も長い戦いになる、と。


 片瀬悠馬が目を覚ましたのはかれこれ10回ほど目覚まし時計がひどい目にあった頃だった。

 高校生である彼は、ホームルームまでに登校しなければならないというルールに縛られている。


 残された時間はそれほど多くない。

 悠馬は全力で二階の自分の部屋から一階の洗面所に駆け込み、身支度を整える。

 時間が限られていても髪形のセットは納得がいくまで繰り返すのは年頃の男子なら仕方のないことだろう。

 その結果、朝食をとる時間がなくなり台所を素通りして玄関に向かう。


「ちょっと悠馬! また朝御飯食べずに行くの?」


 すこし怒ったような母親の声が背中越しに聞こえてくる。


「ごめん! 食べてる暇ねーわ」


 悠馬は靴を履きながら申し訳なさそうに答える。


「お兄ちゃん、あんなに早くに目覚ましかけても起きなかったら意味ないじゃん。朝ごはん食べなかったらバカになるよ。いやバカだから起きないのかしら?」


 悠馬の妹のちせりがやれやれといった感じで母親の援護射撃をしてきた。

 ちなみに彼女は近くの中学校に通っているので、上流階級のお嬢様よろしく優雅に朝食を楽しんでいる。


『ふふふ解ってないな、ちせりよ。二度寝こそ人生最高の贅沢ではないか!』(まあ実際には二度寝どころの話ではないのだが)と、心の中で叫んだが、実際に声に出して言うと酷いことを言い返されそうだったので心の中に仕舞いつつ悠馬は玄関を飛び出していった。


 悠馬の通っている学校は電車で30分程度のところにある県立の高校だった。

 レベルは中の上といったところ、サッカー部とテニス部が強いことでそれなりに有名な学校だった。


 悠馬自身は部活に入っていない。

 別に入りたく無かったわけではなかった。


 入学当時、何に入るか決めかねたまま一学期が終わってしまい、なんとなく今更な感じになってそのまま帰宅部になってしまった。

 悠馬としては優柔不断なこの性格をなんとかしたいとは思っていたが、そうそう簡単に性格は変えられない。


 最寄の駅まで小走りで5分、なんとか遅刻せずにすむ電車に乗り込むことが出来た。

 身動きひとつ出来ないというほどではないが、通勤時間帯の電車なのでそれなりに車内は混雑していた。

 なんとかつり革を確保した悠馬は流れる外の景色をぼーっと見ながら考え事をしていた。


(昨日と変わらない朝、今日も昨日と同じような繰り返しをするだけなのかな)


 すぐ前の座席で化粧を直している女子大生を見ながら思う。


(この繰り返しのまま大学に行って)


 悠馬の横でつり革に摑まっているすこし疲れた顔をしているサラリーマンを見ながら思う。


(そのまま会社に就職して)


 再び窓の外を見ながら思う。


(歳をとって、おじいちゃんとか呼ばれて死ぬのかな)


 もちろんそれが悪いことだとは思わない。

 むしろ幸せなのだろう。

 そもそも途中で病気になったり事故にあってあっさり死ぬかもしれない。

 おじいちゃんと呼ばれることができたなら間違いなく幸せなはずだ。


 ……だが、と悠馬の心は反抗の言葉を続けてみる。


 どうにも納得がいかない。


 このまま日常を繰り返すだけの毎日なんてひどく味気なくつまらないもののように思える。

 本当に自分は日常を繰り返すことしかできないのだろうか?

 自分の見ている日常が世界のすべてなのだろうか?

 見えていないだけで世界は別の顔を持っているのではないだろうか?

 人は自分の目で自分の背中を見ることはできない。

 だが背中は間違いなく存在している。

 見えている面のちょうど真裏に。


 世界もまた同じなのではないだろうか?

 普通の人が見ている日常の裏には、常識外の非日常があってもおかしくないと悠馬は思う。

 そしてその異常な世界への扉は、案外何気ないところに開いているような気もする。


 たとえば天気予報で晴れだといっていたのに雨が降ったり。

 しまっておいたはずの物がなくなっていたり。

 どう見ても客が来ているようには見えない店が潰れなかったり。


 普段、疑問に思っても深く考えないようなこうした出来事が、非日常世界で起きたトラブルの波紋として日常世界に伝わってきているのではないのか?


 そんなことを、とりとめもなく考えているうちに悠馬の乗った電車は、高校がある駅に到着した。


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