工業団地
15年以上前に小説を書くことがマイブームになって初めて書き上げた作品です。
当時はまだ異世界ものではなく異能力系全盛時代だったのでかなり影響を受けた作品になっています。
ここは日本のとある工業団地。
甘すぎる需要予測のもとに計画は進み、完成したもののほとんど参入する企業もなく大部分が空き地のままになっている。
それでも数社の工場が建ってはいた。
だが、海外の安い製品と長引く不況の影響を受けて、数年前にすべて閉鎖されている。
そのため今はまったく人気のないゴーストタウンならぬゴーストエリアとなっていた。
いわゆる廃墟マニアと呼ばれる人達には人気が出そうだが、普通の人は訪れる理由もなく昼間ならまだしも夜に人気があることなどこれまでなかった。
が、今晩は様子が少し、いや、かなり違っていた。
「ちょっと! アイツの能力なんなのよ!!」
廃工場には似合わない可愛らしい少女の声だった。
台詞の内容も可愛らしい少女があげるには似合わないものだ。
少女は困ったように髪をかき揚げながら片目をつぶっている。
「さてねー、まったくわかんねーわ」
こちらは軽そうな若い男の声、中途半端な関西弁だ。
「すこしやっかいな能力のようだな」
こちらも若い男の声だが、先ほどの男とは対照的に静かで落ち着いた声だ。
3人は工場に放置されていたコンテナの陰に背中を丸めて頭を突きつける様にして、ひそひそと相談していた。
緊迫している状況でなければ少しかわいい光景に見えるかもしれない。
「まあいいわ。アイツの能力がなんだろうと倒してしまえば問題解決ね。さっさと倒して帰るわよ。じゃないと明日の試験がピンチになるわ!」
「ワイは試験かんけーねーけどな」
その言葉に少女が言い返そうとした時、突如、廃工場に笑い声が響き渡った。
それは心の底から人を馬鹿にしたような、相手に嫌悪感を与えることだけを目的としているかのような笑い声だった。
本来収まっているはずのガラスが全て割れてしまった窓から差し込む月明かりが、薄っすらと笑い声をあげる男を照らしている。
「おいおい影に隠れてこっそり相談か? 三対一だからやばいかなと思ったけど、たいしたことないな。確か政府の秘密機関とか言っていたよな? やっぱこの国がやる仕事はどこか抜けている。まあいい、とりあえずお前たちは理不尽に俺に殺されておけ!」
男はそう叫ぶと手の中にあったものをコンテナめがけて投げつけた。
それは初め液体のようだったが、すぐに形を変え円錐状の塊となった。
その塊は後ろからすさまじい勢いでなにかを噴出させながら、さながらミサイルのようにコンテナに突き刺さる。
その衝撃でコンテナの側面がクレーターのようにへこみ、そして塊そのものが爆発を起こした。
その爆発でコンテナが後ろへ吹き飛び、後ろにいた三人を道連れにしようと襲い掛かる。
迫り来るコンテナをかろうじてかわしながら少女が叫ぶ。
「ファイヤーアローでいくわよ!」
「人間ミサイルやな。了解!」
関西弁がちょっと楽しそうに返事をする。
もう一人の男は心なしか嫌そうな顔をしている。
「腕力全開マックス!」
関西弁がそう叫びつつまるで砲丸を投げるかのようなポーズをとる。
「ふう」
もう1人の男が軽くため息をつきながらふわりと飛び上がり、地面と平行になる形で構えた男の手のひらに着地する。
ポケットに手を突っ込んでなんとか格好をつけようとしているようだが、必死であごを上げて前を見ながらマッチ棒の様に浮かんでいる姿は格好がいいとは言いがたい。
「乙女の純情ファイヤー!」
少女がわけのわからない掛け声をあげつつ発射台にセットされた男に触れる。
すると手品のように男が炎に包まれた。
「いいいいいいってらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
気合の入りまくった掛け声と共に、炎に包まれた男が、とんでもないスピードで敵に向かって投げられた。
先ほどまでは余裕を見せていた敵もさすがにこれは予想していなかったようで、引きつった表情を浮かべながら、すぐ傍にあったドラム缶に手を入れて何かを取り出そうとする。
そこへ火の玉男が発射された勢いそのままで激突した。
かくして哀れな敵は火の玉男に吹き飛ばされあっけなく倒された。
……とはならなかった。
衝突の瞬間、両者の間に月光を受けてキラキラと鏡の様に輝く壁が出現していた。
火の玉男の軌道は、その上をすべるように変えられ、そのまま工場の壁を貫通してしまい墨で塗りつぶしたかのような暗闇の中に消えていった。
ただ敵も完全には勢いを殺せなかったようで軽く吹き飛ばされ近くにあった水槽に叩き落される。
それは部品か何かを冷やすための水槽だろうか。
深さは40センチ程度で20センチぐらい水がいまだに入っていた。
水槽に落とされた男は特に怪我も負っていないようだが、立ち上がらずに薄ら笑いを取り戻しつつ口を開いた。
「少しだけ見直したよ。いや、あきれた、かな? ただ俺の目的はお前らを殺すことじゃないんでね。厄介な事になる前に逃げることにするよ」
そう言い終えた瞬間、男を中心に爆発が起こった。
その爆発は工場全体に広がったが奇妙な爆発だった。
いわゆる爆発音はなく、火も出なかった。
ただ強力な圧力を伴った真っ白な煙が辺りにあるものを吹き飛ばしながら暴力的に広がっていったのである。
その白い暴力は少女と関西弁にも襲い掛かる。
咄嗟に少女は関西弁の盾になるように飛び出し両手を前に突き出した。
彼女の手のひらからV字型の炎の壁が生まれ、圧力を後ろに受け流す。
圧力の波が収まった後は打って変わったかのように不気味な静寂が訪れた。
辺りは真っ白の闇に包まれている。
視界はせいぜい2、3メートルといったところか。
少女は神経を集中させ、手で口を覆い息を止めつつ、あたりの気配に注意しながら煙の正体を探る。
(酸や毒ガスって訳ではなさそうね。え?)
そこで少女は自分の体がシャワーを浴びたかのようにびっしょりと濡れている事に気づいた。
「これは……霧?」
「そうみたいやな」
なにかを考えながら関西弁が返事をした。
「なるほどね。水槽の水を一気に気化させて霧にしたってとこかしら。とういうことはアイツの能力は水を操る能力か……私の天敵ってことになるのかしら」
「どないやろうなー力の方向性にもよるからな。しっかしワイらを殺すことが目的やない、か。ありがたい話やけどそうなるとなんか他の目的を持って動いてるってことになるわな。どうせろくでもない事なんやろーなー鬱陶しいわ」
「とりあえず私の炎で霧を吹き飛ばすわ。さっさと追いついて脳みそ燃やしてやる!」
「まーもう逃げてもたやろうけどなー」
少女は返事をせずに手のひらから炎を生み出し次々と霧を払っていった。
しかしからっぽになった水槽には当然敵の姿はなく、辺りを捜索したが、見つかったのは捨てられた子犬のように落ち込んでいじけているミサイル男だけだった。




